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顧問の先生が素手で幽霊を殴るんだが、どこかおかしいのだろうか?  作者: くろぬか
第二部

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怒り

まだ先生に連絡が入る前のお話。 順番ずらした方が良かったかな……


 指定された場所へと到着しバイクを慌てて降りれば、そこには何やら部員たちが言い合っている姿が。

 全く……“上位種”が居るというから慌てて来てみれば、何をやっているのだろうか。

 もう解決したというならまだいいが、未解決なら言い合っている場合では無いだろうに。


 「本当に、あの子達は……」


 「苦労するね、部長さんも」


 そんな言葉を交わしながら二人で近づいていくと。

 急に二階の窓から人影が降って来た。


 「なっ!?」


 上空から人が振ってくるという光景は、私にとってトラウマなのだ。

 以前とは違って高さがあるわけではないが、本当に勘弁してほしい。


 「天童先輩!」


 「分かってる!」


 あの時の様に、急に現れて助けてくれる存在はいない。

 だが、すぐ近くに頼れる人がいるのだ。

 この安心感は、“たいぶ違う”。

 天童先輩もアレから随分変わった。

 俊君ほどとまではいかなくても、かなり身体能力が高くなったのは何度も目にしている。

 落ちてくる人影に向かって駆けだした先輩だったが……結果から言えば徒労に終わった。

 別に天童先輩がキャッチ出来なかったとか、落ちて来た本人が華麗に着地を決めて見せたとか、そう言う訳じゃないが。


 「アレは……」


 「“ブギーマン”?」


 いつぞやの馴れ馴れしい怪異が落ちて来た人物を包み込み、ゆっくりと地面に下ろす。

 正直普段なら信じられない行為だ。

 他の“上位種”から誰かが触れられた事はあったが、“助ける為に”触れてくる事は今まで無かった。

 あったとしても“獣憑き”となり、誰かを救う事くらいだろう。

 アレが可能なら、今後茜さん辺りに頼めば空中浮遊が可能になりそうだ。

 絶対やらないけど。


 「なんて、馬鹿な事考えている場合じゃないですよね」


 「走り出した俺の活力は何処に向ければいいのかな。 あと、話には聞いてたけど“アレ”は大丈夫なヤツ?」


 「まだわかりません、なので一応警戒して下さい。 それと活力はこの後に生かしてください、期待してますよ」


 それだけ言ってから、私は皆の元へ歩み寄る。

 誰も彼も目の前で起こっている事の対処に精一杯の様で、私達に気づいている様子はない。

 まあいいんだけどさ、これでも急いできたんだよ?


 「……はぁ、なんの騒ぎですか」


 音叉を構えながら後ろから歩み寄れば、全員が一斉にこちらに振り返った。

 それは良いんだけどさ、ブギーマン。

 お前やっぱり“こっち側”だったの?

 ある程度予想はしていたけど、渋谷さんか上島君辺りだよね?

 言いづらいのは分かるけど、ちゃんと報告しようよ。

後で説教してやる。

というか、これでオカ研に関わる“上位種”が二体になった訳だ。

神様とやらも含めれば更に数は増えるけど。


 「えっと。 あの、部長? 早いですね?」


 「余計な言葉は要りません、現状を報告しなさい眼鏡」


 戸惑いの声を上げた彼の方を睨めば、気まずそうに視線を逸らされてしまった。

 そもそも連絡してきたのはココに居る皆なんだから、説明くらいしなさいよ。

 浬先生じゃないけど、もしかして私嫌われてる?

 なんて事を思い始めた矢先、目の前に“ナニか”が振って来た。

 その瞬間、酷いノイズが“耳”に響く。


 「はぁ……怪異っていうのは何故こうも空気が読めないんでしょうね。 いくら“上位種”だからってあまり調子に乗っていると――」


 降って来たソレに視線を向けながら言葉を紡ごうとしたが、それは中途半端に止まってしまった。

 だって、そこに居たのは。


 「……なんの冗談ですか?」


 見知った黒いセーラー服の少女が、ブリキの人形の様にぎこちない動きで立ち上がった。

 その動きはまるで“烏天狗”に操られた女性達の様で、その瞳にはいつもの光が無い。

 見ているだけで嫌悪感を覚える様な醜悪さに、思わず舌打ちを溢した。

 間違いなくいつもの彼女ではない。

 見るからに見慣れた“怪異”、私達の敵。


 「鶴弥ちゃん離れて!」


 歯噛みする私を他所に、背後から叫び声が聞こえたかと思えばすぐ隣を誰かが走り抜ける。


 「“茜さん、止まって!” 何してるんだアンタは!」


 天童先輩の“声”に従ったのか、眼前に迫って来ていた茜さんの動きがピタリと止まる。

 そして、その口元だけがピクピクと微かな動きを見せた。

 ホント、何が起こっている?


 『逃げテ……』


 最初、何を言っているのか分からなかった。

 声は聞こえた、でも頭が付いて来ない。

 もし彼女を蝕んでいる存在が居ると言うなら、私達がソレを取り去れば良いだけだ。

 それで彼女は元に戻る、はずだ。

 だというのに彼女は、私達に“助けて”ではなく、“逃げて”と言ったのだ。

 訳が分からない、なんて呆けている数秒後、その答えが上空からやって来た。


 クアァッ!


