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僕は、魔王になった。

 一面の花。空に広がる青。頬をそよぐ風。


 世界の片隅。かつて一瞥もくれなかった神は、きっと僕らに微笑んでいるに違いない。


 最期の刻まで、君はすごく素敵な顔をしている。僕は、どうだろうか。



 頬を緩ませる。君の目に、一秒でも明るい景色が流れるように。


 目を開く。君の全てを最期の最後まで想いそびれないように。


 耳を澄ませる。君の言葉を、風に流れてしまう前に噛み締められるように。





 『夢みたいだな。ずっと、醒めない夢を……見てるみたいな……。』


 "…………"


『君と過ごした日々は、ご褒美だったのかも。だってほら、あたしは、こんなにも頑張ってきた――』


 "…………"


 『ありがとう。それでね……。』


 "…………"


 『最後にもうひとつだけ、お願いがあるの。』


 『あたしがいなくなったら――』


 "……"


 "………"


 "約束する。必ず、君の願いを、叶えてみせる。"


 『そっか、ありがとうね、本当に。』


 


 『それと、最後にひとつだけ……。』


 






 

 瞼を開く。束の間の夢から、目覚める。

 

 ここは、魔王城。魔物の世界を治める王、魔王が住まう城。荘厳にして堅牢。黒や紫を基調とした城内は、暗く、しかし高貴な雰囲気が立ち込めている。

 そんな魔王城の最深部、そこの玉座に座る俺は何者か、言うまでもないだろう。


 『魔王様。奴らが来ました。』

 俺の元にやってきた一匹の魔物が跪いてそう告げる。


 『通せ。』


 俺が告げると、目の前のそいつは玉座の間の入り口の方へ。そのまま広間を立ち去った。

 俺は1つ深い息をつく。ようやくだ。ようやく来てくれた。待ち望んでいた、この時を。奴らと対面し、決着をつける……この時を。

 しばらくするとゆっくり、入り口の大きな扉が開かれる。聞き慣れた、しかしいつもより重々しく聞こえる轟音と共に玉座の間に踏み入ってきたのは、何人かの、人間たち。ここにいると魔物ばかり見るから、久しぶりに純血の人間をこの目で捉えた。


 『魔王……!ようやく、ようやくお前の姿を拝むことができた。』


目の前の人間がそう言い放つ。彼ら一行が身につける装備の様子、そして彼ら自身の風体から、その長い旅路の過程が窺い知れる。

 

 『私も、会いたかった。』


 勇者と魔王。因縁の対面で漏れる言葉は、穏やかだった。


 『魔王、今から僕らはお前と戦い、殺す。しかしその前に、聞いておきたいことがある。』


 『……聞こう。』


 『何故だ。何故なんだ。どうしてお前は……魔王になってしまったんだ。』


 『……どうして、とは。情状酌量の余地があるかもと、この期に及んで思っているのか。』


 『どうして。お前は、違ったじゃないか。そうじゃなかったじゃないか!!!』


 『……。』


 『答えてくれ。お前を殺す前に、それだけは聞いておきたいんだ。』


 開きかけた口を閉じる。そして、もう一度、開ける。


 『……言いたいことはそれだけか?では剣を抜け。』


 『……!』


眼前の少年を、強く、強く、見据える。


 『改めて、魔王城へようこそ。歓迎する。そしてお前たちの力を示してみろ。

 

 世界を救う者、勇者よ。』

 

 

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