【五九】拠点への帰還
高大一貫教育の大学三年生になり、実習のために船で離れ小島へ向かっていた主人公は突然の嵐に遭遇してしまう。
気が付くと大学生男子一名、女子七名と女教師二名だけが異世界の孤島に漂着していた。
ここから孤島でのサバイバル生活が始まる。彼、彼女らは専門分野別に集められたエリート達だった。
生活する上で不可欠な拠点造り、食料の調達から始めることになる。
かつての世界の技術力を駆使した武器や輸送手段を筆頭に様々な開発も行うことになった。
最大の問題は武器、輸送機に使用されていた原料がこの世界には存在し無いこと。
新たなエネルギーを得るために悪戦苦闘するメンバー達。
発見された常識を覆す新エネルギーは後の大発明へとつながって行くことになる。
この世界を統治する王国や巨大生物、未知の病などと格闘する日々が続く。
次々と降り掛かる問題を持ち前の技術力と結束力で乗り越えて行く。
自分達の国を創り上げるため奔走する冒険と青春の物語である。
「希美、在宅かどうか確認してくれ・・」
勇作は元庭師の妻を警戒させないよう、希美に頼んだ。
「あら、分かったわ・・コンコン、失礼します・・ご在宅でしょうか?」
暫く、時間があって扉が開けられた。
「・・あの・・どちら様でしょうか?」
「はい、私・・希美と申しまして、システア共和国とアサルド王国の両方から依頼を受けて伺った者です・・お話を聞かせて頂きたいことがあるんです」
希美が持つ癒やしの雰囲気に最初は警戒の表情をしていたが、少しずつ驚きと安堵の表情に変わっていった。
一通りの説明を終えた後、貴女に会うためシステアがこの地に向かっていること、是非、場所を変えて会って頂きたいとお願いをする。
「・・そうですか、あの方は無事に過ごされているのですね・・本当に良かった」
宮殿側の大きな宿屋を確保して、涙ぐむ彼女を連れて行った。
再会すれば積もる話もあるだろうから、今夜はそのまま泊まって貰うことにした。
彼女の世話は希美と初音に任せて、心愛、陽鞠と共に愛理達の到着を待った。
愛理達は昨日、このシステア共和国からアサルド王国に向かって飛び立っている。
空陸水対応大型飛行船であるエルピーダであれば、昨日の内に王国に到着しているはずだ。
メイド長であるシステアの支度もあるだろうから、出発は今朝になるだろう。
早ければ今日の夕方には共和国に着くことになるだろう。
その日の夕方、予想通り、愛理達がシステアを伴って到着した。
「ただいま戻りました」「戻ってきましたわ」「強行日程はキッツいわ」
「本当だねぇ・・」とかなり無理な日程で頑張ってくれたらしい。
「ご苦労様・・宿を取ってあるから皆はゆっくりしてくれ・・システアさん遠路ご苦労様でした」
「勇作様・・あの、本当に・・」
「はい、ご依頼のありました方をこの宿にお連れしてありますので、会って頂けますか?」
「はい・・」
勇作は愛理達に元庭師夫婦の現状について連絡を入れ、システアには事前に説明して貰ってある。
「こちらにおられます・・今夜はこのままお泊まり頂く予定ですので、ゆっくりお話をなさって下さい・・今、お茶を煎れさせますね、夕食は後ほど宿の者が部屋まで配膳してくれる事になっています・・俺達は隣の部屋におりますから・・どうぞ、ごゆっくり・・」
システアを部屋の中まで送ると、愛理にお茶を頼んで隣の部屋へと移動した。
二時間ほど経って、勇作達の部屋の扉がノックされた。システア達だった。
「この度はこのような機会を与えて頂き本当にありがとうございます・・この国を出て以来、ずっとあった胸のつかえが取れました・・もう思い残すことはありません」
涙ながらにお礼を言うシステアに勇作は言葉を掛けた。
「喜んで貰えて良かったです、ここまでお連れした甲斐があります・・それと思い残すことは無いなんて言わないで下さい・・システアさんの人生はまだまだこれからですよ?」
「・・はい」
夜遅くまで語り明かしたシステア達は翌朝、再会を約束して分かれた。
その足で共和国代表プリメノスとの謁見を済まし、同じく、共和国のメラーキ副代表には元庭師の妻を気に掛けてあげて欲しいと頼んでおいた。
これで共和国での仕事が完了した。
プリメノス代表、メラーキ副代表、ガーダ政務官達の見送りを受けながら、王国に向けて飛び立った。
王国に戻った勇作達はイェティス国王、ソフィア王妃、プロイス宰相らにシステア共和国での疫病対策が無事に終わったことを報告した。
システア共和国プリメノス代表からの親書を手渡した。
