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辺境警備隊のお医者さん(仮)  作者: リンダ 鈴
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十年前 6

実習5日目、明日には学園に戻る。無事に終わりそうだと俺は思った。

薬草採取中のシダが突然立ち上がりあらぬ方向を見つめる。数秒ジッとしていたが首の後ろをさすりながら頭をひねる。朝から何度目だろうか、同様の仕草が繰り返される。

リスト殿下が気遣い気に尋ねる。

「シダ、何かありましたか?」

「うーん、なんだろ、観られてるって感じるんだが確認しようとすると霧散するっていうか」

「獣、鳥か魔獣ですか?」

「いや、そんなんじゃなくって、チクチクするっていうか嫌な感じ、黒い」

シダは何かの気配を感じてるのだろうか、だが経験の無い何かでイメージが掴めないようだ。

確かに俺も今朝から首の後ろがチリチリする、こんな時はろくな事が無い。

シダが俺の方をジッとみる。何か言いたそうだが言葉が見つからない、そんな風だ。


「ああ〜!クソイラつく」

「今日は終わりでいいだろう、実習項目はとっくにクリアしてる、帰り仕度を今日中に済ませて明日早めに戻ろう」

グンターの意見に賛成しキャンプ地まで戻る事にした。途中川沿いを歩きながら用に魚を捕ろうという話になった。

「投網も釣竿も無いのにどうやってとるんだ?枝で銛でもこしらえるのか」

問う俺にグンターがニヤリと笑って

「まあ観てなって」


川面に向かって雷系麻痺呪文を範囲拡大威力縮小で放った。

すると魚がプカプカ浮いてきた。そこでティレイトが木系捕獲呪文を使う。足元から蔓がシュルシュルと伸びて魚に絡みついた。すると蔓が今度はシュルシュルとティレイトの足元に戻っていく。

足元には十数匹の魚の山ができた。


「はっ、ははっ」

なんだこいつら魚捕るのに魔法って面白すぎだ。俺は腹の底から笑えた。




「ええ〜丸焼きやだな〜内臓苦いし〜」

魚を小枝で作った串に刺すシダを上目遣いでデリル王子が見つめつつ、お願い、とばかりに小首をコテンと傾げる。

シダの顳顬がピクピク、口角がヒクヒク、てっきり罵倒されると思ったが、何処から取り出したナイフで見事な手捌きで魚を調理しだした。


隣にいたリスト殿下がクスリと笑う。

「結局シダはデリルに甘いんです。彼もそれを解っていてやってるんですから悪趣味ですね」

リスト殿下が俺の方を見て微笑みかける。まだ14歳、少年のあどけなさを残すも王族、執政者としての威厳を感じる。反射的に跪きそうになる。噂とは本当にあてにならない。父王に甘やかされた皇族のお坊ちゃんなんて雰囲気は微塵も無い。


「しかしシダ殿の手捌きは凄いですね」

あっという間にキレイに捌かれた魚の山が出来た。

「治療師は薬生成の為に魔物の解体技術は必須です。微妙な部位の切り出しとかできなければなりませんし。解体調理技術に限らずシダの家事能力は一流ですよ、ああ見えて努力家ですし」

努力家?あの口調からイメージがわかないが。そんな俺の気持ちを察したか

「シダはあの外見ですから周りから甘やかされたり、治療師として侮られたり、女性扱いされる事を嫌います。あの口調は侮られない為のポーズみたいなものです。本当のシダではありません」


「なぜ私にそのようなお話を?」

リスト殿下がたまたま護衛についた一介の騎士でしかない自分にそんな話をするのか。


「わかりませんか?まあいいでしょう」

リスト殿下は一瞬微笑み会話は終わり、という風に身を返しシダ達の方へ歩いて行った。


シダとリスト殿下。『外見』で言うとこちらもかなりのものだと思うが。二人並ぶと巨匠の手掛けた宗教画のようにすら見えてくる。世の中にこれ程の美形と言うものが存在するのか、と思う。

殿下が何か言ったのかシダがこちらを見た。なぜか凄い睨まれてる気がする。

この実習の間、視線を感じて振り向くとシダに睨まれてる、という事が何度もあった。

薬草の一件で嫌われたかとも思ったが、最初以降直接罵られるような事はない。

まあこの仕事も明日で終わり、本来の近衛騎士の仕事に戻れば彼らとの接点はない。

デリル王子とリスト殿下は王族なので式典などでお会いすることもあるだろうが、学園在籍中は皇族としての義務を免除されている。


この仕事も明日で終わり、存外楽しかったと思えた。

だが終わらん!


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