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『翡翠の勾玉が繋ぐもう一つの歴史』 〜65歳考古学者おばちゃんの古代倭国セカンドライフ〜  作者: カジキカジキ


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40日目 〜降らぬ雨と、未来への一歩〜

 季節は梅雨のはずなのに、太陽は容赦なく照りつけ、地面はひび割れ、川の水は浅く細い。


 しかし、二つの村が手を組み、水車を築き、用水路を整備したおかげで、田畑はなんとか緑を保っている。


 子供たちは水の音に耳を傾けながらも、自由になった手を次の仕事に振り回す。


 水汲みは減ったが、草取り、苗の植え替え、魚獲り、土器作り……村の暮らしは止まらない。


 私は、先日作った竪穴の炉を改良して、土器の試作を続けていた。


 壊れた土器の破片を細かく砕き、粘土とよく練り合わせて四角く成形する。


 これを低温で焼けば、熱に強いブロックになるはずだ。


 弥生の村人たちが使っているのは、基本的に野焼き。


 土器はせいぜい900〜1000℃前後で焼くのが限界で、須恵器のような硬質で灰青色の陶器はまだ何百年も先の技術。


 でも、このブロックがあれば……少しでも炉を強く、熱くできる。


 ふふふ……私の40年に渡る研究とライフワークが、ここで試せるなんて!


 大学で学んだ縄文から弥生、古墳、奈良、そして現代の焼物。


 土器、須恵器、陶器、白磁、ボーンチャイナ、セラミック……。


 お父さんが見せてくれた鍛冶の鉄器まで。


 この時代で手に入るものは何でも試して、最終目標は村の皆が飢えずに暮らせる豊かな生活――そして、いつかガラスを作ること!


「神女?」


 背後から声がした。


 村の大人のリーダー、オクトさんだ。


 彼は二つの村の橋渡し役で、私の妙な発想を一番理解してくれる数少ない人。


 今日は水車の様子を見に来たのだろう。


「オクトさん、ちょうどいいところに来たわ。

 今までの野焼きじゃ、土器は割れやすいし、炭もまばらにしかできない。

 これで少しでも熱い炉を作って、良質な炭を増やしたいの」


 オクトさんはしゃがみ込んで、練り上がった粘土の塊を指でつまんだ。


「神女のやる事には反対しない。

 村が豊かになるなら、俺は協力する」


 私は少し考えて、答えた。


「まずは、みんなが一緒に料理できる共同の竈門はどうかしら?

 今は各家で別々に火を焚いて、薪を無駄に使ってるでしょ?

 一つの大きな竈で村の食事を作ったら、手の空いた者は他の仕事ができるし、病気の者や足の悪い者も手伝える。 それに、このブロックで炉を固めれば、もっと長く熱く使えるようになるわ」


 オクトさんは目を細めて、遠くの田んぼを見た。


 「確かに……今年は雨が少ない。

 去年の飢えを思い出すと胸が痛む。

 薪を節約できて、みんなで食えるなら悪くない」


 「竈門ができたら、次は土器の改良ね。

 もっと丈夫で、水漏れしにくい容器を作りたいの。

 米や干し魚を長く保存できれば、冬の飢えも怖くない。

 そして炭を良質に焼いて、鍛冶の道具を少しずつ良くしていく。

 もちろん、争いは避けたい。

 でも、何もしなければ、いつまでも弱いままだわ」


 オクトさんはしばらく黙っていたけれど、やがてゆっくり頷いて。


「……わかった。俺がオババたちに話してみる。

 『武器のため』じゃなく、『村の皆のため』と言えば、聞く耳を持つ者もいるはずだ。

 ただし、最初は共同の竈門から。

 それが上手くいってから、次を考えよう」


 私は胸の奥が熱くなった。


「ありがとう、オクトさん。

 まずは、このブロックを焼いてみて、炉の壁を作ってみるわ。一緒に手伝ってくれる?」


「ふん、仕方ないな」


 オクトさんは笑って、薪を運んでくれた。


 共同調理場は、村の中心に作る。


 大きな竈門を中心に、みんなが座れるスペースを。


 雨の日でも火を焚けるように、屋根付きの掘立柱建物も考えている。


 炭はまだ野焼きを改良しただけのものだけど、それでも今よりずっと良い炭が焼けるはず。


 池で見た二つの未来。


 争いのない平和な道を選ぶために、技術を少しずつ積み重ねる。


 耐火ブロックの最初の試作品が、炉の底に並べられた。


 火入れの瞬間が、待ち遠しい。


 空梅雨の陽光の下、村は少しずつ、強く、豊かになっていく。


 みんなで、未来を創るために。


 

村の為に土器や窯の改良です。未来を豊かにする為に……。


 次回は、共同調理場がいよいよ完成しましたよ。


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