親書に目を通したイェティスからは「共和国での活動では大変な苦労を掛けてしまったな・・それとシステアのこと・・忝かった」と丁重に礼を言われた。
国王自ら今夜は王城に泊まって行くよう進められ、謁見室の外ではプラグマ第一王子、セレネ第一王女が勇作達を今か今かと待ち受けているようだ。
「分かりました・・ご厚意に甘えさせて頂きます」
その後、開かれた夕食の席は王族が集まり、その中に勇作達が混ざって接待を受けるという前代未聞の事態となった。
それだけ勇作達のことを認め、信頼し、これからも付き合って行きたいというイェティス達の願いが込められていた。
夕食後、王子達に捕まって散々ゲームに付き合わされた後、湯浴みをさせて貰って床に付いた。
一日中、国を跨いで走り回った勇作達は久々に泥のように眠った。
翌朝、朝食をご馳走になり、勇作達の拠点に向かってアサルド王国を飛び立った。
半日程の航行でエルピス島に到着することが出来た。
三ヶ月以上に渡る仕事が無事に終わったのだ。
拠点は自動待機モードが問題無く作動していて、特に侵入者もいなかったようだ。
何度かエルピス島近海に巨大海洋生物であるシーサーペントが現れたようだったが、上陸はせずに姿を消したようである。
もし仮に上陸していたら、拠点防衛システムが作動してミンチか蒲焼きになっていただろう。全く幸運な奴だ。
久し振りの我が家にメンバー達は思い思いに羽を伸ばして、連戦の疲れを癒やしていた。
翌朝、勇作は身体が全く動かせない状態で目が覚めた。
色白の柔肌や筋肉質だが柔軟性のあるスベスベの肌等に顔と言わず、腕と言わず、足と言わず、身体中を絡め取られていた。
どうやら五、六人のメンバー女子達に半ば拘束されて寝ている状態のようだ。
まったく・・どんなSMだ!
顔には?・・顔を抱き締められるようにかなり大きく柔らかい胸が乗っている。
誰なんだ?顔を振って何とか脱出して見上げると橙色の夜具を着た希美のようだ。
なるほど・・希美の爆乳だったら顔など簡単埋まってしまうのも納得だ。
屈託の無い希美には橙色が素敵だ。
取り敢えずは片腕だけでも自由にならないと、この状況から抜け出すのは不可能である。
右側を見ると黄色の夜具を着た陽鞠が両手、両足(正確には太腿)を使って右腕を抱え込んでいる。
いつもお日様のように明るい陽鞠には黄色が映える。
腕を捻って彼女の脇腹をくすぐると、一瞬、拘束が緩んだところで右腕を抜いた。
次は・・俺の上着の中に頭を突っ込んで寝てるのは?
上着の裾を捲ると水色の夜具を着た心愛がいた。どうやったらそうなるのか全く分からない。
普段から表情の薄い楚々とした雰囲気の心愛に水色がマッチしている。
小柄な彼女が腹の上にいても苦にはならないので、そのまま放置する。
左腕は・・薄紫色の夜具を着た早苗が巨乳を押し付けるように胸に腕を絡め取られている。
大人っぽい雰囲気の早苗には薄紫色が良く似合う。
右脚には・・薄桃色の夜具を着た小柄な花梨がしがみついている。微乳な彼女にきつくしがみつかれると少し脚が痛い。とても本人には言えないが。
華奢で可憐な彼女には薄桃色が良く似合う。
左脚は・・薄緑色の夜具を着た志摩が巨乳で挟むように脚を抱き締めている。
冷静沈着で頼りになるお姉さん的な彼女には薄緑色はすごく良い。
愛理、初音さん、花江さんは見える範囲にはいないようだ。
皆、それぞれの好きな色の夜着を身につけているので、ベッド上は花が咲いたようにカラフルだ。
そこへ未だ眠いのだろう・・白色の夜具を着た愛理が部屋に入ってきた。
黒色の夜具を着た初音と赤色の夜具を着た花江まで入って来た。
「あ・・勇作くん、目が覚めたんですね?」
「ああ・・何なんだ?この状況は」
「ふふっ・・最初は皆、自分のベッドで寝ていたんですが、一人、二人と勇作くんのベッドに潜り込んでしまったようで・・久々に拠点に帰還出来て勇作くんに甘えたくなったのでは?」
愛理が皆に代わっていい理由を伝えると・・。
「本当にもう・・私だって来たかったのに」とお怒りの初音。
「そうよね、私も・・今からでも遅くは無い?」と一歩進む花江。
愛理は慌てて「ええっ・・もう朝なんですから勘弁して下さい!・・皆!朝ですよ、起きて下さい!」
愛理からの起床を告げる声に反応して起き上がる者、気付くがまた夢の世界へ行く者、微動だにしない者とそれぞれだ。
愛理と初音達の協力で女子達を引き剥がして勇作を救出した。
「ふぅ・・朝から疲れた」
寝起きの悪い者は目を擦りながら、朝食のテーブルには全員が揃った。
あの後、愛理達は手早く着替えて朝食を用意してくれたのだ。
