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メモリー・クリスタル

 砲声が遠くから響き、ぱらぱらと天井から細かな埃が落ちてくる中、ミリィは必死に瀕死のフリント教授を介抱していた。ヘロヘロは家の中を探し回り、ようやく救急セットを見つけてきて、ミリィに手渡した。

 救急セットの診断キットをベッドに横になっている教授の腕にあてがう。診断キットは教授の静脈から血液を採取し、血糖値、インシュリン、アドレナリン、血小板などの分析をして、救急セットから応急の点滴セットを呼び出し、教授の静脈にチューブを差し込んだ。

 様々な薬液が混合された溶液が体内に送り込まれ、教授の状態を安定させる。診断キットの表示は、即座に病院に搬送し、専門医に診断させるよう忠告をしていた。

 しかし今は、病院どころではない。それどころか、教授を移動させることができるかどうか。


 シルバーは軍を掌握し、戦争を引き起こしていた。ミリィの住んでいる場所も巻き添えになり、教授の家は直撃を受けたのだった。通信網は寸断され、避難民が続々と移動を開始していた。戦闘により、行政サービスは完全に麻痺していた。


 べっとりと血糊がこびり付いた顔を上げ、フリント教授は薄目を開けた。

「お祖父ちゃん!」

「ミリィ……か!」

 教授の目の焦点が合い、唐突に意識がはっきりしたようだった。

 ずしずしずし……と震動が近づいてくる。戦車が走行しているのだ。時折、ずしんという砲声が響き、どこかで砲弾が落下したのか、炸裂音が何度も聞こえてくる。

 ベッドに寝かされた教授は、きょろきょろと目だけ動かした。

「もうすぐ軍が、ここを通過する……ミリィ、お前はお逃げ。わたしは、もう動けない……」

 ミリィは驚いて叫んだ。

「駄目よ! 何を言ってるの?」

 震える手を挙げた教授は、がっしりとミリィの肩を掴んだ。

「ミリィ……〝伝説の星〟というのを知っているかね?」

 ミリィは首を振った。

「知らないわ、それが大事なことなの?」

 教授は頷いた。その両目はひた、とミリィに向けられている。

「そうだ! 伝説の星とは、人類の故郷、地球のことだ! 地球は人類の故郷だったが、今ではその位置は判らなくなり、伝説の霧の中に消えかかっている……。わたしは、その星の位置を突きとめた!」

 ミリィは教授の顔を見つめ囁いた。

「どうしてそんなこと、今になって言うの? 地球がどうして、そんなに重要なの?」

 ごくり、と教授は唾を飲み込む。喉仏がひくりと動き、苦痛に一瞬その背中が弓なりに反り返る。


 ミリィは必死になって教授の背中を擦った。

「お祖父ちゃん、痛いの?」

 はあはあと荒い息をつき、教授は再び話し出す。

「わたしは間違っていた! 超〝種族〟など、研究するのではなかった……。シルバーの奴は、あの身体になって性格が激変した! あいつは不死身だ! あの身体と、もともとのロボットの知性が結びついた今、どこまでも突き進むだろう……。わたしは、あいつにも秘密にしている研究がある……。それをわたしは地球に隠したのだ……!」


 不意に診断キットが、けたたましい警告音を響かせた。モニターに、教授の命が危険に瀕していることが表示されている。

 教授はポケットから一枚のメモリー・クリスタルを取り出した。薄い、指先ほどの透明な板。それが夕日を受け、煌いた。


「これを、お前に渡す! この中に〝伝説の星〟地球の位置が記されている……。地球には、われわれ原型のために、ある秘密を隠した! それを、お前に託そう」

 ミリィは教授からメモリーを受け取った。教授の手の平はべっとりと汗で濡れている。

 気がつくと、教授の全身は燃えるように熱い


「宇宙港へ行け! そこに、わたしの宇宙艇【呑竜】を預けてある。それに乗り込み、地球へ向かえ! いいな、シルバーには気付かれてはならぬ! あれは、われわれ原型のための……」

 ごろごろと喉がなり、教授の身体から急速に生命の輝きが消え去っていく。皮膚がチアノーゼにより、どす黒く変色し、教授は目を閉じた。

 ぱたり、と教授の手がミリィの肩から落ちて垂れ下がった。


「お祖父ちゃん……」

 ぽつりとミリィが呟き、診断キットのモニターに目をやる。総ての表示が教授の生命活動の停止を告げていた。


 ドアが開く音に、ミリィは顔を上げた。

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