第3話 屋敷を後に
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屋敷に到着すると、広い庭で父が門下生たちに剣の指導をしているところだった。
父は僕を見ると眉を顰めた。
「……私の依頼はどうした? ゴブリンの耳は買って来たのか?」
「はい、ここに」
僕は買って来たゴブリンの耳を見せた。
父の顔が暗くなる。
「道中、何もなかったか?」
「この辺りにしては珍しくオークが一頭出ましたが他は何も」
「……そのオークはどうしたのだ?」
「僕が倒しました」
「倒した?」
そう言った後、堪えきれないという風に父は笑い出した。
「何がおかしいんですか」
「嘘をつくならもう少しマシな嘘をつけ。お前のような雑魚がオークを倒せるわけがないだろう」
「嘘じゃありません。森の道にはまだオークの死体が残っているはずです!」
「……ふっ、口でならどうとでも言える。そういえば屋敷にもまだゴブリンの耳が残っていたな? ちょうどお前が買って来たというそれと同じ個数だった」
「え?」
「つまりお前は私の依頼通り隣町にゴブリンの耳を買いに行ったのではなく、屋敷にあったもので私を欺こうとした、ということだな」
な――何を言っているんだ?
僕は死にかけながらオークを倒してゴブリンの耳を持ち帰ったのに!?
「そんな――そんなわけないですよ! 僕はちゃんと―――」
「家に置いてやった恩を忘れ挙句の果てに騎士団長である私さえ騙そうとするとは。全く許せんな。お前のようなクズをこれ以上我が屋敷に置いておくわけにはいかん。お前のような無能は我が一族には不要だ。出ていけ!」
「た――確かに僕に剣は出来ません! でも、家事のために作り出した【生活魔法】で――」
「【生活魔法】? そんな魔法は聞いたことがない。これ以上私を愚弄するならば、今ここで斬る!」
父が剣を抜く。
本気だ。
本気で僕を斬るつもりだ。
「……今までお世話になりました」
僕は歯を食いしばり、屋敷を後にした。
背後から父の門下生たちの笑い声が聞こえた。
全身の傷が再び痛み始めた。
貧血なのか、目の前がぼんやりしている。
覚束ない足取りで、どこに行くともなく、僕は歩き続けた。
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