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第8ブロック予選 天藤チームVS雪下チーム 後編

その後も試合は、トントンと進んでいった。

そして試合は1-0のまま4回裏へ。    

守備につく前に天藤の呼びかけによって俺たちは円陣を組むことに。


「姉さんが本気を出してきたわ。リードしているとはいえ、全く油断できない状況よ。そしてこの回、相手チームは2巡目。上位打線で始まるここが間違いなくターニングポイントになるわ。この回をしっかり抑えること、いいわねみんな!」


天藤はこのイニングの重要性を改めて説明する。

そして俺たちは守備についた。

バッターボックスには1番打者の男子。


カキーン


「ファール! ボール! ファール!」


1打席目よりもバットを出してきている。

なるほど、1打席目はなかなかバットを振ってこないとは思っていたけど、そのときはじっくりとボールを見極めていたわけだな。


「ボール! ファール! ボール! ファール! ファール! ボール! フォアボール!」


ファールで粘られ、結果フォアボールを許す。

ノーアウトで先頭のバッターを出してしまった。


次は2番打者。 

ここで気をつけないといけないのは盗塁だな。

高めに要求しよう。


「走ったああ!」


案の定走られる。


「セーフ!」


くそ、盗塁を決められたか。警戒していたが、完璧なスタートだった。あれは抑えられない。

だが確信があったようにも見える。さては岸田がクイックが苦手というのをデータに入れてたか。やはりAクラスは手強い。


そして更に相手はバントをしかけてきた。


「ウソだろ!? あいつらも!」

「そんなあ!」


俺たちの使った策をこんなにも早く模倣し、返してくるとは。これにはメンバーたちも驚きを隠せないでいる。

なるほど、雪下の差し金か。いっぱい食わされた。


送りバントを見事に決められ、ワンアウト三塁。

次いでバッターは3番、桃香。同点のピンチだ。


この試合は1点が非常に大事になる試合。一点も与えたくない。ここは敬遠しよう。


「ボール!」

「敬遠すんのか岸田あ!」


桃香は俺ではなく岸田を挑発する。

岸田を挑発するあたり賢いな。


「んだと!? おめえらだって桜小路を敬遠してるじゃねえか」

「今のアタシを見てそう思うのか? それは前の話だ!」


敬遠してたのはバーサクじゃない方の桃香だったしな。今のこいつは俺を敬遠しないだろう。


「このキャッチャーの言いなりか? あ?」

「はあーっ!? くそったれが!」


ムキになる岸田。


「おい桜小路、敬遠はなしだ。勝負すんぞ!」

「いや、さすがにそれはまずい。塁が空いている」

「るせえ。ここまで言われて引いてられっかよ! 勝負するからな!」

「……わかった」


聞く耳を持たない。

まあ、岸田ならそうなるよな。桃香はそのことを計算した上でキャッチャーの俺ではなく岸田を煽ったんだから。 


「おらああ!!」


岸田の剛速球がストライクゾーンへ。


「捉えた!!」


カキーン!

痛烈な打球は外野の頭を超え、ホームランとなる。

2点取られ、逆転を許してしまった。


「ちっくしょおおおお!! 逆転されちまったあ! くっそおおおお!!」


岸田は悔しさ一杯に歯を食いしばりながら、グローブを地面に投げ捨てる。

桃香のほうが上手だったようだな。

気を取り直せ岸田、まだワンアウト。ここできっちり抑えて、逆転すれはいい。


カキーン!


