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カウントアップが止まらない  作者: 白辺 衣介
五章 プロローグ
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プロローグ 3

 意を決して立ち上がる。集合時間までは、まだ半刻は残っている。今から向かえば、ちょうどソピアと鉢合わせるぐらいの時間だろう。


 走りはしない。焦る必要はもうない。俺がこれからどうすべきか。俺がこれからどうしたいか。それらはもう定まった。

 夜のラインで賑わうのは酒場ばかりだ。初心者が多いだけに安い酒場が多く、ギルドもその一部だ。時折紛れる宿屋の明かりが目に優しい。コウヤと出会ったあの宿屋も、夜になって淡い光を灯していた。


 その光の中に、ソピアがいた。


「っ、ソピア!」


 俺の声で小さく肩を震わせたソピアは辺りを見渡し、俺を見つけるとこちらへ駆け出した。俺もソピアの方へ駆け、俺たちはちょうど、あの宿屋の前で立ち止まった。


「……話って、何?」


 俺の言うべきことは決まっている。あの日、ソピアが俺に声をかけてくれたように。もう一度。


「俺と、旅に出よう」


 俺がそう言うと、ソピアは眉根を寄せた。分かっていた。ソピアは俺の身を案じて、旅は終わらせて、ラインでゆっくり過ごそうと思っていた。そんなことぐらい、俺も分かる。


「俺だって、ソピアと一緒にいるのが楽しいんだ。いろんなところを巡って、たまに危ない目に遭ったりして、そんな旅を、ソピアとしたいんだ。旅も、ソピアも、どっちも好きだから」


 俺の中にあったものは吐き出した。言えなかった言葉も言った。俺も、あまり会話が得意じゃないから、短い言葉だったかもしれないが、それでもきっと。


「わたしっ……!」


 泣きそうな顔を逸らしたソピアは、震える声で言う。


「わたし……いつも守られてばっかり、で……いつもライブばっかり危ない目に遭って、傷も治せなくて、見てるしかなくて……でも、でも、ライブと一緒にいたいから、ライブが旅をしたいって、言ってたから……っ!」


 泣きそう、ではない。ソピアは泣いていた。嗚咽混じりの声で、大粒の涙を何度も零しながら、自分の中に、おそらく旅を始めてからずっと籠っていた罪悪感を吐露した。

俺以上に口下手なソピアが必死に語る、その姿を見ていられなくなった俺は、彼女をそっと抱き締めた。


「ソピアは、俺のために旅に誘ってくれたんだな」

「でもっ!」

「ソピアが俺に着いて来てくれるなら、俺はソピアを守る。騎士、なんて格好いいもんにはなれないけど、決して崩れない壁になる。怪我も傷も大丈夫だ。俺は頑丈だからな。腹を掻っ捌かれても生きてたの知ってるだろ?」


 人の命が巡るように、神の祝福も輪廻する。いつかツブラ・ライコウが授かった祝福の先が、たまたま俺だった。形は変われど、弱くなろうと、それは神の祝福だと、ヒューリーは言っていた。だから、自分のその頑丈さは誇っていい、と。


 俺はここで満足しない。レベルを上げて、いつかヒューリーの本気でさえも通じないような、果てに至ってみせる。なんせ、俺の防御力は延々と上がっていくのだから。……まあ、防御貫通は相変わらず苦手だが。


「ソピアは、俺の傍にいてくれるだけでいいんだ」

「いい……の? わたし、リディアみたいに速くないし……ディーみたいに特別じゃない、のに……」

「俺だって攻撃力も魔力も速さもないさ」

「……うん」


 ソピアが泣き疲れてそのまま眠るまで、俺は淡い光に照らされていた。





「どれにする?」

「この辺りで強い魔物、ねえ……」


 眠ってしまったソピアを家まで送り、翌日家までソピアを迎えに行った俺は、早くも旅の準備を終わらせていたソピアに驚いた。ソピアの母親曰く、朝早起きしたらしいが……いつ頃起きたのだろうか。


 ソピアを連れ、ギルドにやって来た俺は、早速依頼に取り掛かろうと、依頼が貼りつけられたボードを眺めている。冬到来ということもあり、魔物の数も若干ながら減っている。依頼の数の多くを占めるのは、この極寒の中、採取に行ってくれというものだ。


「おっ、あいつまだ残ってるのか」


 実入りが良く、達成感がある、この辺りでも強い魔物の討伐依頼を探していると、ひとつの依頼が目に入った。


 この極寒の中、根性を発揮して暴れていたのは――


「これにするか」

「ファング?」

「原点回帰って感じで、いいかなって」


 俺は、一枚の依頼書を手に取った。

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