〖act.44 point five〗個人記録《Personal record》
*これは私個人が自身に向けて記録する物である。
【日本に於ける対テロ作戦、及び不測の市街戦事案について】
先日、東亜細亜地区、日本に於いて、弊社が実行したテロリスト『深緑の大罪』への対テロ作戦は、ディビジョンS麾下黒姫 栗栖中尉以下、隊員90名、並びにディビジョンAアンネリーゼ・シュターゲン少佐以下、隊員120名、総勢210名が作戦に参加し、その特異な状況下によりテロリストの襲撃予測地点となった微生物化学研究所での邀撃作戦となって展開される事となった。
これは作戦に際し不確定要素が大きく、また情報が圧倒的に不足していた事から、当時現場指揮官に任じられたクリス中尉の判断による物である。
特に今回は敵テロリスト『深緑の大罪』がMulti-Legged Tank──多脚戦車を投入して来た事により、既存の「不正規戦において敵テロリストに攻勢をかける」と言うスタイルはどちらにしても取れなかったと思われる。
またこれとは別に警視庁警備部警備第一課特殊強襲部隊の不当な介入が有った事を書き記しておく。
そしてこの多脚戦車のテロリスト側での使用が想定外の「密集市街地に於ける市街戦事案」を発生させる直接起因となったのである。
想定外の市街戦、更に実戦経験が無い対機甲戦闘と、指揮官のクリス中尉にはかなり苦戦を強いる結果にはなったが、弊社隊員の損害は重傷者41名、戦死者13名。一方の敵テロリスト部隊は、死者148名、生存者14名。なお1名は敵多脚戦車に搭乗したのを確認。また警視庁警備部警備第一課特殊強襲部隊も1個班30名のうち、死者3名、重傷者19名、軽傷者8名と被害が出た。
この陸戦兵器の最たる物である戦車──しかも未知の兵器である多脚戦車と文字通り手探りで戦闘し、また対戦車装備も決して満足に揃っていない状態にも関わらず、クリス中尉が良くこの程度に損害を抑えた事は賞賛に値する。
結果として『深緑の大罪』に目的である『好電性金属腐食菌』を一度は奪取させてしまったが、敵テロリストの追跡不可能な分散逃走を車両破壊によって未然に防ぎ、且つ残った多脚戦車をわざと逃がし追尾、その間に此方は戦線を立て直しつつ攻勢に転ずると言う策を瞬時に講じたのは、流石クリス中尉は経験値が高いと言わざるを得ないだろう。
そののち神奈川県、横浜市、山下埠頭に逃走した多脚戦車とクリス中尉達テロ対応部隊の再戦に於いては、私がジョシュア・ブルックス最高経営責任者を通じてキャンプ座間駐留の米陸軍に近接航空支援を依頼し、出動した攻撃ヘリコプターAH-64E【アパッチ・ガーディアン】の対戦車ミサイルにより、見事に多脚戦車を沈黙させる事に成功、これによりテロ対応部隊の最大の障害を排除出来たのである。
A・C・Oの司令官としては、本来一個人に肩入れする事は好ましくは無いとは思うが、今回はクリス中尉の事情を慮った結果に過ぎない。
何れにせよ障害を排除した事によりクリス中尉以下テロ対応部隊は、敵テロリストが潜伏していると思われる大型貨物船を包囲、テロリストを駆逐し『好電性金属腐食菌』を奪回する為の突撃戦を実行に移したのである。
目標の貨物船の船名は「ビスカリア」号。AIONトレーディングカンパニー所有、コスタリカ船籍の5,5000トンの大型貨物船だったが、クリス中尉達が乗り込んだ時には既に船はテロリストの手に落ちていた、いや正確には元々テロリスト達の移動拠点として機能していたのが顕現化したと言うべきか。
兎に角「ビスカリア」号船内に突入したクリス中尉達テロ対応部隊は幾つかの抵抗に遭遇したものの、これ等を各個撃破。船を一時的に航行不能にしたのち囚われていた一般人乗組員を救出、最終的にテロリスト達が立て篭る船橋へと到達したクリス中尉達は、そこでテロリスト『深緑の大罪』の衝撃の真実を知る事となった。
ブリッジに突入したクリス中尉達の前に姿を現したのは『深緑の大罪』の創設者である『アニマ』本人だったのだ。そしてその正体は、ロバート・A・タイラー、アイオン・タイラー財団の総裁だったのである。
ここに置いてはA・Tファウンデーションについては克明に記録しないが、世界有数の大財団であり、国際的な影響力は計り知れない複合企業体でもある事は書き記そうと思う。
また彼等が座乗していた「ビスカリア」号の所有はAIONトレーディングカンパニー、A・Tファウンデーション内の数多ある企業のひとつであった。それだけでなく微生物化学研究所で『好電性金属腐食菌』を奪取する際に使用したジュラルミンケースのメーカー、AT・Inc.も、襲撃に使用した低床トレーラーと3トン有蓋車の所有会社もアイオン運輸株式会社と、全てA・Tファウンデーション傘下の企業であったとは後の調査により判明した。ロバート・A・タイラーがA・Tファウンデーション傘下の企業を積極的にテロに利用していたのは自明の理である。