「二者連続……か」


桃香に打たれ動揺したのか甘い球を捉えられ、4番の男子に続けざまにホームランを打たれてしまった。

これで1-3。


「くそおおおお!!」


明らかに調子が崩れた岸田。そして流れを掴んだAクラス。

5番、6番と立て続けにヒットを打たれる。

このままでは試合が壊れてしまう。これはもう岸田では限界かもしれない。


「タイム!」


ここで天藤がタイムを取る。

天藤含め内野陣がマウンドに集まる。


「ピッチャー交替よ。岸田君。ボールを渡しなさい」

「うるせえ! このまま引き下がるわけには……」

「明らかにフォームが崩れてきているわ。今のあなたでは抑えられない」

「でもよお……!」


ここで無理に岸田を下げてもかえって自信を失わせてしまう。今後に影響するかもしれない。

俺も降板には賛成だったが、今の岸田の反応を見て撤回したほうが良いと思い直した。


「ちょっといいか天藤?」

「どうしたの桜ノ宮君」

「この回だけは最後まで岸田に投げさせてほしい。自分で巻いた種は自分で刈り取るべきだ。……まだ諦めてない、そうだよな岸田?」

「あ…………ああ。最後までやってやるよ!」


タイムが終了し天藤たちはそれぞれの場所へ戻っていく。

マウンドは俺と岸田だけになる。


「この際ランナーは気にするな。やむを得ないがワインドアップで投げろ」

「え?」

「そのほうが落ち着くだろ?」

「わ、わかった!」


そう言い残して俺も守備位置に戻った。


「うおおお!!」


ワインドアップで投げる岸田。

ワインドアップは投球までの時間が長い。

それを確認したAクラスは当然盗塁、ダブルスチールを決める。

ワンアウト2、3塁。


「ランナーなんて考えるな! こいつを三振にとればいいんだからよお!!」

「ストライクアウト! ストライクアウトー!!」


「っしゃあああ!!」


岸田最後の力を振り絞った投球。二者連続三振を奪いなんとか3失点で留めることができた。


「お疲れ様。いいピッチングだったわよ岸田君」

「すまねえ……あとは頼むわ」

「ええ。私に任せなさい」


ここでピッチャー岸田が降板する。


さて、ここから逆転していきたいところだが。

5回表

8番 瀬田 凡退

9番 奥田 三振

10番月島 三振

本気を出した桃香を前にあっさりと三者凡退に終わる。


続けて5回裏。

岸田に代わって天藤が登板。

安定したピッチングで9、10、1番打者を難なく三者凡退。変化球を使うまでもなかった。


そして勝負は終盤の六回表へ。

まだ7回が残っているとはいえ、1番から始まるこの回が実質ラストチャンスだと思っていい。

先頭打者は杜尾。


「杜尾氏、左のバッターボックスに入ったでやんすよ!」


奥田の言うように、右打ちの杜尾が左打席に立つ。

何か策でもあるのだろうか。


「相手ピッチャーの様子が変わってから、ヒットを打つのが明らかに難しくなっている。だったらこれに賭けるしかない!」


桃香が投げた瞬間、杜尾はバントの構えを取る。

コツン、と音がなりボテボテのボールはサード方向へ。

陸上部の杜尾は全力で走った。


「セーフ!」


セーフティバントを見事に決めてのけた。


「ナイス杜尾ー!」

「ありがとう、左打ちの方が一塁への距離が近い。その分セーフになる可能性が高い。狙い通りだった!」


なるほど、だから左に入ったのか。

よく気づいたものだ。それに利き打ちじゃない方でよく決めることができたな。


さて、先頭のバッターがでた。

次は俺の打順か。

雪下が敬遠しようとするが、桃香は首をふる。


「ストライク!」


勝負を挑んでくるようだな。

本当はホームランを打って追いつきたいところだが、今の桃香から打てる自信はない。

ならば確実に後ろにつなげる。バットを短く持とう。


カキーン


確実にミートさせ、レフト前にクリーンヒットを放つ。 


「いいよ桜之宮君ー! 続けー!」

「やるでやんす!」


ノーアウト一二塁。

打席には天藤。ここが実質の勝負どころだ。

二塁からのサイン出しは通用しない。

真剣勝負だ。


カキーン!


天藤の打球はセンター後方深くにぐんぐん伸びてゆく。

これは長打コース。

しかし、センターを守る選手の動きを見て俺は立ち止まることにした。

まさか……間に合うのか?


「アウト!」


相手もかなり手強いようだ

ここに来て執念のダイビングキャッチでファインプレーを見せる。


「戻れ、杜尾!!」

「えっ……?」 


声をかけたが、時既に遅し。杜尾はホームベース直前まで走っていた。

杜尾は全速力で二塁へ戻ろうとするも、先に返球されダブルプレー。

ツーアウト一塁。チャンスが一瞬にして消え去った。


そしてバッターはここまで無安打と大ブレーキの岸田。


「ああー、終わった」 

「これは無理だな」


観客席にいるクラスメイトからも諦めの声が出始める。

クラスに諦めムードが立ち込める。

そんな通夜のような雰囲気を気にもとめない様子で、岸田は至って冷静にバッターボックスへ向かっていった。

そして一塁、俺のところを見据える。


「さっきはサンキューな桜小路、目が覚めたぜ。まだ諦める訳にはいかない」


岸田は続ける。


「ベンチで考えてた。どうすりゃいいかって。そんで思ったんだよ、簡単なことだ。取られたもんは仕方ねえ。だったら自分のバットで取り返せばいい。それだけなんだよ」


岸田は悟ったような顔でバットを場外向けて高く掲げる。


「ホームラン打つってか? 上等だよ!!」

「来いよ天藤の姉貴。さっきやられた分は返させてもらうぜ」


桃香はこの日最速のストレートを投げる。


カキーン!


