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カウントアップが止まらない  作者: 白辺 衣介
五章 プロローグ
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プロローグ 1

 ぐだぐだになった魔王討伐は一応収束した、という体になっている。コウヤの説得及び開設で改心――というよりは理解――したヒューリーは、フィグ王と面会し、魔物の存続と、人類へ手出しはしないという契約の下に、監視付きで自由を得た。


 「魔王はこの世から去った」というフィグ王の誤魔化しで報酬を得たコウヤとクリアは、これ以上旅を共にすることもないと、早々に旅に出た。おそらくは、俺とソピアに気を遣ったのだろう。

 空気の読めない馬鹿は、俺とソピアが一旦ラインに帰ると言うと着いて来ようとした。が、ディーに連行されて行った。曰く、「夫婦の仲を違わせると大変なことになる」。


 ああまったく、これ以上ない教訓だ。


 そして俺は、ソピアとヒューリーを連れて帰省した。

 あの戦いで負った怪我は、万能時空間魔法によって見事に戻った。おかげで、俺の左手もヒューリーの左腕、右脚も今までと遜色なく活動できている。


「ヒューリーって、体は何歳なんだ?」

「そうね、確か、二五ぐらいかしら」


 分かっていたことだが、親父やお袋の半分に近い年齢だ。これが自分の先祖だと知ったら、親父はどんな顔をするのだろう。

 多分、「……そうか」で終わりだな。


「……変わってないね」

「半年も経ってないからな」


 あそこが違う、ここが違うなどど、一々街の変容について語る、ヒューリーの話を聞き流しながらのんびりと歩く。

 俺たちが旅に出て、春が来ないうちに、魔王と呼ばれるものを倒す……とにかく、解決できるとは思いもしなかった。まあ、俺は壁役をやっていただけで、根本を解決したのはコウヤとディーだが。

 旅は、もう終わったのだろうか。


「ちょっと! ライブ! ここじゃない? ここでしょ?」

「あー、はいはい。ちょっと待ってろ」


 ラウンドの目の前までやって来て、年甲斐もなくはしゃぐヒューリーを待たせる。外観だけでも、しばらくは飽きが来なさそうなのでちょうどいい。


「ソピア。今日の夜、話があるから、二一刻頃にギルドに来てくれないか?」

「うん」


 きっと、何の話をするかは、ソピアも分かっている。それでもあえて、聞かないでいてくれたことがありがたい。こういった、ソピアの細かな優しさに、俺は何度も助けられてきた。


「じゃあ、また、後で」


 ソピアも自宅への帰路へつく。できれば送って行ってやりたかったが、途中に俺の家があることと、ヒューリーがいるせいで、それは叶わない。同じラインの中にあるとはいえど、ラインもなかなかに広い街だ。ラウンドとスピリティアは決して、近所というわけではない。

 雑踏の中にその背が消えるまで、俺はずっと、ソピアを見つめていた。


「好きなのね。あの子が」

「おわっ、急に顔出すなよ」


 俺の肩から急に顔を生やしたヒューリーに数歩後退る。単純な火力で言えば、世界を滅ぼすことができるだけの力を持っているのだから、他人にどんなことをするかは考えてほしいものだ。

 俺とソピアが一緒にいる時のクリアと、似た表情をしているヒューリーは、離れた俺にわざわざ近付いて頬を突いた。


「恋はいいものよ。大切にしなさい」

「お前の境遇を聞いて、蔑ろにする奴がいたら見てみたいもんだ」

「ふふっ。そうね。杞憂だったわね」


 ……こうしていれば、普通の女なんだがなあ。ちょっと、勘違いがすきるというか、早とちりというか。馬鹿な天才だな。やっぱり、完璧な人間ってのはいないのだと痛感する。

 ラウンドの前に立つ。帰って来るなと言われているだけに、無駄な緊張感がある。

 一度、深呼吸。一度、深く息を吸って、


「「ただいま」」


 店先で、そう大きくない声で、俺たちは帰って来たのだと、改めて確認する。


「ライブ!? ライブ!! あんた帰って来るなって言ったのに、もう帰って来たの!?」

「待て! 落ち着け! 金はある!」


 死に際の小物のような台詞を吐きながら、店の奥から全力で駆けてきたお袋に止まるように叫ぶ。それにしてもいい耳してんなクソッタレ。


「金? ああ、そんな約束してたわね」


 腕を振り上げ、ビンタの体勢に入っていたお袋は、寸でのところで俺の台詞を咀嚼した。

 ていうか、自分から持ち掛けた約束を忘れるのか……


「そんな大金、どうやって稼いだの」

「まあ、何ていうか、一山当てた感じだな」


 俺がヒューリーに視線を移すと、お袋もそれにつられる。一応、体面上は二五歳で通すつもりらしいヒューリーは、お袋目線が合うと会釈をする。お袋も、それに返す。

 しばらく互いに笑顔のまま睨み合っていたが、お袋がその静寂を破る。俺の肩を乱暴に掴み、ヒューリーに背を向け、聞こえないような小さい声で俺に語りかけた。


「あ、あんた、何よあの綺麗な人。ソピアちゃんはどうしたのよ」

「あいつとはそんな関係じゃない。まあ、なんだ。身寄りがないから、うちで面倒見てやってほしい」

「余裕がないわけじゃないけど、知らない人を急に連れて来て、面倒見ろって、あんたそれは筋が通らないでしょ」


 お袋の言い分が分からないこともない。お袋は筋を大切にする。できればヒューリーの正体は明かさないままにしておきたかったが、お袋は方便程度では納得しないだろう。


 親父なら簡単に言い包められるんだがなあ……親父も家庭内の序列はお袋より下だから、仲間に加え入れたところで大した意味にはならない。

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