勇者の末裔と逸般人 9
今の二〇三号室には、男女が二組いる。
俺とソピア。コウヤとクリアだ。俺たち四人は、俺が持ちかけた交渉のために集まった。ソピアは状況が飲み込めていないようで、二人に警戒心を剥き出しにしている。
「……何しに来たの」
「まあまあ、そう突っかかるな。二人は俺が呼んだんだ」
今にも上級魔法をぶっ放しそうな雰囲気を纏っているソピアは、俺の言葉で一旦下がった。一方、真っ直ぐな敵意を向けられた二人は、居心地が悪そうにしながら、適当な椅子に腰かけた。
依然として二人を睨んでいるソピアと、罰の悪そうな表情をしているコウヤの間に入った俺は、双方の要求を整理する。
「俺たちは金が欲しい。そして、俺はソピアと、ソピアは俺と旅がしたい。お前たちはソピア・スピリティア、いや、スピリティアが欲しい。そこに、他の欲はない。これでいいな?」
「ああ」
「うん」
なら、話は簡単だったはずなんだ。双方の意見は対立することはあれど、決して交わらないものではないのだから。
二人の顔をそれぞれ一瞥した俺は、誰もない正面を見据える
「じゃあ、俺たち二人纏めて、お前たちの旅に同行すれば良い」
もちろん、立場としては俺たちが有利だ。コウヤはあくまで要求する側で、俺はそれに応える側。先の戦いでも俺が勝利をしているので、その優位性はさらに大きくなっている。
「条件が、あるんだろう?」
「ああ。魔物を倒して稼いだ金の六割、魔王を倒した際の報酬を七割もらう。もちろん、それに見合うだけの貢献はするつもりだ。ソピアもコウヤも、それでいいか?」
俺の盾としての性能はこの世界随一。コウヤとの決闘では、それを見せる機会はなかったに等しいが、前線に俺を置く、ということの利便性はすぐに気付くだろう。
クリアは金には興味がないのか、目を閉じて我関せずといったスタイルだ。こいつはごちゃごちゃうるさいから、その姿勢はありがたい。
「それでソピアさん――いや、君たちが仲間になってくれるのなら、僕たちからの文句はない」
「……言いたいことは、いろいろあるけど……うん」
これで、全員の了承は取れた。あとは、王都に出向いてフィグ王に話を取り付ければ、前準備は整う。魔王は……まあ、コウヤに丸投げしよう。ソピアはともかく、俺は言わずもがな、クリアも後方支援が主な役割だろうから、攻撃力はほぼ皆無だろう。
雑魚戦ならバランスのとれたパーティーだが、ボス戦になると途端に破綻するな、俺たち。
何か戦術を考えておかねばと、俺が熟考を始めようとしたその時、コウヤがソピアをじっと見つめていることに気が付いた。ソピアもそれに気付いているようで、非常に気分の悪そうな顔をしている。
「……何?」
「ああ、いや、僕にソピアさんのことを教えてくれた人と、ソピアさんが似ている気がして」
それは聞き捨てならないな。面倒事と解決策を同時に持ち込んだ、愚かな救世主の正体は気になる。
「ディー、っていう人なんだけど」
「はあ?」
あの野郎の正体が分からない。ただの酔っ払った変人かと思っていたが、どうやら違うらしい。王都とラインを簡単に行き来できるって、かなりの金持ちだぞ。
王都からラインは、馬車を使っても、最短で十日かかる。途中で魔物に襲われでもすれば、さらにだ。危険を省みないのなら、馬車なしでも四日で到着する、凶暴な魔物が群生する地域を抜けて行くルートもあるが……
人のことは言えないが、あいつ、そんなに強そうに見えないんだよなあ。
「知り合い?」
「いいや。何て言うか、この前ギルドで一回うざ絡みされた。できれば二度と会いたくない」
「気持ちは分かります」
クリアも、あいつのテンションとは波長が合わないらしい。
しかし、これで、俺がディーに対して感じていた、既視感の正体が掴めた。
あの常に高いテンション、他人を巻き込んで状況を掻き乱す手段。それらの特徴に加えて、外見的特徴も鑑みると、クソッタレな幼馴染にヒットする。
何の因果か、ディーはリディアによく似ている。であればソピアに似ているという、コウヤの心境も理解できないまでもない。
やけにうるさい兄と、物静かな妹で、対照的な性格だ。生活環境も同じだろうに、どうしてああも差が出るのだろう。
ディーは現状、素性正体意図不明な男だ。しかし、今のところ敵でないのなら、あのうざったいテンション以外に、懸念すべき要素はない。
「あの人は、王都にいる僕らに、『魔王を倒すなら、ラインにいるソピア・スピリティアを同行させろ』って言ってたんだ。城の中にいたから、直属の魔法使いかと思ってたんだけど、違うみたいだね」
城の中にいたのなら、有力な貴族か何かだろう。それなら王都からここまでの、長距離移動のための資金も納得できる。しかし、リディアやソピアに似ている理由は依然としてはっきりしない。加えて、今はその疑問を解決できる気がしない。他人の空似で自分を納得させるしかない。
「あいつについて語っても仕方ない。王都に行くのが先決だ」
「そう、だね」
謎に満ちた男、ディーに関する話題はここで終わり、俺たちは王都へどう向かうかについての話を始めるのだった。




