第8ブロック予選 天藤チームVS雪下チーム 前編
初日の予選が終了した。
予選の結果、この日決勝トーナメントへの切符を手に入れたのは、
第1ブロック Fクラス中山チーム
第2ブロック Cクラス五木チーム
第3ブロック Bクラス霧江チーム
第4ブロック Dクラス御神楽チーム
である。
上杉チームは残念だったが、中山チームが健闘し決勝トーナメントへ駒を進めることができた。
そして試験は二日目に突入する。
この日は第5〜第8ブロックの予選が行われる。
俺の属する天藤チームは第8ブロック。
第一試合にCクラスの坂山チームと、そして第三試合に桃香・雪下率いるAクラス雪下チームと対決する。
時刻は10時、場所は第四グラウンド。
これより第一試合が始まる。
試合を前に俺たちはベンチに集合し、岸田を中心に円陣を組む。
「よーしお前ら。いよいよオレたちのチームの番だ。何が何でも勝って、決勝トーナメントに行くぞ!! 天藤チーム、ファイトー!!」
「「「ファイトー!」」」
腹の底から掛け声をだし、気合を入れる。
「プレイボール!」
そして俺たちの初陣が始まった。
◆
「ゲームセット!」
午後11時間30分。
ゲームは終了した。
3-0でなんなく勝利をおさめる。
敵の守備が上手く思ったより点を取れなかった。15ポイントしか稼げなかった。
このメンツならもう少し点をとれたんじゃないかと思うと、少し心残りではあるが。
もしかしたらCクラスは守りに力を入れた方針のかもしれない。
「んじゃあ第二試合は休みというわけだし、観客席に戻ろうぜ!」
岸田を先頭にチームメンバーたちは足を進める。
「待ちなさい」
天藤が岸田を呼び止める。
「あ? なんだよ天藤」
「第三試合のことで大事な話があるの。一緒に食堂に来てもらえるかしら」
「はあー。せっかく勝や慎二たちと昼めし食いながら観戦しようと思ってたのによー」
岸田が渋々ながらも納得する。
「杜尾君、あなたもいいかしら?」
「え、俺!?」
天藤チームの1番打者にして陸上部男子の杜尾は、自分が呼び出されたことに驚きを隠せないでいる。
そして天藤はこちらに視線を向ける。
「最後は桜之宮君。いいわね」
「わかった」
当然断る余地もなく。
俺たちは食堂に連れて行かれた。
昼休み時間にはかなりの人の集まる食堂だが、この試験期間中はほとんどの生徒が観客席で飯を食べながら試合観戦をする。そのため、食堂はガラガラである。
それこそ大事な話を聞かれる心配もないわけだ。
共通しているのは、ここに集められたメンバー全員が1番〜4番の上位打線であること。それが関係しているとみて間違いない。
「察しの通り、主力メンバーに集まってたもらったつもりよ。これからこの試験を勝ち抜くための作戦・戦略をあなたたちに共有するわ」
チームメンバー全員に横通ししないのはその戦略が相手チームに漏れるのを防ぐためだろう。
あえて情報共有するメンバーを絞ることで、作戦の隠密性を高めるのが狙いか。
「――――とまあこれがルールから見つけ出した新しい戦い方よ。ちゃんと理解してくれたかしら」
天藤はヒットエンドラン、サイン出し、スクイズ、盗塁アシストのような概念を横通しした。
サイン出しについては元は俺が提供した情報だったが、それ以外は彼女が自力で見つけた戦略のようだ。
「なるほどな、そんな戦いができるなんて思いもしなかったぜ」
「ビックリだ」
岸田や杜尾も驚きを見せている。
「大げさにスイングしてキャッチャーの邪魔をすることで、ランナーの盗塁をアシストする……。この作戦も中々賢いと思う」
杜尾は特に盗塁アシストに関心を抱いていたようだ。
「上杉君もたくさん盗塁してたし、その重要性についてはみんなもよくわかっていると思っているわ」
