第4話 光の戦士と、魔戒人間の件
ようやく変身ヒーローの登場です。
だいぶお待たせいたしました。
警察官たちは突如、色めき立った。
目も眩むような光が走ったと思ったら、突然、警察官と銀行強盗の真ん中に、一人の怪人が現れたのだ。
アスリートのように引き締まった漆黒の身体。顔には、青いアーモンド状の大きな目と、口に見えるスリット状の形状。頭部から伸びる瞳と同じ色の髪は、風もないのに生き物のように揺らめいていた。
その目の下には、まるでピエロのようなティアドロップの模様が刻まれている。
そして、何よりも特徴的なのは、胸の中心に深く埋まる一つの石、プリズムストーンだった。
「ヒ、ヒーロー…なのか?」
張り詰めた空気の中、誰かがぽつりと呟いた言葉に、周囲の野次馬や警察官たちが一気にざわつき始めた。
「でも、ヒーローって大昔、昭和のころの話だろ?もういなくなったって…」
それまで呆然と怪人の姿を見つめていた犬山だったが、ハッと我に返ると、持っていた刃物を怪人に向け叫んだ。
「だ、誰よ!あなた…!?」
怪人は、何も言わずにただ黙って犬山を見つめている。
「な、何か言いなさいよ!!」
犬山の催促に、怪人はゆっくりと口を開いた。
「プリズマン…光の戦士、プリズマンだ」
深く、響く声だった。
だが、その名乗りの裏で、プリズマンこと神原剛は、パニック状態に陥っていた。
テンに促され、ポケットの中でブレスレットの石が輝いたと思った次の瞬間、視界が光に包まれ、ここに立っていたのだ。
おまけに、自分の手を見れば、人間のものではない漆黒の皮膚に変わっている。変身してしまったらしいことは分かったが、鏡もないため、自分が今どんな姿をしているのか正確には分かっていない。
さらに言えば、プリズマンと名乗ったのもとっさに口にしてしまったに過ぎなかった。
「来ないで!き、 来たら、こ、こいつをぶ、ぶっ殺すわよ!!」
犬山は渋田の首元に再びギラリと光るナイフを突きつける。
「ひ、ひい…!」
渋田は恐怖のあまりズボンを濡らす。
プリズマンは無言のまま2人に歩み寄る。
「こ、来ないで!」
「やめるんだ。そいつを殺しても、君が苦しむだけだ」
プリズマンは歩みを止めるとそっと犬山の瞳を見つめた。
「……っ!」
プリズマンの優しさに、犬山の手から力が抜け、カラン、とナイフが落ちた。犬山の真っ赤に血走った目に、大粒の涙が浮かび上がる。
「でも、私…私…」
人質だった渋田は、犬山の意識が完全へtlプリズマンに向いたのを見逃さなかった。
「今だ!!」
渋田は犬山の手を振り払うと、地面に落ちたナイフを素早く拾い上げ、犬山に向けて切っ先を鋭く突き出す。
「犬山! お前は本当にマヌケな奴だなあ!だから、仕事も結婚も出来ないんだよ! 警察の皆さん、こいつを早く捕まえてください!!」
形勢が逆転し、醜い笑顔を浮かべて勝ち誇る渋田。
しかし、犬山はその渋田の罵声を完全に無視し、虚ろな目のまま、自分のシャツのボタンを一つ、また一つと開け始めた。
「私、あの人と約束したの…私の正義を貫くって…」
「あの人……?」
「おい犬山! 何をやってるんだ!? お前は終わりだって言ってるんだろうが!!さっさとお縄になれ!」
渋田が怒鳴る中、犬山がシャツの首元を大きくはだける。
その剥き出しになった首元には、どす黒く浮かび上がる、不気味な黒い十字架が刻まれていた。
「黒十字星!?」
プリズマンの頭の中に、昨夜アキの部屋で見た、ジイジのスクラップ集の写真が鮮烈に蘇る。悪の組織デスダークの紋章だ。
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーッ!!」
犬山の割れるような絶望の叫びとともに、黒十字星から猛烈な闇が爆発的に噴き出した。
「な、なんだ…!?」
たった今形勢逆転したはずの渋田は、目の前の事態に驚愕し、その場にヘナヘナと座り込んだ。
噴き出した闇は、生き物のように大きく膨れ上がると、犬山の身体を完全に包み込んでむ。
「危ない!!」
プリズマンは本能的に、渋田をかばった。
やがて、犬山を包んでいた闇が、ゆっくりと霧散していく。
しかし、闇の中から現れたのは顔面に防毒マスクを被った全身毛むくじゃらの怪人。いや、よく見ると防毒マスクの端は肉体と癒着し顔と一体化している。
「ガスー…ガスー…」
マスクの隙間から不気味な排気音を漏らしながら、魔戒人間ガスマスクビーストが、呪詛のようにその声を響かせた。