真逆そんな大物が表向きとは正反対の顔を持ち、世界的なテロリストを組織していたとは。事後クリス中尉から詳細な報告を受けたが、俄には信じられない思いであった。
あまりにも衝撃的な事実を前にクリス中尉そして隊員達の心情は如何ばかりかと、想像に難く無いが彼等は飽くまでも冷静沈着に任務を遂行した。
我々A・C・Oは『深緑の大罪』を初めとするあらゆるテロ組織に対し、常に敵対し、テロリストを射殺するのも厭わない攻性組織なのだ。
当然、目前に長年追ってきた仇敵とも言える存在が現れたのだ、結果は想像に容易いだろう。結局『アニマ』──ロバート・A・タイラーはクリス中尉が直接手を下し、左手首を切断され、更に左頚部頚動脈を切られ殺害、更にそこに居たテロリストの構成員8名を含め全員が、ルーツィア嬢の灼熱の魔法により灰燼へと帰したのである。
その直前、クリス中尉とロバート・A・タイラーとの間で短い時間、言葉の応酬が有ったらしいのだが、其れについては特に詳しく記載するのは差し控えたいと思う。
ただ私が直接クリス中尉から聞かされた会話の内容は、一言で言うと余りにも身勝手であり、独善的かつ狂信的であった事だけは記しておくに留める。
こうして日本を舞台に展開された我々A・C・Oとテロリスト『深緑の大罪』の戦闘は終結した。
今回最大の目標であった『好電性金属腐食菌』はロバート・A・タイラー本人が手にしていたが、クリス中尉がその手から直接奪回し、事なきを得ることが出来た。もしこのバクテリアが日本の首都である東京都心で拡散されていたらと思うと、本当に背筋が凍る想いである。
最終的に我々A・C・Oの損害は重傷者50名、戦死者13名。日本の損害は警視庁警備部機動隊3部隊合わせて軽傷者10名、警視庁警備部警備第一課特殊強襲部隊は前述の通りである。
日本国の損害については当初よりクリス中尉らと協力関係に有った警察庁警備局国際テロリズム対策課所属管理官の藤塚 妃警視正(deputy chief)と警視庁公安部外事三課国際テロ第二第3係の長村 直生警部(captain)らの特別対策本部とその指揮下に有る機動隊とは連携が取れていた分、明らかな部外者である警視庁警備部警備第一課特殊強襲部隊の損害は独善的に暴走した結果に過ぎない。これに関してはジョシュア・ブルックス最高経営責任者を通じて日本国政府に厳重に抗議をしたのは言うまでもない。
一方敵テロリストは微生物化学研究所での戦闘は前述の通りであり、貨物船「ビスカリア」号に於いては死者19名、生存者2名となった。無論この場合の生存者とは重篤者も含まれるのだが。
期せずして『深緑の大罪』の中心人物である『アニマ』──ロバート・A・タイラーをクリス中尉が殺害した事により、『深緑の大罪』は組織内部で混乱を起こし、その勢力と求心力は急速に低下して行った。
元々『深緑の大罪』内に於いて、ロバート・A・タイラーと思想を共にする者は古参の幹部クラスの構成員数名であり、あの巨大とも言える組織を構成する大半は犯罪者や傭兵崩れ等の言わば無頼の者達で、そこには崇高な理想も思想も無く、ただひたすら無差別殺戮を楽しみたいが為に『深緑の大罪』に所属していた輩ばかりだったと、のちの調査で判明している。
何れにせよ我々A・C・Oと各国の対テロ部隊との数度に渡る連携作戦により『深緑の大罪』は、その下部組織も含めて事実上瓦解した。残党とも言うべき者もいるがそれ等も何れ全て御する事ができるであろう。
あと、今回の作戦任務で功績を挙げたクリス中尉は二階級特進し、少佐となった事を最後に付け加えておく事にする。
現在、世界はロバート・A・タイラーが遺した名簿が公開された事により混迷の只中にいる。彼から多額の献金や賄賂を貰っていた各国の政府高官や政治家、警察官僚達は軒並み粛清されるだろう。また彼が総裁を務めていたA・Tファウンデーションは事実上解体され、傘下の企業は軒並み他の様々な財団や企業が吸収していったのである──それこそ死骸に群がる鬣犬の如く。
かつてロバート・A・タイラーが夢想した通り、世界はある意味初期化され腐敗した政治体制は粛清される事となったが、テロリズムそのものが無くなった訳ではなく、この混乱に乗じて活動が活性化している。
だが我々はテロ対抗民生機構──Anti-terrorism / Civilian / Organization──【A・C・O】。【理不尽な暴力】がこの世界に有る限りそれを阻止し続ける為に存在しているのだ。それは揺るぐ事の無い純然たる事実である、と私は常に確信している事を最後に書き記しておく。
July4th,20XX
A・C・OディビジョンS.サミュエル・グエン
次回投稿は二週間後の予定です。
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