表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界スローライフ誌編集長  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/39

第19話「薬草と病」

夜学の記事は、思いのほか早く村を越えて広まっていた。

 澪が前号に書いた「ハハコグサでの風邪対策」が町で評判になったのだ。


 「読んだよ、澪。うちの子、喉の痛みが軽くなったってさ」

 帰ってきたサミュエルがそう伝えると、澪の目がぱっと明るくなる。

 「ほんとに? じゃあ……この知識が人を助けられたんだね」


 村でも小さな出来事があった。

 ある子どもが風邪で寝込み、母親が困っていたとき、澪の記事を見た村の女たちがハハコグサを煎じて飲ませたのだ。すると熱が和らぎ、咳も少し落ち着いた。

 「魔法じゃなくても、人は癒せるんだ……」と母親は涙を浮かべた。


 その話を聞いた澪は、筆を握りしめた。

 「次はもっと多くの薬草をまとめよう。ゲンノショウコやドクダミなんかも――」


 エマが笑ってうなずく。

 「澪の字はちょっと丸すぎて読みにくいけどな。だが女たちは皆読みたがってる。『美しくなる方法も載せてほしい』って声まであるぞ」


 「美しく?」

 「ドクダミをすり潰して化粧水にすると、肌がすべすべになるんだ。うちの村では昔から知ってる婆さまもいるが、若い娘たちには目新しいらしい」

 その言葉に澪は頬を赤らめながらも、紙に大きく「ドクダミ化粧水――美肌の秘訣」と書き込んだ。


 こうして新しい号には、こう記された。

 ――「魔法だけではない。自然の力もまた、人を守り、美しくする」


 ◇


 一方で、広場では武の稽古が続いていた。

 カインは大人も子どもも混じる村人たちを前に、手首をつかまれた時の外し方や、体を斜めにして力を受け流す方法を繰り返し教えていた。


 「剣を抜かずとも身は守れる。力をぶつけ合うな、流せ」

 その動きは最初ぎこちなかったが、回を重ねるうちに村人たちの体が自然と捌きを覚えていく。


 木工職人のエマは、練習に使える盾を作って持ってきた。

 「軽くて丈夫な板を組んでみた。女や子どもでも持てるはずだ」

 男たちは感心して受け取り、試しにカインの突きを受け止めてみる。盾に力が流れ、踏ん張れば倒れない。小さな歓声があがった。


 ◇


 その様子を、アルトはじっと観察していた。

 カインの体の動き。踏み込みと体捌き。腕の振りと腰の回転。

 「……なるほど」

 彼は片手をかざし、炎を生み出す。次の瞬間、腰をひねりながら突きを放つカインの動作を真似て、掌から炎を前へ走らせた。


 炎の軌道が、いつもより鋭く、真っ直ぐに伸びる。

 「おお……!」子どもたちが驚きの声をあげた。

 アルトは淡々と呟く。

 「力を流す……か。武術と魔法は繋がるのかもしれん」


 澪は興奮して駆け寄る。

 「今のすごい! 武術の型で魔法を操ったんだね!」

 アルトは肩をすくめた。

 「まだ試しただけだ。だが、理にかなっている。力を効率よく通せば、魔法も精密に放てる」


 澪はすぐに筆を走らせる。

 ――「武術の体捌きで魔法の効率を高められる」


 彼女の誌面はますます厚みを増し、薬草と護身術、そして魔法までも結びつけていく。


 ◇


 その夜、焚き火の周りで村人たちは新しい号を回し読みしていた。

 「ドクダミで美肌か……」

 「ゲンノショウコは腹に効くんだな」

 「武術と魔法が繋がるなんて、夢みたいだ」


 子どもたちが素手で型を練習し、女たちが薬草をすり潰し、男たちが盾を磨く。

 その姿を見て、アルトは静かに思った。

 ――知識は確かに力へと変わりつつある。


 だが、領主の目もまた彼らを見ている。

 嵐の前の静けさのように、村には緊張と希望が同時に満ちていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