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使命とすることに(2.5)

 ぼんやりとした意識で、上体を起こし、目を擦る。


「まぁ……いつもの部屋ね」


 見慣れた環境に私は肩を落とした。

 使命のため、地上に降りてから数日。天界に戻れる日はいつなのだろうと考え続ける日々。

 この頃、起きたときの寝相が悪い。私専用ふっかふかの『寝床雲』が恋しい。地上の様子を眺める、自由でセレブな日常はどこに消え去ったの……。




 唐突に、言い争うような声が部屋の外から聞こえた。挙げ句にはドタドタと足音まで響いてくる。

 私はその場で立ち上がり、身体を伸ばす。


「んっ……と、見に行こうかしら」


 扉を開けて、廊下に立つ。そして、二人の天使がこちらへと歩いて来るのが目に映る。


「あーもう。旦那様だんなさま、宿から出て行ったんじゃないの? おバカシリアル」

「……! 元はといえば天使おサルデーニャが……いや、それよりも、もう次からクロアチアに、どんな顔して……会えばいい、のさ」


 まだ言い争ってる。肝心の元凶は……姿が見えない。


「アンタら、クロはどうしたのよ?」


 私は問いかけた。一番に反応したのはシリアだった。


「あ、あんな変態放っておけばいいんだよ……!」


 んー、相変わらずの扱いってとこね……。ついでに言えば、シリアの頬が色付いている気がする。

 いつからか、クロに対して好意を抱いてるってイメージだけど、それにしては裏腹の行動ばかりなのよね。本人も否定気味な反応だし、やっぱり違うのかしら。私の名推理は大天使級だと言うのに。


「お子様シリアルの下着なんか見ても旦那様だんなさまはそもそも興味ないんだから、そんなに気にする必要はないと思うわ。わたしみたいに魅力的な身体じゃないと下着にすら興奮しないもん。そう思うでしょシリアル?」


 サルデーニャのクロへの想いは計り知れない。考えてみれば天使で妻って何よ。不思議な子ではあるよね。

 二人とクロに何があったのかを気にしても、きっとロクな話じゃないでしょうし。

 ま、まぁ? 酒場の賭け事の件で、アイツに助けてもらった時は、少しは見直したけど……。資金はともかく、取り返せた小包みはお母様からもらった物だし。


「……君の身体なんか見たところで、プニプニすぎて幻滅されるのがオチさ!」

「な、何ですってぇ!? シリアルよりは大きさあるんだよ!」

「勝手に小さいと判定するのはやめてくれるかな!?」


 二人とも何の比較をしてるのかしら……。


「じゃあ、大きいの!?」

「……君よりはね!」

「ふーん! じゃあ、勝負しよ」

「いいよ……! 何をすればいいんだい?」


 サルデーニャの挑発に、簡単に乗っちゃうシリア。


「今日の夜、旦那様だんなさまが寝付いたら、こっそり部屋に入って、服を脱いでお布団の中に忍び込む。どっちが先に襲われるかの競争!」

「~~~でき、できないよ!?」


 あんまり騒いでると宿の管理者が黙ってなさそうね。


「アンタらそのくらいにしときなさい。セルビアに怒られるわよ?」


 ただでさえ世話になっているセルビアに見放されたらこの先、大変なのは明白。

 そう、私たちは天使じゃない! 今こそ三人の親睦を高める必要があるのよ。アイツもいないことだし、絶好の機会ね。


「ねぇ、いいこと思いついたんだけど、ここで話す前に一旦、下に行きましょ」


 シリアとサルデーニャと共に、私は1階レストランまで降り、適当な席についた。


「それで、天使ベラルーシ。重要な話でもあるのかな」

「まぁ、そんなところね!」

「わたし、旦那様だんなさま探しに行かなきゃ」


 サルデーニャは一向に座ろうとしないけど、話を進める。


「ちょっとした遊びをするのよ」


 突然の提案にシリアは目を丸くして驚いている。サルデーニャも耳は傾けているようだけど。

 私は頭上に浮く二つの『綿雲』に手を突っ込み、ある物を探す。


「――――――これ!」


 見つけたそれをテーブルに置き、二人に見せる。


「木で出来た……メダル?」


 シリアがメダルを手に取り、眺める。


「そう。以前、私がセルビアに頼まれて行った酒場に、図体の大きい男がいたのよ。そいつとした賭け……じゃなくて、遊びなのよね!」


 そう言うとサルデーニャが声音を変えて話に入ってくる。


「あのインチキは賭け事以上の悪趣味じゃない。それをする? 何考えてるの?」


 なんか刺々しいわね……。まぁ相手の男からクロが侮辱されたからか、始終、機嫌悪かったし。怒ってるわけね。


「私の知らない間にそんなことをしていたんだね。大体、天使なのにそういうギャンブルみたいなのは――――――」


 シリアが事情を把握したや否や問い詰めるように話す。


「あー、そっそういえばなんだけど! 相手の男がゲキつよで初っぱな『指導者』のメダルばかり出してたのに、急に様子が変わったのよ。それまでの不正もやめちゃって、変よね?」