そして天藤は一呼吸置いて話を続ける。
「Aクラス、雪下さんチームのピッチャーは天藤桃香――私の姉よ。彼女は優れた人だわ。ピッチャーとしても必ず手強い相手になるはず。第三試合はおそらくロースコアの戦いになることが予想できるわ」
「そこで1点でも多く稼ぐための作戦。それが今話した内容よ。ランナーがでたら以前桜ノ宮君の編み出したコツン打法、そして今言った戦略を活用する。アウトカウントの少ない状況で少しでもランナーを進めることに徹する」
なるほど。それが狙いか。いずれの作戦も進塁に特化したものだからな。
「ワンアウト以下でランナー三塁の状態を作ることができたとき、コツン打法をしてもらうわ」
つまりスクイズ作戦ということか。
あと一点取りたいってときに有効な作戦だな。
意表もつけるだろうし、それなりの効果は発揮できそうだ。
「なるほどな、わかったぜ! なんか行ける気がしてきた! 天藤桃香が相手だろがぶっ倒してやるぜ!」
「オッケー、俺もやってみるよ」
「ありがとう。みんな任せたわよ」
◆
打ち合わせ後、昼めしを食べ終えると、再びグラウンドに戻ってきた。
程なくして第二試合が終了する。
結果は4-3で雪下チームの勝利。
先発ピッチャーは桃香ではなかったため、雪下チームにしては接戦のスコアに終わる。
俺たちとの試合のために温存しているのか。それとも手の内を隠しているのか。それを知る由は今はない。
そして第三試合を迎える。
俺たちは表の攻撃。
マウンドにはピッチャー桃香。
そしてキャッチャーが雪下か。
クラスリーダーの桃香に参謀の雪下。これは相性抜群のバッテリーと言わざるを得ない。
「プレイボール」
試合が始まり、一回表の攻撃。
流石の桃香といえど男子に比べると球威は劣るか。120km、天藤とほぼ同速だ。
カキーン
1番バッターの杜尾が撃つ。
しかし、ショートのいい守備に阻まれ凡退に終わる。
「おしー! いいあたりだったのになー」
「思ったより球も早くないし、行けそうだ。ガンガンいけー!」
チームメイトたちは盛り上がっているが……。
なるほど、そういうことか。
こいつは思ったより厄介なピッチャーだ。
次のバッターは俺なので打席に立つ。
キャッチャーの雪下と目があった。
「それにしても厄介なバッテリーだな。投げるたび球速を微妙に変えている。だから捉えたと思っても凡退する。そういうことだな、雪下?」
「今ので気づいたのは流石ですね。ですがいくら見抜けたところでこの試合、あなたが戦うことはありません」
「へ?」
雪下は立ち上がり、敬遠の指示をとり始めた。
「なんだってー!? 桜小路を敬遠だとおおお!!」
「一体どういうこと!?」
「はあああ!? 篤史ならともかく、桜っちをー!?」
ベンチ、観客席からどよめきが起こる。
あのAクラスで参謀を務めるほどの頭脳を持つ雪下美羽がFクラスの平凡な一生徒を敬遠した。その奇妙さにギャラリーの視線は雪下、そして俺に集まる。
「やめてくれよ雪下、目立つじゃないか」
「いえやめません。私はこの試験であなたを一番警戒するつもりです」
前回のバトルロワイヤル試験以降、彼女の俺を見る目は180度変わったからな。
こいつの前で力を見せたのは失敗だった。
おかけでめちゃくちゃ恐れられている。
「フォアボール!」
四球を宣告され一塁へ。
ワンアウト一塁。3番天藤。
「流石に姉さんから簡単に点をとることはできない。ならば……走って、桜ノ宮君!」
天藤がバントの構えを取ったのですかさず走る。
早速仕掛けてきたか。
コツン
「あらら。面白い打ち方するねー」
桃香はバントに驚きつつも、素早いフィールディングで一塁へ送球。
天藤の意表をついたバントは内野安打とはならなかった。
しかし、ツーアウトながらも得点圏にランナー。チャンスだ。
