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第44話:大会開幕! 傲慢なライバル『美食貴族』の嘲笑

海洋帝国グラン・メール。  無数の運河が張り巡らされ、ゴンドラが行き交う美しい「水の都」だ。  潮の香りと活気に満ちたこの街に、私たち一行は降り立った。


「すっごーい! 見てルネさん! お魚さんがいっぱい泳いでますぅ!」 「ああ、すごいわねミシェルカ。……全部、食材に見えるわ」


 私は市場を歩きながら、興奮で鼻血が出そうだった。  並んでいるのは、見たこともないほど巨大で新鮮な魚介類たち。  銀色に輝くイワシの山、生きたまま動く伊勢海老、そして私の身長ほどもある巨大マグロ!


「天国……ここは天国よ……!」


 私はマグロを解体している店先に駆け寄った。  職人が巨大な包丁で、手際よくマグロを捌いていく。


 ダンッ!  頭が落とされ、カマ(エラの後ろ)が切り離される。  そして職人は、その頭とカマを、足元のゴミ箱へ放り投げようとした。


「ちょぉぉぉっと待ったぁぁぁ!!!」


 私はスライディングでゴミ箱の前へ滑り込み、職人の腕を掴んだ。


「お、おい嬢ちゃん、何すんだ! 危ねえだろ!」 「おじさんこそ何する気!? それ、捨てるの!?」 「あ? 当たり前だろ。頭なんて骨ばっかで食うとこねぇし、カマなんて脂っこくて臭くて、猫も跨ぐゴミだ」


 ――ゴミ?  脂が乗って一番美味しい『カマトロ』と、DHAたっぷりの『脳天』が、ゴミ?


「……信じられない。この国の人間は、宝の山をドブに捨ててるの!?」


 私が絶望に打ちひしがれていると、背後から気取った拍手が聞こえてきた。


「ハハハ! 貧しいというのは悲しいことだねぇ。まさか、廃棄寸前の『生ゴミ』を欲しがる乞食が、この美しい都に紛れ込んでいるとは」


 振り返ると、そこには白馬に跨った、いけ好かない男がいた。  金糸の刺繍が入った青いベルベットの服。波打つ金髪。  いかにも「私は貴族です」というオーラを放つ青年だ。


「誰よ、あんた」 「言葉を慎みたまえ。私はレオナルド・ド・グラン。この帝国の食文化を牽引する『美食伯爵』とは私のことさ」


 レオナルドは優雅に馬から降りると、魚屋の親父に金貨袋を投げつけた。


「親父、そのマグロの『赤身』だけを貰おう。脂身トロや皮は全て捨ててくれ。不純物が混じると、私の高貴な舌が汚れるのでね」 「へ、へい! 毎度あり!」


 親父は喜んで、極上の大トロの部分をゴミ箱へ落とした。  ベチャッ。  ピンク色の美しい身が、汚れた床に転がる。


「……ッ!!」


 私のこめかみに、青筋が浮かんだ。  食材への冒涜。料理人として、最も許せない行為だ。


「あんた……今、何をしたか分かってるの?」 「ん? ゴミを捨てさせただけだが?」


 レオナルドはハンカチで鼻を押さえ、私を見下した。


「君のような平民には分からないだろうがね、真の美食とは『純粋』であることなのだよ。  脂や骨、内臓……そんな野蛮な部位をありがたがるのは、味の分からない下等生物の証拠さ」


「……へぇ。言ったわね」


 私はギリリと奥歯を噛み締めた。  こいつ、絶対に許さない。  その高慢ちきな鼻を、脂ぎったカマトロでぶん殴ってやる。


 ◆


 数時間後。  帝国の中心にある巨大な闘技場コロッセオ。  ここが『世界美食大会』の会場だ。


 観客席は数万人の市民で埋め尽くされ、熱気に包まれている。


『さあ、4年に一度の食の祭典! 予選第一ラウンドの開始だぁぁぁ!』


 実況の声が響く中、私たち参加者は調理エリアに立っていた。  私の隣のブロックには、偶然にもあのレオナルドがいた。


「おや、さっきの乞食少女じゃないか。まさかエントリーしていたとはね」  レオナルドは最高級のキッチンセットを広げ、余裕の笑みを浮かべている。


『予選のお題は――【スープ】!!  海の幸を使い、審査員の五臓六腑に染み渡る最高のスープを作れ!』


 スープ。  素材の味がダイレクトに出る、誤魔化しのきかないテーマだ。


「フン、容易いことだ」


 レオナルドが取り出したのは、さっき市場で買った最高級マグロの赤身と、透き通った真鯛のフィレ。


「私が作るのは『ロワイヤル・コンソメ』。不純物を極限まで取り除き、上質な身のエキスだけを抽出した、黄金の雫さ」


 観客がどよめく。  「おお、さすがレオナルド様!」「使う食材が違うぞ!」


 一方、私は。


 ドサッ! ドサッ!


 調理台の上に、山盛りの「骨」と「頭」をぶちまけた。  さっき市場でタダ同然で買い叩いてきた、マグロのカマ、鯛のアラ、エビの殻だ。


「……ぷっ、あはははは!」


 レオナルドが腹を抱えて笑い出した。


「おい見ろよ! あの娘、本当にゴミを持ってきたぞ!  スープを作る金もなくて、魚の死骸を煮込むつもりか? 貧乏くさいにも程がある!」


 会場中からも失笑が漏れる。  「なんだあれ、生臭そう……」「あんなのアラ汁じゃないか」


 私は無視して、巨大な寸胴鍋を火にかけた。


「笑ってなさい、無知な貴族様」


 私は包丁を構え、魚の頭を叩き割った。


「魚の命(旨味)はね、身よりも骨に宿るのよ。  あんたが捨てた『不純物』が、どれほど凶悪な旨味爆弾か……その舌に教えてあげるわ!」


 ゴォォォッ!!  ミシェルカの風魔法で火力を最大にする。  目指すは、上品なコンソメなんかじゃない。  骨の髄まで溶かし出し、飲む者の脳を殴りつけるような、超濃厚**『魚介白湯パイタン』**だ!


 予選のゴングが、今鳴らされた。

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