↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
15/15

エピローグ 「知らない世界で」

林花(りんか)のLINEをブロックした。


次にInstagramを開いた。


個人のアカウント。


絵を載せているアカウント。


思いつくものを、一つずつ閉じた。


連絡を待たないためだった。


名前を検索しないためだった。


林花がこれから誰と会い、どこへ行き、何を作るのかを、自分の生活の続きにしないためだった。


ブロックは、林花に見せるための行為ではなかった。


見つけてほしくもなかった。


傷つけたいわけでも、後悔させたいわけでもなかった。


僕がもう一度、終わった恋に入口を作らないためだった。


絵のアカウントを閉じる前に、一瞬だけ手が止まった。


林花は昔、僕の影響で絵を描き始めたのだと言っていた。


小学生の僕が何を描いていたのかは、あまり覚えていない。


林花に何を見せ、どんな話をしたのかも曖昧だった。


僕にとっては忘れてしまうような出来事が、林花の中では残り、その先の時間につながった。


九年後、林花は美大で絵を描いていた。


僕には分からない技法を知り、僕には作れないものを作っていた。


その始まりに僕がいたとしても、そこから先を歩いたのは林花だった。


僕の影響が残っているからといって、その作品を見続けていい理由にはならなかった。


僕らは、互いの人生から何もかも消えるわけではない。


林花が絵を描き始めた理由の一部に、僕が残る。


僕が誰かを好きになるとき、その基準のどこかに林花が残る。


会えない時間の寂しさも、言葉が人を傷つけることも、好きなだけでは続かない関係があることも、僕は林花との間で知った。


残ったものまで消す必要はなかった。


ただ、それを理由に、これからの林花を知ろうとしなくていい。


僕が知らない絵を描く。


僕が知らない人と話す。


僕が知らない場所で笑う。


そのどれにも、僕の許可はいらない。


僕の理解もいらない。


林花の人生は、もう僕が読める物語ではなかった。


僕の人生も、林花に見せるための続編ではない。


スマートフォンを机に置いた。


頭の中が、妙に軽かった。


長いあいだ閉じられなかったものを、ようやく閉じたのだと思った。


白い上着のことは、これからも思い出すかもしれない。


冬の公園も、懐かしい匂いも、届かなかったメールも、完全には忘れないと思う。


忘れないことと、戻ることは違う。


大切だったことと、今も必要であることも違う。


僕らの間にあったものは、本物だった。


だからこそ、なかったことにせず、終わったものとして置いていける。


もう、林花が何をしているのか知らなくていい。


幸せになればいい。


僕の知らないところで。


昔の彼女は、人を心から好きになることを教えてくれた。


今の彼女は、その恋を終わらせてくれた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。