77話 どこかに所属してるわけでもないけど活躍する人間」をどうするか問題
防音がしっかりとできていない壁の向こうから、フロアの音楽が漏れてくる。
曲調はバラード。アップテンポな曲に参加していた若者たちは休憩という事で飲食物を注文するのと同時に、アップテンポな曲が苦手な客も参加して一体感が出せる。
一晩中客を飽きさせないようにする工夫がされている曲順だ。
「本日の本題は、そこにいる新人坊主をどうするか、ってことだ。それはいいかな」
「結構です」
「わかってます」
東の幹部が話を仕切り、ほかの幹部たちはそれに賛同。
話が動き始めたのを悟って、ピーターをはじめとする冒険者たちはNのそばから離れていった。
「まず、ギルドから一ついいですか」
「なんだい」
「我々ギルドとしては原則的に本人の意思をもってファミリーへの参加と離脱をすることを前提としています。当然有能な新人や伸びしろがあると判断した人間に対してファミリーをはじめとした冒険者の組織側から良い条件を出し、勧誘、スカウト、ヘッドハンティングすることは否定しませんし大いに結構なことだと考えています。しかしそれでも最終的には本人の意思を尊重してください。それが守られない場合はギルドとして介入せざる得ません。いいですね」
「当然だな。無理強いすることはできない」
「私としても無理強いする気はないわね」
「まぁそうだな」
ギルドの幹部は三人が賛同したことに安心して東の幹部に話を進めるように依頼した。
「よし、それじゃぁ、そうだな、Nさん、あんたに聞きたいことがある」
「僕も聞きたいことがありますし、それはたぶん皆さんの疑問の前にこたえてもらう事だと思います。この集まりはなんですか?」
Nは真面目な顔をしながら話している偉い幹部たちに対してぬけぬけとそんな返しをし、もうあきらめたという事で目の前にあった誰かの飲み残しの酒を一気飲みした。
「まぁ坊主の察しの通りさ、なかなか、というかかなり見どころがある新人をどっかのファミリーに所属させましょうって集まりだ。あんたの活躍はいろいろと聞いてるぜ」
「なるべく目立たないように暮らしているつもりなんですが」
「それはお前、本気で言ってるのか?」
ニコライはついそんなつっこみをする。
「ダンジョンでモンスター吹き飛ばしてるだろう?ピーターの言葉から5階層近くまで単騎でいけるのも確実だし」
「今回の査察で地下施設をみつけたり、爆薬を使って一体吹き飛ばしたことはアニーちゃんからききましたよ。五階層まで単騎で行けるなら資格は十分よ」
「ダンジョン探索で結構な動きをしていたじゃないか。なかなかの実力者だろう」
それぞれ自分が持っている情報から「この新人はそこら辺のその他大勢みたいな人間ではない」という事を理解している。
「そういうわけでだ、お前みたいな有能な新人を欲しいって組織がここに集まってるわけだよ。おれとそこの若造はその間を仲裁する役目さ。質問の答えとしてはそれでいいか」
「はぁ、はい」
Nは目立ちたくないといいながら目立っていた自分の馬鹿さ加減にあきれながらそんな返事。
「ギルドとしても君みたいな子がどこにも所属せず、パーティーを作るわけでもないまま単騎でダンジョンでウロウロされるってのはあまり喜ばしいことじゃない。どこかのファミリーに入れてもらってギルドの監督下に入ってほしいのが正直なところだ」
「そうは言われても」
もともとどこかのファミリーに入りたくて、それでも断られたからやけ酒をのみにこの店に来たのだった。
あの時の自分ならたぶん誰かの申し出に飛びついただろうが。
「一つ聞きたいんですが、僕が誰を、どこかの組織を選んだとして、あとの二つか三つかの組織から恨まれるとか、それが後々までいざこざになる、なんてことはありませんか。どういった理由であれよい申し出を袖に振ることになるわけじゃないですか。組織としていい気分しないのはわかってますよ」
「それはなぁ、建前上ない。と言っておこうか。俺みたいなやつが仲裁役として呼ばれている、ということで察してほしんだが」
組織の勧誘を断ったりほかの組織にいくことで結果恨まれたり、組織同士のいざこざに発展するというのはこの街ではよくあることだ。
だから仲裁役としてギルドや東の幹部である彼らがでてきたわけだが
「うちは実力主義よ。そんな事気にしないわ」
「それだったらこっちの組織も同じだ」
Nと東の幹部はペドロファミリーとアナスタシアファミリーの代表の言葉のニュアンスに含みを感じてしまう。
「私たちとしても有能な人間を雇いたいのはたしかだが、ファミリーではなく西という組織だからほかのファミリーを恨むこともなければ恨まれることもないよ」
西の幹部は比較的優しい言葉だが、だからうちに来い、という勧誘文句。どこまで正しいかわからない。
「はぁぁ」
こういう事を察することができるのだ、あの時から多少僕も経験を積んだということだろう。
「もてる男はもてる男でつらいんだな」
キンブルはその光景を見てそんな一言。
もしくは本当に有能で成果も出しているなら「誰も知らない実力者」ということはほとんどない問題




