抱腹九死 5
「ライブ……?」
ノイ、レイという二人に案内され、客間で落ち着くと、真っ先にソピアに声をかけられた。
「悪い、柄にもなく熱くなった」
椅子に座り、目を左手で覆う。冷えた手は、煮えた頭を冷やすのにちょうど良かった。
コウヤたちと部屋を分けてもらって正解だった。あの二人に余計なことを言われると、また再燃してしまうかもしれない。
「……辛かったら、頼って、ね?」
「ああ、ありがとう」
ソピアに要らない気まで使わせて、一体俺は何をやっているんだ。
しかし、魔王を放置していれば、五年を待たずに人類が滅ぶのは確かだ。倒さず、しかし封印はできず、八方ふさがりのこの状況で、俺は何を目指せば……
悩んでも、学校での授業内容すら、まともに覚えていないこの頭では、たかが知れている。今は、俺ができることをやるべきだ。
椅子を動かして、机の上に俺がコウヤから取材した成果を広げる。「ライフル」、「ショットガン」、その二つの特性を比べて、俺に合った方のメモを手に取る。
「ショットガン」。それは、俺が持つ銃よりも大きく、一度に多くの弾を撃ち出す銃。コウヤの故郷では、弾を変えれば一発で威力の高い弾を撃つこともできるらしいが、後者の機能は完全に別物として作った方がいいだろう。
おおよその構想を練り終わったところで、部屋の戸が数度ノックされる。
「少し早いですが、夕食をお持ちしました」
ノイかレイ、どちらかが夕食を運んできたようだ。窓から陽の高さを見れば、なるほど確かに、そんな時間ではある。空腹感すら忘れてしまっている俺たちには、ちょうどいい時間だろう。
戸を開けて入って来たのは、メイド服を着ていることから察するに、レイだ。
「冷めてしまいますので、お早目にお召し上がりくださいませ」
「ああ、ありがとう。適当なところに置いててくれ」
「はい。では、失礼いたします」
配膳台を置いたレイは、そのまま退室して行った。こちらにレイが来たということは、あっちの二人の部屋には、ノイが来たのだろうか。
まあ、とりあえず飯を食うことが先決だ。既にテーブルの上に配膳を始めているソピアを手伝うために、俺も作業台としていた机から立ち上がる。まったく同じ料理が二セットあるので、どれがどちらと選ぶようなことはなく、淡々と並べていく。
「じゃあ、早速、食べるか」
「うん。わたしも、食べ物見てたらお腹空いてきた」
どう考えても今更だが、腹が減ったタイミングで、美味そうな飯が並べられているなら食べる。当たり前のことだ。毒が盛られているわけでもないしな。こういう場特有のものなのか、量がやや少なめで、物足りなく感じる。
ただで食えるものに文句をつけるのもほどほどに、俺はテーブルマナーガン無視で食べ始めた。
カチャカチャと、食器が皿とぶつかる音だけが、しばらく俺たちの部屋に木霊する。
「さて、と」
ほどなくして食べ終わった俺は、食器その他を配膳台に戻してから、元の作業机に戻る。この世界に元から存在している銃の部品から、ショットガンの組み立てができないかどうか模索する。
できることなら、本家本元、火薬などをを使用するショットガンを作っておきたいが、そうはお国が許さない。
先に、銃弾を込める方を作れるなら、そっちの方が楽なんだがなあ……一度に二つの武器を作れて、一石二鳥だし。
ショットガンのキリナイトの分量は、今の銃の比率から、どれだけの魔力を込めるかを想定しながら調整すれば、暴発はしない程度の試作品ができるだろう。
俺がショットガンの製作に、夢中になっていると、ソピアがくあ、と欠伸をする声が聞こえた。
「……なんか、眠い、から……先に、寝るね……」
「ん。ゆっくり休めよ」
「……うん」
やけに眠そうだ。まあ、長旅で疲れたところに、飯を食えば眠くもなる。生活習慣がきっちりしているソピアでも、疲れには勝てなかったということだろう。
ゆったりとした足取りでベッドに潜り込んだソピアは、しばらくという時も経たないうちに寝息を立て始めた。既に陽は地に飲み込まれ始めている。
俺も、あまり遅くならないうちに寝るか。これ以上体を酷使すると、いざという時に動けない。
今一度、俺は作業机に向き合った。
実験、試作、その他諸々含めて、キリナイトの岩塊がいくつか必要になりそうだ。キリナイトは鉱石の中ではかなり軽いから、人一人分ぐらいか。
でもなあ、それでも高いんだよなあ。ボムダケとは比較にならないほど高い。握り拳ほどで、純度が高いものだと十万はいく。何故鍛冶師という職は出費が激しいのか。
手元にある金で、約二十万ルプ。銃という、繊細な武器を扱う以上、できるだけ品質の良い素材を揃えたい。となると、その二十万は一瞬で消えてしまうわけだが……
ショットガンを完成させて、手元にあるこの銃と並べて売れば、かなりの額稼ぐことができるのは分かっている。が、それでも二億は無理だ。すぐに銃が広まるわけもなく、これもまた、すぐには大量生産もできない。
やはり、魔王を倒さず、何とか、どうにかする以外に方法はないだろう。
「くそっ、四方も、八方も壁だらけだ」
あの馬鹿の封印ですらなんとかならないなら、どうすればいいのか。頭を思い切り掻き乱す。そんなことをしても、なんの効果もないと分かっているのに。
せめてもの足しになれば、その思いでショットガンの製作を再開する。
少なくとも、グリップ部分はキリナイトで作らないと話にならない。問題は銃身。魔力を撃ち出すレールだ。どの分量で他の金属と混ぜ合わせれば、コウヤの言ったような、散弾を撃ち出すことができるのか。そこの計算から始める。
キリナイトは魔力を良く通す。それは周知の事実で、杖などに施されている装飾のほとんどはキリナイトだ。キリナイトが誇る、唯一無二の高伝導率の秘密は、魔力を溜め込むでなく、触れた魔力を、一度吸収し、そのまま吐き出すという特性にある。つまり、高伝導率とは言うものの、その実キリナイトの特性が成す事象が、結果的にそうなっているというだけ。
触れた箇所から直進した、裏側から魔力を吐く。それが、純キリナイトの特性。不純物が混ざれば、それに阻まれ、別の場所から魔力を吐く。極めて純度が低ければ、吸った場所から、呼吸をするかのように魔力を吐く。
その特性を利用し、一点に魔力を集めるのが、俺の造った銃だ。そして、その魔力を、引き金を引くと同時に、魔力と反発する金属、アーキライト――これは非常に安い――の作用で射出する、というのがおおまかな仕組みだ。
「散弾は……無理そうだな」
いくつか頭の中で様々な型をシミュレートしてみたが、そのどれもが散弾にはならなかった。もちろん、実際にやってみないことには分からないが、これはかなり確率が高い結果だろう。
ふと、頭の中に、とある案が浮かんだ。
ショットガンをショットガンでなくす、まったく別の案。きっと、コウヤの世界には既に存在しているであろう、銃。
忘れないうちにこの案をメモしておこうと、机に噛り付く。既に王都は夜の帳に包まれていた。早く寝るつもりが、思わぬ、嬉しい誤算だ。いや、これは嬉しいのか?
妙案を書き上げ、ふうと一息吐いて顔を上げれば、窓に明かりが映っていた。その明かりは廊下の明かりであり、暗いこの部屋の窓に反射して、レイの姿と共にくっきりと映っていた。




