#6「寂しがり屋な二人」
#6「寂しがり屋な二人」
翌日、目を覚ますと目の前に猫の寝顔があった。
昨日のことを思い出し、俺は猫を起こさず着替えを持って風呂に行く。
風呂から上がっても、猫は静かな寝息を立てていた。
俺はベッドに腰掛けて
「昨日は、お前の前で暴力を振るって悪かった」
そう呟くと
「ぅにゃ」
猫が目を開けた、どうやら狸寝入りだったらしい。
「お前・・・・ッ」いきなり右腕を噛まれた。といっても、猫には牙が無いため、人間に噛まれてるのと変わらない。
「フーッ」どうやら、昨日のことについては、まだ許してくれないらしい。
「・・・・そうか」何故こんなに悲しいのか分からないまま、俺はシャツを着て、ジャケットを抱えたまま外に出た。
なんとなく、外の空気を吸いたかった。猫と一緒にいるのが怖かった。これ以上、猫に嫌われてると自覚したくなかった。
「我ながら、弱いな」呟き、自販機で買った珈琲片手に、タバコをふかす。半年前に禁煙したせいもあり、うまい。
そうやっていると
「ケホケホ・・・・ぅー」後ろから、むせるような声が聞こえた。
ききえぼえのある声だから、振り返ると
「にゃぅー」煙で涙目になった猫が俺を睨んでいた。
「?」俺には、何故にらまれるのかわからなかった。
「にゃっ」猫が俺に家の鍵を突きつける。
「・・・・・・?」わけも分からず、受け取ると
「にゃー」俺の腕を掴んで引っ張る猫。立ち上がり、引かれるままに歩くと
「俺の家か」そのまま、玄関に入り、さらに引かれ
「寝室が、どうかしたのか?」猫は、ベッドの端でようやく立ち止まった。
「ぅにゃー」いきなり、猫にどつかれて、ベッドに倒れる俺。
「な、何だよ?」押された腰を抑える俺に
「にゃ」抱きつく猫。これは・・・・つまりあれか?
「朝方は怒ってたが、俺が居なくなって、寂しくなったのか?」猫の頭を撫でながら聞く
「・・・・・にゃぅ」うつむく猫。
嫌われているのを自覚したくなくて家を出た俺と、一人が寂しくて俺を追いかけた猫。
俺は、猫を抱きしめた。
猫の体温が恋しく、存在を欲して。
猫も抱き返してきた。
俺と同じキモチかもしれない。
数分すると
「ふにゃぅー」猫が俺の耳元で鳴いた。
「どうした?」俺も同じように耳元で聞くと
「ふにゃぁー」
「・・・・寝てるのか・・・・」多分、安心したせいだろう。
俺は猫を布団に寝かせ、毛布をかけながら少し、嬉しくなった。
「いて欲しいと思う存在なんて、初めてだ」生まれて、俺が成人したら直ぐに出て行った親達。
最初は寂しい時も会ったが、直ぐになれた。いや、諦めたのかもしれない。
翻訳の仕事を始めて、何年か分からないぐらいの間、この家で暮らしていた。
そんな中に現れたこの猫。
拾って、一緒に生活する間に俺は、こいつのことを好きになっていた。
親がいなくなって開いた穴を、こいつは埋めてくれたし、逆に溢れていた。
結果が今日のことだ。
「ずっと、一緒にいてくれ」寝息を立てている猫の頬を撫でたときに、
「莫迦だな」自分が涙を流していることに気づいた。




