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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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〜翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史〜

 2026年、秋。


 纒向遺跡の調査は一段落し、箸墓古墳周辺の内濠と渡り土堤が一般公開される日が近づいていた。


 私は、小さな勾玉をいつも首から下げて服の中に忍ばせている。


 ミナちゃんの記憶が宿った、あの小さな碧玉の欠片。


 触れるたびに、彼女の笑顔と歌声がよみがえる。


 今日、私は一人で遺跡の丘に登った。


 箸墓古墳の頂上近く、風が三輪山から吹き下ろす場所。


 ここは、かつての纒向の中心だった。


 ミナちゃんの意思を継続したヒミコが、三百年後に立って祭りの歌を歌った場所。


 勾玉を掌に載せると、淡い光が指の間から漏れた。


 思わず閉じた目を、静かに開く――


 視界が広がる。


 そこに立っていたのは、もう自分では無かった。


 小さなミナの体で、広場に立っている。


 神女様(私)が光に包まれて消えていく瞬間。


「神女様……行かないで……」


 でも、神女様は微笑んで、「ミナちゃん、私の分まで、みんなを笑顔にしてね」と言ってくれた。


 光が消えた後、私は泣きじゃくった。


 でも、胸の勾玉が温かくて、「大丈夫だよ、ミナ。私はいつもここにいる」と囁いてくれた。


 それから、私は毎日、神女様の教えを守った。


 田畑を広げすぎないこと。


 祭りの場を大きくして、みんなが集まること。


 中河内、吉備、出雲の人たちと、結婚の絆を増やして、家族のようにすること。


 狗奴の影が迫ったときも、勾玉の光で守った。


 ヤタおじさんが「新しい神女」と呼んでくれた日、オオミお姉ちゃんとオクトお兄ちゃんが、私を抱きしめて泣いてくれた日。


 時間が流れて、私は大きくなった。


 前方後円墳が初めて築かれたとき、私はその頂上で歌った。


「争いじゃなくて、笑顔のクニ。纒向は、みんなの心の中心だよ」


 勾玉は、私の胸でずっと輝いていた。


 そして、ある日――


 勾玉が最後に大きく光った。


 それは、久しぶりに聞く勾玉の『声』だった。


『ミナ、よくやった。

 お前の意志は、ヤマトの王権を支えた。

 これからは、私が繋ぐ番。

 現代の私に、会いに行くよ』


 光が、私の体を優しく包んだ。


 そして、私は静かに目を閉じた。


 最後に見たのは、みんなの笑顔と、三輪山の空。


 ――現代に戻る。


 私は箸墓古墳の頂上で、膝を抱えて座っていた。


 勾玉は、もう光っていない。


 ただの小さな石。


 でも、私の胸の中には――


 ミナちゃんの記憶が、完全に溶け込んでいた。


 涙が止まらなかった。


 それは、悲しみじゃなくて、「ありがとう」の涙。


 私は立ち上がり、空を見上げた。


 三輪山の向こうに、夕陽が沈む。


 風が、私の髪を優しく撫でた。


 まるで、ミナちゃんが最後に手を振ってくれたみたいに。


「ミナちゃん……おばちゃんは、ちゃんと笑顔でいるよ。

 あなたが繋いでくれた歴史を、これからも見守るから」


 首から勾玉を外すと、土にそっと置いた。


 それは、誰かの手に渡る日を待っている。


 次の神女に。


 次の時代に。


 私はゆっくりと丘を下りた。


 背後で、風が小さな音を立てた。


 それは、祭りの歌の残響のように聞こえた。


 纒向は終わらない。


 勾玉の光は、形を変えて永遠に次代へ繋がっていく。


 過去と未来、心と心が、一つの輪の中で静かに輝き続ける。


 翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの物語を伝えるために。

 


 おしまい。


 最後まで読んで頂きありがとうございました。

 新たな話しを考えた際に、おばちゃん主人公ってどんなだろう? と思ったのがキッカケに生まれた物語です。

 邪馬台国近畿説をベースに、あえて邪馬台国とは明言せずに纒向遺跡を取り巻く物語としてみました。

 

 6作目の長編小説でした。

 次回作でまたお会いできる事を夢見て。


               ーカジキカジキー

 

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