完璧に捉えた打球は一瞬でグラウンド外へ。場外ホームラン。

岸田の起死回生の一打で3-3。同点に追いついた。


「っしゃああああ!!」


ベンチに返ってくるといつもの雄叫びを上げる岸田に戻っていた。


そして六回の攻撃を終える。

なんとか追いついたが、ここまでのようだな。

もう上位打線が回ってくることはないだろう。

これで俺たちの勝ちはなくなった。

しかし得失点差の関係上、引き分けの場合でも俺たちのチームが決勝に進むことができる。

あとは天藤が抑えてくれるかどうかにかかってくる。


そして同じくこの六回。2番打者から始まるこの回が正念どころだろう。


「アウト!」


先頭バッターをファーストゴロに打ち取る。

これでワンアウト。そして次は3番桃香。


「ここで終わる訳にはいかない! 本戦に行くのはアタシたちなんだああ!!」


ピンチに追い込まれた桃香は闘志を燃やしている。またしても打ってきそうな雰囲気を醸し出している。


「勝つのは私たちよ姉さん。はあっ!」


天藤の第一球。


カキーーン!


天藤の直球を真芯で捉えられた。

打球はレフト線ギリギリを飛ぶ。

飛距離だけ見るとさっきの岸田の特大ホームラン並の距離。

ファールになるかホームランになるか。


「だめよ、切れてーー!!!」


天藤が必死に叫ぶ。


「ファール!」


数センチ左に逸れた。間一髪。命拾いした。


「あーあ。おしー。あとちょっとだったのによー。でもいいや、調整して今度こそ外野の頭を超えてやる!」


「……これはやるしかないようね」


天藤は唇を噛みしめる。どうやら覚悟を決めたようだ。変化球、使うんだな。


「切り札は本戦トーナメントまで取って置くつもりだったのだけれど。予選ここで使わないと先には進めないみたいね」


バントやスクイズ、それに加えて変化球。

予選段階でここまで手の内を見せなければならなくなるとはな。

観客席を見れば、五木、御神楽、そしてBクラスリーダーの西園寺たちが偵察にきている姿も確認できる。

つまり、ここで変化球をお披露目するということは、彼らに対策をたてられる時間ができるということなのだ。


だが、状況が状況だ。そうは言ってられない場面に来ている。今のファールを見て、変化球なしで桃香を抑えることは不可能であると確信した。

もうやるしかない。

この1ヶ月天藤と練習した変化球を使うしかない。


「姉さん、これが私の本気よ!」


第2球目。天藤はスライダーを放った。


「さっきよりも遅くなってんじゃ…………っ!?」


天藤の投げた球はバットにふれる手元でググッと曲がり落ちる。桃香から空振りを奪う。


「どういうこと!? ボールが曲がった!!」


桃香含め群衆が唖然としている。


「ボールの軌道が真っ直ぐだけとは限らないそうよ」

「ぐぬぬっ。紫苑、お前…………!!」

「これでおしまいよ、姉さん!」


3球目。外角低めいっぱいのスライダー。


「うおおお!!」


カキーン


桃香は必死に食らいつく。なんとかファールに留めた。

一球見ただけでここまで順応できるとは。

このままファールで粘られるとマズイな。いずれ球筋を見極められてしまう。

その前になんとか抑えなければ。


「心配しなくていいわ、桜之宮君。次で決めるから」


俺の考えを見透かすように彼女はそう言うと、次の球を投じる。コースはさっきと同じ外角のスライダー。


「さっきと同じところ! アタシをなめすぎ! もらったあああ!!」


スライダーの軌道に合わせ、桃香はフルスイングする。

そしてボールはミットに近づくに連れ、外角側に曲がってい…………かない!?


スパーン


「ストライクアウト!!」


桃香のスイングは空を切り、三振に倒れる。


「何も同じ球速で投げる必要はない。それを教えてくれたのは姉さんでしょ?」

「うぐっ………!!」


天藤はただスライダーと同じ球速に合わせてストレートを投げた。そしてスライダーの軌道を振らせたと。

最後は相手の策を応用した。

やるじゃないか天藤。味方の俺まで騙された。



「ゲームセット!」

「「「ありがとうございましたー」」」


そして7回も無失点で締め、試合終了。

結果は3-3で引き分け。

以上で第8ブロックすべての試合が終了した。

俺たちのチームは1勝1分。勝ち点は雪下チームと並んだが、得失点差の差で俺達のチームが予選を制することとなった。


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