「ガスー…ガスー…」
ガスマスクビーストは一定の距離を保ちながら、マスクの排気口からプシュー、プシューと、不気味な黄色の煙を吐き出している。
不意にバタン、と背後で何かが倒れる音がした。
「!?」
プリズマンが振り返ると、渋田が白目を剥いて地面に倒れている。恐怖のあまり失神したのか、と思った剛の頭の中に、テンの声が響いた。
「プリズマン、早くそいつから離れるニャ! その黄色い煙は毒ガスニャ!」
「なんだと!?」
プリズマンは慌てて渋田を抱え上げる。
「あぶニャイ!」
テンの警告にプリズマンは後ろへ飛び退く。
一瞬遅れて、ガスマスクビーストの鋭い爪が、剛がさっきまでいたアスファルトを激しい火花とともに深くえぐり取った。
それを見て、プリズマンの背中に冷たいものが伝う。
「プリズマン、そんなもの当たらなければどうってことないニャ」
プリズマンは一番近くにいた警察官に渋田を預けた。
「このガスは危険です! すぐに全員を避難させてください!」
「は、はい! 分かりました!」
警察官は、渋田を受け取ると、すぐさま周囲の野次馬や署員に向けて「退避、退避ーっ!」と大声で指示を出し始めた。
「…さあ、どうする?」
再びガスマスクビーストと向き合うプリズマン。だが、正直に言ってどう戦えばいいのかさっぱり分からない。
アキの話ではプリズマンは番組前半は素手による格闘戦がメインだったが、中盤以降は武器を駆使するスタイルに変化したらしい。
「テンちゃん、『武器』はないか?」
「あるニャ」
まさかの頼もしい答えに、プリズマンのテンションが上がる。
「何だ!?」
「勇気ニャ」
「……」
一瞬、プリズマンの思考が停止した。
だが、ガスマスクビーストが間合いを詰めてきて、ハッとプリズマンは我に返った。
「勇気ニャ! 勇気を高めるニャ!」
「………」
「ガーーースーーーー!」
ガスマスクビーストが咆哮とともに突っ込んできた。
動きは力任せで、スピードもそこまで速くない。
プリズマンはすぐに飛び退こうとしたが、
「なに!?」
金縛りにあったかのように手足に力が入らず、動作が一瞬遅れる。
「うぐ…!?」
胸に走る激しい衝撃。
ガスマスクビーストの爪がプリズマンの漆黒の胸部をえぐり、プリズマンは膝から崩れ落ちた。
「く…!」
プリズマンの脳裏に悲痛なテンの叫びが響く。
「ガスを吸いすぎたニャ! 早くそこから離れるニャ!」
「プリズマンにも毒ガスが効く…のか…?」
「当たり前ニャ! 早くしないと本当に死ぬニャ! 」
プリズマンの身体の感覚が急速に薄れ、視界がチカチカと明滅していく。ボンヤリとする意識の隅で、プリズマンは死を予感した。
「…ここで死ぬ…のか…」
その時、ガスマスクビーストが急に向きを変えた。
その視線の先、そこには恐怖でその場に座り込んで震えている、小学生くらいの男の子の姿があった。逃げ遅れたのだ。
ガスマスクビーストが、ゆっくりと男の子に近づいていく。
「早く…逃げ…」
声が出ないプリズマンの耳に、ふいに奇妙な音が流れ込んできた。
それは、ガスマスクビーストの喉の奥から漏れる不気味な呻き声に重なるようにして響く、女の声だった。
「お願い! 誰か、私を止めて…!!」
その悲痛な声が、犬山の心の声であることに、プリズマンは気がついた。
「こんなことしたくない…! 誰か! 誰か助けて…!!」
犬山の苦しさ、やり場のない悲しみが、プリズムストーンを通じて、プリズマンの心に共鳴する。
プリズマンの心に、何かが走った。
それは勇気というにはあまりにも弱く、正義と言うにはあまりにも微かで儚げなもの。
ただ、それは鉛のように重かった身体を立ち上がらせる。
「…今、助ける。待っているんだ!」
プラズマンの右手が目元にある、あのピエロのようなティアドロップの模様にそっと触れる。
その瞬間、ティアドロップから一滴の眩い七色の光が、剛の指先へと吸い込まれるた。
プリズマンは、ガスマスクビーストへ右手の人差し指を向けた。
「プリズム…ドロップ!!」
指先から放たれたのは、美しくきらめく光球。
一直線にガスマスクビーストに迫るとバッと一瞬で膨れ上がって、その身体を包み込んだ。
「ガーーーーーースーーーーーー!!」
ガスマスクビーストの断末魔とともに光球は、シャボン玉が弾けるように美しく霧散した。
プリズマンのデザインイメージはウルトラマンブレーザーです。あの独特なのがなんかぐっと来るんですよね。
次回も金曜日更新予定です。




