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第6話「熱に浮かされるような、唇の約束」



――交際0日婚ですが、声の人に恋して



季節は春の終わり。

大学の課題、サークルの新歓、アルバイトの面接――。

慣れない生活の中で、悠人は無理をしていた。


「……ちょっと寒いな……」


そうつぶやいたのは、朝のことだった。


ほのかはそのとき、ちょうど外出中で――

彼は一人、布団に倒れ込んでいた。



午後。

収録から早めに戻ってきたほのかは、玄関に靴があることに気づく。


「……あれ、まだ帰ってない時間じゃ――」


部屋に入ると、寝室から微かに聞こえてくる咳。

急いで扉を開けると、そこには顔を真っ赤にした悠人が、苦しそうに丸まっていた。


「悠人……!」


ほのかはすぐに駆け寄り、額に手を当てた。


「熱、ある……これ、完全にダメなやつ……!」


体温計を見ると、38.6℃。

すぐに冷えピタとポカリ、そして氷枕を用意して、彼の額を撫でる。


「どうして、もっと早く言ってくれなかったのよ……」


「……ほのかに、迷惑かけたくなくて……」


その言葉に、胸がぎゅっと締め付けられる。


「バカ……あなたは私の、夫なんだから。迷惑なんて、思ったことないわよ」



しばらくして。


うとうとしていた悠人が、ぼんやりと目を開けた。


「……ん……ほのか……?」


「起こしちゃった? ごめんね。少し冷えピタ変えようと思って」


「…ありがと。なんか夢見てた……」


「夢?」


「……ほのかが、僕のこと抱きしめて、キスしてくれた夢」


ほのかは、思わず小さく笑った。


「それ、夢じゃないわよ」


「……え?」


「現実でも、するから。……今ここで」


ほのかは、布団に手をつき、彼の横顔にゆっくりと唇を近づけた。


そして――


そっと、深く、熱く、唇を重ねた。


体温に溶けるようなキス。

熱に浮かされた悠人の呼吸と、ほのかの鼓動が重なり合う。


「……んっ……ほの、か……」


「大丈夫。力を抜いて……全部、私に委ねて」


彼女の唇は、やさしく、でも決して浅くなく。

ただの“恋人同士のキス”ではなかった。

それは、**愛する人の命を抱きしめる“誓いのキス”**だった。


「こうしてるとね、あなたがちゃんと“ここにいる”って実感できるの」


「……?」


「声優としての私は、誰かの言葉を喋って、誰かの想いを届ける仕事。

 でも、悠人だけには……私自身の声で、想いを届けたいの」


「ほのか……」


「大げさかもしれないけど――あなたがいない世界なんて、もう考えられないの」


そう言って、再び彼の唇にキスを落とす。

今度は、少しだけ強く。

そして、少しだけ長く。


彼の熱が、彼女の唇に移っていく。

ふたりだけの時間。

そこにあるのは、欲望ではなく――“愛の体温”。



「ほのか……俺、早く治して……ちゃんと、あなたを抱きしめたい」


「……いいよ。約束。治ったら、ちゃんと抱きしめて。

 私も、ちゃんと甘えるから」



カーテンの隙間から、優しい月光が差し込む。


ふたりの影が、寄り添ってひとつになる。


熱に浮かされながらも交わされた、

ふたりの“唇の約束”は、どんな言葉より確かだった。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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