憲司(父)を迎えに
二階の窓からトタン張りのバラックの家が見える。
煙突から夕食の煙が上がっている。
マコトの家は二階の『間借り』だった。
六畳と四畳半に小さな台所。
六畳間の奥には箪笥と衣桁。
衣桁には憲司の丹前が。
四畳半の中央に折り畳みのお膳が置いてある。
壁の食器棚の上にはラジオ・・・。
ラジオの隣には十字架と白い素焼きのマリア像が優しく家族を見守って居る。
マリア像の前には牛乳瓶の花挿。
花挿しには一輪の『白い薔薇』が部屋を飾る。
蚊取り線香の白い煙が、昇り竜の様に天井に上がって行く。
憲司の作ってくれたゴム鉄砲で遊ぶマコト。
道子(母)が台所で二人(マコトと道子)だけの夕食を終え、食器を洗っている。
マコトが、
「母ちゃん」
「何?」
「とうちゃん遅いねえ」
道子の食器を洗う手が止まる。
呆れた顔でため息を吐く道子。
「マコト」
「なに、母ちゃん」
「ラッキーに行って父ちゃんが居るかどうか見て来な」
「ラッキー? ラッキーってパチンコ屋?」
パチンコ屋『ラッキーホール』。
閉店近い店は客もまばらである。
店内に流れる流行りの「お富さん」の曲。
店の奥に憲司(父)が居た。
作業服姿で真剣に玉を弾いている憲司。
マコトは憲司の傍に行きズボンの裾を引く。
裾を引かれ、驚いて振り向く憲司。
「・・・! なんだマコトか。迎えに来たのか」
「うん」
憲司はマコトを見て優しく笑う。
「やってみるか?」
「いいよ。父ちゃん、早く帰ろうよ。母ちゃん、怒ってるよ」
「怒ってる? そうか。じゃ、これが無くなったら帰ろう」
と、そこに海老原(パチンコ屋の支配人)が小箱いっぱいの玉を持って憲司の側に来る。
海老原はマコトを見て、
「黒沢さんの息子さんかい。迎えに来たのか?」
「うん」
「そうかい」
海老原はにっこりと笑う。
憲司も釘に弾かれる玉の流れを見ながらタバコを咥えて笑っている。
海老原は憲司の台の前に玉の入った小箱を置く。
それを見て憲司は燻った気に、
「何だい。いいよ、エビさん・・・」
マコトは無くならない玉を見て、
「父ちゃ〜ん・・・」
続く