 その鳴き声が聞こえた瞬間強い風圧を正面から受け、私達は文字通り“吹っ飛ばされた”。

 何故“お前”が私達を攻撃する?

 というか、宿主はどこへ行った。


 「ぐっ……! 渋谷!」


 「徹!?」


 「一花! 一緒に左に飛んで!」


 「は? ちょ、キャアァァ!」


 色んな声が交差する中、私も皆と同様に吹っ飛ばされ、真っすぐ後ろに吹っ飛んでいく。

 これ、物理的に結構不味いんじゃ……なんて思った私の体を誰かが抱き留め、空中で前後が入れ替わったのが分かった。

そして数秒後には抱き留めてくれたその人から、鈍い衝突音が響き渡った。


 「がっ……ぐ……鶴弥ちゃん、平気?」


 やけに苦しそうな声が聞こえる。

せき込みそうになるのを抑えながら、その人は声を掛けてきた。

 眼を開けば、至近距離に見知った笑顔。

 でもいつもとは違い、随分と無理をしているような作った笑顔。

 そして彼の背後では、彼のバイクが勢いよく道路に倒れる、というか吹っ飛んでいく光景が目に移った。


 「天童……先輩? 大丈夫なんですか?」


 どうやら吹っ飛ばされた所を天童先輩に拾ってもらい、更に彼のバイクに激突したらしい。

 コンクリートの壁とかではなかったからまだ良いのかもしれないが、それでも衝撃を殺せたとはとても思えない。

 そしてそのダメージは、彼一人が請け負ったのだろう。

 なんたって中型バイクが吹っ飛ぶ勢いだというのに、私は怪我ひとつしていないのだ。

 とてもじゃないが、コレでノーダメージなのは浬先生くらいなモノだと思う。


 「大丈夫だよ、まだ戦える。 だから――ゴホッ!」


 むせ込んだ彼の口から、赤い液体が飛び散って私の体に掛かった。


 「え?」


 朱く、紅い生暖かい液体。

 その数滴が私の顔に掛かり、僅かに鉄臭い香りが漂ってくる。

 そして“耳”に響いてくる、彼の異常な鼓動。

 ドクン、ドクンと聞こえてくるその心音が、普段よりずっと早い。

 というより、体に異常があったとしか思えない程の早さで脈打っている。


 ソレを聞いた瞬間、私の中で何かがキレた。


 「……少しだけ、待っていて下さい。 すぐ救急車を呼びますから」


 「まっ……鶴弥ちゃ、ゲホッ!」


 彼の腕から離れ周囲に視線をやれば、どこも酷い状態だった。

 天童先輩ほどではないにしろ、間違いなく大なり小なり怪我はしているだろう。

 失態どころではない、もう何て言うか……ね。


「確認します、俊君はこの場に居ないんですよね? そして今のは“八咫烏”からの攻撃って事でいいんですよね?」


 「……えぇ、そうみたいです。 僕らにもまだ状況が把握しきれてなくて」


 渋谷さんを庇ったらしい上島君が、苦しそうな顔をしながら答えてくれた。

 状況が把握しきれていないのも、判断がつかないのも当たり前だ。

 なんたって相手は“茜さんと八咫烏”なのだから。

 でも、私は緊急の連絡を貰って呼び出された。

 そして環さんは間違いなく、相手は“上位種”だと言ったのだ。

 君たちはどこまで知っていたのかな?

 知った上で、私に報告を上げなかったのかな?

 自分達だけで解決しようとして、結局最後の最後で私を呼んだのかな?

 その上で、こんな状況に陥っているのかな?

 やり場のない怒りと、八つ当たりの様な感情が渦巻いていく。


 「部長、その……」


 「言い訳はいいです。 私が対処しますから、早く救急車を呼んでください」


 声を上げようとした環さんの言葉をピシャリと切り捨ててから、音叉をもう一度構え直した。

 何でもっと早く頼ってくれなかったのかとか、何で茜さん達が私達に牙を向いているのかとか。

 色々聞きたい事はある、分からない事も沢山ある。

 あるのだが……今はとりあえず、どうでもいい。

 全部後回しだ。


 「茜さん、それから“八咫烏”。 私は今から貴方達を“敵”と認識します、構いませんよね? それだけの事をしたんですから。 特に“八咫烏”、お前だけは……」


 茜さんの元へ舞い降りた巨大な三本足の烏に音叉を向けながら、グリップに取り付けられた“赤い石”を押しこんだ。

 そして窪みも押しこみトリガーに指を掛ける。

 手加減なんて、絶対にしてやらない。


 「磨り潰してやるから覚悟しておけ」


 ――クアァァッ。


 その鳴き声がやけにこちらを煽っている様な、舐められている様な感覚を覚え、私は本気で音叉を叩き、そしてトリガーを引き絞ったのであった。




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(1)
― 新着の感想 ―
[一言] おっさん主人公による焼き鳥の刑か唐揚げの刑に(笑)
[一言] ついに八咫烏が牙を剥きましたか。しかしそもそもの在り方を聞くと納得せざるを得ないというか。 しばらくシリアスパートが続きそうですがドキドキしながら見守ります。 ブギーマンやコンちゃんは大丈夫…
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