第14話「第二の家」
俺と恋葉が向かった場所は欅の森駅。
図書館の位置から南の方にあるその駅は、だいたい一時間に四、五本ほど電車が通る駅だ。
近くにある駅はここだけだ。俺も高校へ行く時は欅の森駅を利用している。
俺の勘ではあるが、小日向瑠奈がいる場所は駅にいると思った。
彼女は元々家族と遊園地に行く日だ。車か電車か、もしくはバスか何を使って遊園地に行くかは何も聞いていない。
雨天によって予定が潰れた彼女は、一人でも出かけようとしたんだ。自転車を置いて行ったなら徒歩かバスか電車のどれかだろう。タクシーは子どもには高すぎる。
バスの場合、主要のバス停は商店街前の大きな県道路か、欅の森駅か側くらいだ。
商店街には瑠奈の姿はなかった。だから、きっと駅にいる。
問題点といえば、時間が経ち過ぎていることだ。俺たちが探し始めてから一時間は経っている。それ以前から瑠奈の消息は絶った。もう電車かバスに乗っている可能性が高い。
でも、駅なら目撃している人がきっといるはずだ。
それに、小学生の女の子を一人で知らない場所に行かせるなんて危険だ。早く追いつかないと。
雨が降り続く中、二人で走りながら駅に続く道を突き進む。
「はぁ……はぁ……やっと見えてきました」
恋葉がだいぶ息を切らしていた。もっと気を遣って走るべきだったか……。
「はぁ……はぁ……」
「……東川さん、大丈夫ですか?」
「はぁ……あぁ…………」
それに比べて俺は声も出せないほど息が切れていた。喉が痛むし、肺が圧迫されているかのように体も痛い。
歳下の女の子より体力がない俺はいったい……。
情けない。
そういえば、商店街に着いた時から走りっぱなしだった。俺は運動はあまり得意ではない。明日は体中が悲鳴を上げてベッドから抜け出せないだろうな。俺はダメだが恋葉は大丈夫だろうか。
息を切らしながら、なんとか欅の森駅にたどり着いた。
欅の森駅は小さなロータリーと白長の建物というシンプルな様で構えていた。一応駅員は一人いるみたいだが、いつか無人駅になるという話を誰かがしていた気がする。
とにかく、駅員に小学生の女の子が一人で来たか尋ねなければならない。
「……あっ! 瑠奈ちゃん!」
駅の待合室の方に目をやると、ベンチに瑠奈が一人すわり込んでいた。
横にはリュックと紐で纏められていない水色の傘が立てかけてあった。
「恋葉おねーちゃん! なんでここに?」
「瑠奈ちゃんのお母さんが図書館に来て、瑠奈ちゃんがいなくなったって聞きました。だから、瑠奈ちゃんが心配でここまで来たんです!」
「おかーさんが?」
恋葉の言葉に瑠奈は表情を曇らせた。
「はい。心配してましたよ」
「そっか……」
「帰りましょう。瑠奈ちゃん」
「……」
瑠奈ちゃんは俯いたまま返事をしない。恋葉は瑠奈ちゃんの様子がよろしくないことには気づいているだろうが、どうすればいいかきっと困ってる。
俺がなんとかするしかない! 暗い雰囲気は好きじゃないしな。
「瑠奈ちゃんのお母さん。瑠奈ちゃんのこと、ちゃんと見てるじゃないか」
「え……」
「図書館に来たのも、瑠奈ちゃんが熱心に本を読んでいたことを知っていたからだ。その占い探偵みたいにさ。瑠奈ちゃんが本を借りていなかったら、俺たちはここまで来れなかった」
瑠奈ちゃんの膝には閉じられた本がある。
先週借りて行った占い探偵だ。
「でも瑠奈……ごめんなさい!」
瑠奈は恋葉の前に本を突き出した。
「実は、本は読んでなかったの! いつも、おかーさんやおとーさんは、お仕事で遅いから本を読んでるフリをしてたの。瑠奈に構ってくれない時間がわかるように、いっぱい読んでるように見せたくて色々借りたの……。だから、ごめんなさい!」
「瑠奈ちゃん!」
瑠奈ちゃんの謝罪に恋葉は瑠奈を優しく抱きしめた。
「恋葉おねーちゃん……」
「本のことはいいのです。でも、お母さんに黙ってどこか行くのはいけません。私も心配しますよ!」
「ごめんなさい……」
瑠奈は恋葉に応えるように抱きしめ返している。
まるで、姉妹だ。
「瑠奈ちゃん。私はまた瑠奈ちゃんと図書館でお話しがしたいんです。本を借りに来なくても、図書館へ遊びに来てください。私、ずっと待ってます」
「うん……」
「そうだ、瑠奈ちゃん」
恋葉が思いついたように瑠奈に話しかけた。
「今から、図書館へ来ませんか! 瑠奈ちゃんが第二の家だと思ってくれるように、お話会とか色々考えていたんです。瑠奈ちゃんがよろしければ来ませんか?」
「第二の家……?」
「はい! 実は私も、お母さんとしばらく会えていないので、図書館にいる時間が長いのです。あまり人も来ない場所なので、瑠奈ちゃんさえ来てくだされば、図書館は楽しくなります! 瑠奈ちゃんのお母さんやお父さんがお仕事で帰りが遅い日にでも、いつでも……!」
恋葉の熱い誘いに瑠奈はこくんと頷いた。
「恋葉おねーちゃん……ありがとう。恋葉おねーちゃんの好きな本いっぱい教えてね!」
「はい!」
なんとか、瑠奈は気持ち的にも少しは明るくなってきたみたいだ。
タイミングを見計らっていたのか、外の雨も弱まってきたようだ。
「その前に、おかーさんに謝らなきゃ!」
「連絡はしておきます。とりあえず、ここは寒いですし、図書館に行きませんか? お菓子やお茶もお出ししますよ」
「うん。飛鳥おにーちゃんも迷惑かけて、ごめんなさい」
「気にしなくていいさ! 妹たちを守るのが兄としての仕事だからな!」
「い、いもうと……?」
瑠奈はキョトンとしているが、恋葉の方は頬をぷくーと膨らましていた。余計なことを言ってしまったらしい。
「と、とりあえず図書館に行こう!」
何か言われる前に俺は傘をさして外に出た。
雲の切れ目から日の光が差し始めている。オレンジ色の柱がもうすぐ夜だということを、必死に探していて時間を忘れていた俺に教えてくれた。




