表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界スローライフ誌編集長  作者: やしゅまる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/39

第13話「圧力と決意」

翌朝。村の広場に、鉄の鎧をまとった兵士たちが姿を現した。

 鎖帷子の擦れる音、馬のいななき。子どもたちは母親の背に隠れ、男たちは農具を手にしながらも動けずにいた。


 兵士の一人が前に出て、冷たく言い放つ。

 「領主様のお言葉である。この村で文字を教えている者がいると聞いた。さらに、庶民に魔法を使わせたという噂もな」


 澪とアルトに視線が突き刺さる。

 「無用な知恵は乱れを呼ぶ。字を教えることも、魔法を庶民に広めることも、ただちに禁ずる。違反すれば、この村全体が罰を受けると心得よ」


 広場は水を打ったように静まり返った。

 誰も反論できない。ただ恐怖が重くのしかかる。


 澪は奥歯を噛んだ。胸の奥に怒りが燃え上がるが、軽率に口を開けば村に被害が及ぶ。横に立つアルトも沈黙を守り、ただ鋭い目で兵士を見据えていた。


 兵士たちは命令を言い渡すと、嘲るように笑いながら去っていった。


 残された村人たちは重苦しい空気の中、ぽつぽつと声を漏らす。

 「どうする……? 字を教わるのも、魔法を学ぶのもやめるしかないのか」

 「見つかれば村ごと……俺たちじゃ領主には逆らえねぇ」


 誰もがうつむき、肩を落とした。


 その時、農夫のハルトが土のついた手を強く握りしめ、立ち上がった。

 「ふざけるなよ……!」


 皆の視線が彼に集まる。


 「俺たちはもう知ってしまったんだ。火をつける方法も、病を治す草も、子どもが字を書ける喜びも……! それを捨てろ? それは死ねって言うのと同じだ!」


 ハルトの声は怒りと涙で震えていた。

 「俺は昨日見たんだ……熱にうなされた子が、アルト様の魔法と澪さんの草で救われるのを。あれを奇跡って言わずに何て言うんだ! 領主の都合でそれを奪うなら、俺は……俺は従わねぇ!」


 どよめきが広がる。

 女たちが泣きながら頷き、子どもたちが目を輝かせて見つめる。恐怖よりも、胸に芽生えた希望の炎の方が大きくなっていた。


 澪はハルトの言葉に胸を打たれた。

 ――そうだ。人は一度知ってしまったら、もう元には戻れない。


 アルトが澪に目を向け、静かに言った。

 「澪。俺たちが背負うべきは決まったようだな」


 澪は大きく頷いた。

 「うん。もう隠れてる場合じゃない。知恵と魔法をもっと広げよう。ここだけじゃなく、隣の村にも、そのまた先にも」


 「危険は増すぞ」

 アルトの声には覚悟があった。


 「でも、命や暮らしを守るためなら。私は……“暮らしの雑誌”を書き続ける」


 その言葉に、村人たちが一斉に声を上げた。

 「俺も協力する!」

 「紙を作る手伝いなら任せろ!」

 「読み書きも、魔法も、もっと教えてほしい!」


 広場に響いたのは、恐怖に押しつぶされない決意の声だった。


 その夜。澪とアルトは小さな灯火の下で、新しい誌面の構想を練っていた。

 「次は“暮らしの魔法実践”の特集にしよう。冷却や火起こし、子どもと遊べる光の魔法も」

 「武術家に護身術を載せてもらうのもいいな。弱い者が自分を守れる術を知ることは、大きな力になる」


 彼らの瞳は恐れを越え、未来を見据えて輝いていた。


 ――領主の圧力は、かえって人々の決意を固める結果となった。

 村の小さな炎は、やがて大きなうねりとなって広がっていく。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