第9回 日本軍は本当に無秩序だったのか
第9回 日本軍は本当に無秩序だったのか
南京事件を考えていると、
私はどうしても、
もう一つ別の疑問にぶつかる。
本当に旧日本軍は、
完全に無秩序な軍隊だったのだろうか。
もちろん、
私は旧日本軍を理想化したいわけではない。
実際、
戦場で不法行為が起きることはある。
どの国の軍隊でも、
極限状態になれば、
暴走や報復感情は起こり得る。
第二次世界大戦では、
日本だけでなく、
各国で民間人被害や捕虜虐待が発生している。
だから、
「日本軍だけは絶対に清廉潔白だった」
と言うつもりはない。
ただ、
それでもなお、
私は日本軍に対して、
「無秩序な集団」というイメージを持ちにくい。
なぜなら、
少なくとも日本の組織文化というのは、
かなり規律重視だからだ。
上下関係。
命令系統。
責任。
日本社会全体が、
そういう空気を強く持っている。
そして旧日本軍も、
少なくとも建前上は、
軍紀を非常に重視していた。
上官命令は絶対。
命令違反には厳しい制裁。
責任も重い。
そういう組織だった。
だから私は、
もし不法行為が起きたとしても、
本来は軍法会議や処分対象になる性質のものだったのではないか、
という感覚がある。
もちろん、
現実の戦場は建前通りにはいかない。
長期戦になれば、
疲弊もする。
補給不足も起きる。
極度の緊張や恐怖もある。
さらに、
敵味方の区別が曖昧になる状況もある。
特に便衣兵問題のように、
民間人と兵士の境界が崩れると、
現場は非常に不安定になる。
そうした中で、
過剰反応や、
違法行為が発生する可能性は十分ある。
だが、
それでも私は、
「日本軍全体が最初から虐殺を目的としていた」
という描き方には、
違和感を覚える。
実際、
軍隊というのは、
無秩序になれば戦えない。
命令系統が崩れれば、
戦闘そのものが成立しなくなる。
だからどの国でも、
軍隊は規律を重視する。
それは日本軍も同じだったはずだ。
私は時々、
現在の自衛隊を見ながら、
そこに日本社会の連続性を感じることがある。
もちろん、
時代も制度も違う。
旧日本軍と自衛隊を同一視するべきではない。
だが、
日本の組織文化として、
「命令」
「規律」
「責任」
を重視する空気は、
今もかなり強い。
だからこそ、
戦時中の日本軍が、
完全に無秩序な暴力集団として語られると、
感覚的に引っかかる部分がある。
もちろん、
これは「だから何もなかった」という話ではない。
戦争である以上、
不法行為は起こり得る。
しかも、
極限状態では、
組織ですら崩れる。
第二次世界大戦は、
まさにそういう戦争だった。
総力戦。
長期戦。
都市爆撃。
国家全体の疲弊。
普通の社会感覚そのものが、
壊れていく。
だから私は、
南京事件を含めた戦争犯罪問題について、
「日本軍は絶対悪だった」
とも、
「日本軍は完全に潔白だった」
とも、
簡単には言えない。
むしろ、
規律を重視する組織ですら、
極限状態では壊れてしまう。
そこに、
戦争そのものの恐ろしさがあるように思う。
国家も、
軍隊も、
人間も、
平時の理性を失っていく。
私は、
旧日本軍について考えるとき、
善悪だけでなく、
「組織はどこで壊れるのか」
という視点も、
必要なのではないかと感じている。




