スイーツ巡礼
しばらく考え込んでいた弥生が修一郎に向かって言った。
「しっとりした食感って言うけど、フィナンシェやダックワーズとは違うの。」
由利はサブレ、ガレット、フィナンシェ、ダックワーズと順に思い浮かべてみた。
修一郎は
「俺も考えたんだ。でもフィナンシェほど厚みはないし、ダックワーズはジャムじゃなくてクリームを挟んだものが多いだろ。食感もサクッじゃなくてしっとりだし。遠い記憶の中だから何とも言えないけどな。」
と言う。由利は修一郎の言葉を聞いて、もしかしたら同系列のスイーツを食べる時にいつもフェニックスを連想しているのかなと視線を修一郎に向け次に弥生を見た。弥生は〈ふぅん、そうなんだ。〉みたいな顔をしていたが由利の視線に気づくと
「由利ちゃん、東京に戻ったらスイーツ巡礼しょっか。」
と修一郎をチラリと見て言う。由利はたった今まで気になっていたフェニックスよりも弥生に誘われたスイーツ巡りに気持ちが移ってしまった。
修一郎は
「それだったら、丸くてサクッとしてしっとりで柑橘ジャムに合いそうなのを探してくれ。」
と弥生に言う。弥生は笑っているが少し不満そうだ。修一郎の言葉を聞いた由利は〈先生、突っ込む角度が違う。またストレートを投げてる。これじゃポンと弾き返すしかないでしょう。〉と言いたくなった。
修一郎が
〈俺も巡礼に連れてけ。〉
と言えば、弥生は
〈誰がお前なんか。〉
と言うだろう。そうすればキャッチボールが続くはずなのに。修一郎は解っていながらも点と線を結んだ言い方をする。いつしか由利も弥生が修一郎に言う〈デリカシーの欠片もない。〉や〈話しててイラッとする。〉〈あなたの相手をできるのは私くらいよ。〉の感情を共有できるようになった。
弥生がフィナンシェとダックワーズを口に出したときにどうして先に〈そうだね。〉と共感しないのと思うのと同時に、これが修一郎と弥生の距離感なのだと納得もできる。
弥生も修一郎が期待した返事と違った言葉を返せば次は行動で返す。ぶったり蹴ったりは当たり前で、それを修一郎は受けたり流したりだ。
恋愛小説ではない、恋愛映画とも違う光景が由利の目の前にある。