ここでバッターは4番の岸田。
「おおおおらああ!!」
岸田が撃つ。
しかし、ひと伸び足りずセンターフライに終わり一回表の攻撃は終了した。
「おしかったな岸田ー」
「次ホームラン狙えばいいさ」
チームメイトから励ましの声。
しかし全然惜しくなどない。
打たせてとる。それが桃香の投球術なのだ。
さて、一回裏にうつる。
先発ピッチャーは岸田。
1番を三振、2番打者をあっけなく凡退に討ち取った。
そして3番の桃香に対しては、俺のリードが慎重過ぎたせいで、フォアボール。
しかし、4番を三振に打ち取り無失点に抑えた。あまりバットを振ってこなかったのは不気味だったが。
そして2回表を迎える。
5番の西宮が凡退、6番の小坂がチーム初ヒットを放つ。
ワンアウト一塁。
打席には頭脳派インテリ男子、青山学。
「内外野、前へ!」
雪下の指示の下、前進守備にシフト。
下位打線は非力と判断されているか。
どうやらうちのチームのデータはしっかりと取られているらしい。
「くそう! 僕をなめなんよ!」
舐められた守備をされ、当然怒る青山。
カキーン
「しまった!!」
打ち気に囃された青山はボール球に手を出してしまいゲッツー。
この回も無失点に終わる。
2回裏。
雪下チーム、続く5、6、7と三者凡退に終わる。
球も走っているし、岸田の調子は良さそうだ。
お互い無得点のままゲームは3回へ。
3回の表。
先頭は8番バッター、瀬田。
実力を隠しているようだが、彼女はかなりのバッティングセンスを持っている。彼女なら打ってくれるか。
「内外野、前へ」
まだ下位打線ということもあり、さっきの回から継続して雪下は前進守備を指示する。
カキン
見事な流し打ちで前進守備の後ろを破り、ライト前ヒットを放った。
「ナイスバッティングでやんすよ! 瀬田氏ー!」
「やるじゃねえかああ、瀬田あ!!」
岸田や奥田を始め盛り上がるFクラス。
「流石瀬田さんね。打順上げてもいいかもしれないわ」
つい天藤もそんなことを考え始めてしまう。
ノーアウト一塁、バッターは9番の奥田拓生。
「次は小生でやんすね。小生、バッティングは苦手であることは自覚済み。ゆえに先程の天藤氏と同じ戦法を取るのでやんす!」
コツン
なんとここで奥田がバントを決める。
まさか9番の奥田がやってくると思わなかったのだろう。相手の守備がツーテンポ遅れる。
これは内野安打のチャンス!
しかし、
「アウト!」
「かー! 奥田足おせーー!」
「今の間に合わないのかよ!」
奥田は鈍足であった。
ワンアウト二塁でバッターは月島。彼女は左打席に転向してから調子が上がってきている。
カキーン
月島、センター前ヒット
「いいぞ、月島ー」
ワンアウト1、3塁。そしてバッターは1番杜尾。
杜尾がバッターボックスへ入る直前、天藤は彼に耳打ちをする。
それを終えると彼女は続けて三塁ランナー、瀬田の元へ。
なるほど、ここでスクイズを仕掛けるのは間違いないな。
どうやら先制点をいただくのはオレたちのようだ。
その一球目。
桃香が投げると同時に瀬田が走り出す。そして杜尾はバントの構えを取った。
コツン
スクイズ成功。
「よっしゃああ!! 先制だああ!!」
ベンチがここに来て一番の盛り上がりを見せる。
帰還した瀬田とハイタッチを交わし、喜びを噛み締めあった。
下位打線組がチャンスメイクをしてもぎ取った貴重な貴重な1点。この1点は大事にしたい。
ツーアウト二塁。
続くバッターは2番の俺。
「俺を警戒しているようだが、意味なかったな。雪下」
結局のところ俺が手を出さなくても点は入る。
「くっ。まさかこんな戦略が……」
スクイズなんて概念、つい最近まで野球のやの字も知らない人間からすると当然そうなるよな。
