#5「猫は可愛がるもの。怯えさせるものではない」
#5「猫は可愛がるもの。怯えさせるものではない」
そんな生活が始まって、3ヶ月ほどした頃だ。
猫にスカートと白いシャツを着せ、上から薄い茶色のセーターをかぶせて散歩をしていた時だ。
♪〜〜〜
ジーンズのポッケから携帯の着信メロディーが鳴る。
「はい?」携帯を耳に当てて、猫に指を口元に立て静かにするよう指示すると
「あ、駐在所の田中ですが・・・」前に猫について操作をお願いしたお巡りさんだ。
「はい、何か?」
「猫っぽい少女についてなんですが」
「あ、何か分かりましたか?」
「ええ、飼い主だと名乗る人が出てきました。これから会えますか?」
「あ、はい、交番で良いですよね?」
「ええ、お待ちしています」
「ふぅ、前のご主人様が見つかったって」携帯をジーンズにしまいながら猫に話しかける。
「にゃ?」猫が首をかしげる。
「行くぞ」交番に向かって歩き出すと
「にゃー」追いかけてきた。
交番に着くと
「あ、どうもです」駐在さんと
「あ、あなたですか」見知らぬ40くらいのおじさんがいた。
「こんにちは」俺が挨拶して頭をすこしだけ下げ、猫を横目で見ると
「にゃぅ」すこし怯えた様子で俺のジーンズのすそを掴んでいた。
(あまり嬉しそうじゃない?・・・むしろ嫌がってる?)俺は不審に思い
「前の飼い主さんですか?」と、おじさんに聞くと
「ええ、散歩中にうっかり逃がしてしまって」
「猫、飼い主さんか?」猫のほうを向いて聞いてみると
「にゃぅ」下を向いて小さく一鳴き。
「失礼ですが、こいつを怯えさせたりするような真似、してませんよね?」すこし、語彙を強める。
「え?ええ、大切にしてましたよ?」おじさんはすこし怯えだした。
「そうですか。猫?」振り返って聞く
「にゃ?」呼ばれたことで、俺を見上げる
「どっちがいい?」俺とおじさん交互に指差す
「ちょっと!私のですよ!」おじさんが声を荒げる
「静かにしてください!怯えてるでしょう!虐待の可能性があるから聞いてるんですよ!」俺は思っていたことを隠さずに告げる。
「そんなわけ無いでしょう!ほら、こっちに来い!」おじさんが猫に向かって手を伸ばす
「にゃっ」途端に猫が両目をつぶり、俺の手をにぎり身を縮める。
「すこし、お話を聞きましょうか?」全部を見ていたお巡りさんがおじさんの手を握る
「ふざけるな!そいつは俺のだ!」
「それが、貴方の本音ですか」俺は声を強める、猫に悲しい思いをさせた野郎だ、今すぐ殴りたい。
「うるさい!間男が!」頭の後ろのほうで何か布製のものが切れる音がした。
「歯、食いしばってろ」俺の台詞だ。
「落ち着いて!」お巡りさんの声が聞こえたが、俺の心臓の鐘の音のほうが大きい
次の瞬間、おじさんは頬を自分の手で押さえて、しりもちをついていた。
俺は拳に残る感覚で、目の前の男を殴ったことを理解した。
そのあと、俺はおじさんが動物虐待の罪で起訴されたこともあり、厳重注意で事なきを得た。
その帰り道だ。
俺は猫の前で暴力を振って事もあって、後ろにいるであろう猫を見ることが出来ないでいた。きっと怯えているだろう。
俺たちはそのまま家に着いた。
何も言わずに俺は寝巻きにも着替えずにベッドに倒れこむ。意識はそこで途切れた。