 どんな不正をしたのか、あの時、分からず終いで謎のままに私はしていた。すると、サルデーニャが淡々と語り始める。


「ううん、違う。別に強かったわけじゃない。手の中に磁石を仕込んでただけ。メダルにも反応するように細工されてたし。それも微弱だから見抜くのは難しいわ。だから、あの人の不純な心の内を払ったんじゃない」


 じ、磁石ですって……そんな古典的な。しっかしサルデーニャのそれを見抜く才能っていうのは長けてるわね。私のいいライバルってとこ?


「どうして、怒りながら言うのさ……。そんなに性格の悪い人だったのかな」

「ふんっ」


 実情を知らないシリアには、あまり踏み入れさせず、遊びのルールを早々に説明した。ただ、三人ですることも含め、新ルールを加えた。細かいところで遊びに詰みが発生しないことを……それなりに何とか進行できるものよ!

 ちなみに、このメダルは、私の『綿雲』によって複製した物で、盗んだわけではないからね?


「さぁ始めましょ!」


 こうして、三人の天使による戦いの幕が切って落とされた。


「あの、私もするんですか?」


 プラスもう一人。せっかくだからセルビアにも参加してもらうことにした。朝、起きたばかりのはずなのに、ふわふわの巻き髪にパジャマ姿で、私たち天使にも劣らない清楚さがあるのよね。でも、私が上ー!


「セルビアは最後。この中の誰かが、先に三勝した方から挑戦権を得るんだってさ」

「はぁ……そうなんですか」


 最初に私たちは順番を決めた。一番目を求めたのがサルデーニャ、シリアが二番目で、私が最後。当事者でもあるし、これくらいはハンデかしらね。

 サルデーニャがまず、七枚ある裏のメダルを配置し、合図を出す。合図後、シリア、私、と順にメダルを取ったら、次の順のシリアがメダルを配置し直して、サルデーニャに取らせる。取ったメダルを見せあって、勝敗が決まり、次に回る。

 ラスボスのセルビアに挑む順位を決めるため、手順に沿っていったわけだけど。結果的にいきなり『指導者』を出した幸先の良いサルデーニャがトップ。続いて私とシリアによる接戦……ともいかず、シリアが連続で『指導者』を出したことで、見事、私は最下位となったのだった。

 言い出し手だけど、この遊び、得意じゃないわ私。


 遊びは早くも終盤のラスボス対決に。


「というわけでー、わたしの勝ちぃ」

「負けました」


 サルデーニャ対セルビア戦、なんなくサルデーニャの勝利。


「私……どうして、ラスボス扱いなんですか」

「知らない。あ、勝ったよ」


 シリア対セルビア戦、シリアの勝利。


「悪いわね、セルビア!」

「ベラさんにも負けるなんて……」


 最後の最後で私にも『指導者』メダルが出てくれて、勝つことができた。

 セルビア討伐天使共同作戦、成功ってところね。


「結局、誰にも勝てない遊びをさせられただけでした……」


 一人、頬を膨らますセルビア。全敗してるものね。


「そう落ち込まないで。セルビアのおかげで私たちの絆みたいなものが、より結べた気がするわ!」

「もういいよね? わたし、旦那様だんなさま探しに行ってくるね」


 サルデーニャが席を立ち、宿屋から出ていく。


「……私たちの絆って」

「いいよ、夫婦共々仲良くさせておけばいいさ。それより、少しアレンジを加えてもう一戦二戦しない?」


 シリアまでそんなことを……ってその遊びハマった?


「次は負けませんよ……!」


 負けたのに、妙にやる気なセルビア。その姿に私も影響された。


「じゃあ、リベンジ戦ってことで、私からでいいわね!」


 この後、ある程度、遊びを楽しんだところで、セルビアの手伝いをしつつ、半日は軽く過ぎた。そのうちクロが戻り、サルデーニャが遅れて帰ってきたのだった。


 まだまだ私たちの一日は、終わりそうにない。

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