「これはあなたが思いついた作戦ですよね?」
「いや、天藤が自分で見つけ出した」
スクイズの元となるバントの概念を与えたり、ルールを読み込ませるように仕向けたのは俺だが。
「ルールに従ったプレーをこなせるように練習するだけで精一杯でした」
「それも大事だ」
「ですが私達には応用力が足りてなかったようです。御神楽のチームにも一杯食わされてしましたし」
「……気づいていたのか」
一条チームがやられたサイン出し。あの試合の分析はすでに済ませているらしい。
「コソコソ何を話をしている。早くプレーにつきなさい」
話し込んでいると、審判の堺先生から急かされたので俺たちはそれ以上話合うのをやめてプレーを再開する。
といってもまた敬遠されるわけだけど。
「また敬遠か。どうなってるんだ!」
「いやいや、よくわからないけどラッキーじゃなーい!」
ベンチからは色々な反応が。
「フォアボール!」
またしても一塁に出塁。
二塁ランナーのみだから、さっきより出塁の旨味は薄れる。
しかし、この打席はヒットを打って流れを完全にこちらへ持って来たかったなんだけどな。
やるじゃないか雪下。
俺を敬遠するという作戦は英断だと思う。
どうやらこのゲーム、俺は本当に何もできなさそうだ。
ツーアウト1、2塁。この大事な局面でバッターは3番天藤。
「あなたには打たせたなわよ紫苑」
「いいえ打つわ。そして私たちが勝利する」
自身有りげな天藤。彼女は二塁ランナーの杜尾をチラリと見る。
期待通り杜尾は帽子の触り方や指の形、仕草等で敵に怪しまれないようにサイン出しを行っていた。
彼のサインによると、コースは内角低めらしい。
ピッチャー第一球。
「ストライク!」
天藤、空振りする。
「え!?」
天藤は焦る。なぜならサインとは真逆、外角高めにボールが投げられたからだ。
それもそのはず。雪下たちは一条の試合を見て、サイン出しについて対策を行っていたわけだからな。
逆球の指示はおそらく雪下が行ったものだろう。どうやら向こうもバッテリー内で俺たちには分からないようなサインを作っているのだろう。
「なるほど、あなたたちも気づいていたと」
どうやら今の空振りで天藤は雪下たちがこの戦略の対策を立てていることに気づいたようだ。
「それならば正々堂々と打つ!」
カキーン
サインに頼らず、来た球を素直に打つ。
天藤がヒットを放った。
これでツーアウト満塁。
バッターは4番岸田。
これは追加点のビッグチャンスだ。流れは完全にこちらに来ている。心なしか連打のせいで桃香の投球も乱れているようだし。今の岸田なら打てる。
ここで長打が出れば大リードだ。
「私ではここが限界みたいね。出てきていいよ……」
桃香がそう独り言を呟く。
そして数秒の後。
「……っしゃああ! 待ってたぜ! あとはアタシに任せな!」
桃香はもう一人の人格であるバーサク桃香を召喚した。
「うおりゃああ!」
球速が跳ね上がった。
ドーンと激しい捕球音がなる。
女子なのに岸田、一条並の球威。
雪下も雪下でよくあれを捕れる。裏でかなり練習したに違いない。
「ストライクアウト!」
岸田 三振。
「あいつあんなに性格変わるのかよ」
桃香の豹変を見て岸田は動揺を隠せないでいる。
「バトルロワイヤル試験でも見せてたと思うんだけどな」
「んなもん見てねーよ。オレたちのクラス応援するのに必死だった。他のクラスを見てる余裕なんかなかった」
そういうこと。初見ならそりゃ驚くな。
ベンチを見たところ、バーサク桃香を見てどうやら驚いてるやつとそうでないやつが半々。驚いてないやつはすでにバトルロワイヤル試験で見てたってことか。
ともあれ桃香が本気を出してきた。
1-0とリードこそしているが、試合はここからが本番のようだな。