「では、いただきます・・」愛理の掛け声で朝食が始まった。
コンガリ良い色に焼けたトースト、イチゴ系と柑橘系のジャム、陽鞠が進めていてくれた放牧型の牛豚のような家畜から取れた乳飲料、鮭科の魚を燻製にした魚肉ハム、島の各地で取れた様々な新鮮葉物野菜を色取り取りのサラダに、根野菜をベースに猪鹿型の動物の肩ロースを煮込んで作った具沢山のスープ・・等々、テーブルには盛り沢山の料理が並んでいた。
「最初はどうなるかと思ったんやけど、この魚肉ハムは美味やな・・」
「・・スープ、秀逸・・」
「本当・・野菜と肉のコクが出ていて美味しいですわ・・」
「本当どれも美味しいねー!」
「・・美味いねぇ」「あら、良く味が出てるわね」
皆から好評を受けて、料理当番だった愛理、初音、花江も満足そうだ。
「勇作くん・・どうですか?」少し不安そうに愛理が聞く。
「本当に美味いな・・最近は食材が豊富になったとは言え、そこらのレストランを超えてる美味さだな」
「ふふっ・・ありがとうございます、喜んで貰えて何よりです・・でも、近くにレストランはありませんけどね」
「うっ・・確かに」
今日も姦しくも楽しい食卓であった。
勇作達が拠点に戻って二週間が経った。
自然と共生しながら個々に自分の研究テーマに没頭出来る、普段の生活が戻っていた。
元々、研究や勉強のために集まっていた各分野のエキスパート達だ。
異世界に飛ばされて、生きることに精一杯だったので研究どころでは無かっただけで、そもそもが研究大好きっ娘の集まりなのだ。
いつものように勇作と愛理は拠点にある各メンバーの工房、研究室を見回っていた。
本来であればこんな見回りなど必要は無いのだが、研究バカの集まりなので放っておくと寝食を忘れて没頭してしまい気が付くと倒れている・・なんてことが一度や二度では無いのだ。
三階建ての拠点の一階はエントランス、応接室、客室、洗面所、風呂場、厨房等来客を迎えるための施設が整えられている。
二階は勇作達メンバーの通常時の居住空間で各自一部屋ずつ占有している。
もちろん、居室以外にも洗面所、風呂場、厨房、食堂、娯楽室等の生活に必要な施設が配置されている。
三階は作戦司令室、待機室に加えて拠点地下エリアへアクセス出来る唯一の通路が用意されている。
垂直に近い階段を地下まで降りると渡り通路を通って外部には秘密の各工房に行くことが出来る。
島外から侵入者があった場合に備えて拠点外観からは容易に分からないよう設計されたものだ。
まず、地下の工房で一番目にあるのは農畜部の陽鞠工房である。
「コンコン・・陽鞠、いますか?」「・・いるよー!・・入って来て!」
愛理の問い掛けに陽鞠の元気な声が返って来た。
工房に入ると上下ツナギに長靴、エプロン姿の陽鞠が顕微鏡を見ながら盛んにピンセットを動かしている。
「何をしているんだ?陽鞠・・」
「えー!・・見て分かんないか・・芋類の品種改良をやってるんだよ!・・過酷な大地でも育つタフな奴なんだ!」
陽鞠によると魔人族の地でも容易に育つような芋類の品種改良に力を注いでいるようだ。
「これが出来たら魔人族の皆がもう飢えるようなことが無いようになると思うんだ!」
前回、魔人族の地を尋ねた時、生活の向上に尽力してあげたいと思ったらしい。
「陽鞠・・あまり無理し過ぎないでね」「ありがとう!・・愛理は心配性だなー!」
次は隣に工房を持つ芸家部の希美だ。
「希美!・・いますか?」「あら、いるわよ・・どうぞ!」
工房に入ると割烹着にお母さん被り、マスク姿の希美が忙しそうに専用厨房とテーブルの間を行き来していた。
「あら、勇作と愛理・・何か用かしら?」
「いえ、用と言う訳では無いんですが・・何を作っているの?」
「ああ、これはね・・チャモロ料理よ」
「チャモロ?・・聞いたことの無い料理だな」
「うーん、そうなのかな?・・私は普通に知ってるけど・・これはね、グアム島の伝統料理なのよ・・地上にある農園で陽鞠と育てた食材を使おうと思って」
「グアムですか・・何回か行ってますけど食べた事ないですよ?」
「日本米みたいなお米が赤く染められたご飯が出てこなかった?」
「ああ、それならありますけど・・チャモロって名前じゃ無かったような・・」
「日本で日本食ってあまり言わないのと同じかな・・お米をアチョーテって言う木の実を使って染めたものなの・・色は赤っていうよりはオレンジかしら?」
「でも凄く綺麗ですね・・」
「ありがとう・・グアムも南海に浮かぶ島だから、いろんな国の食文化を取り入れて現地で採れるココナッツミルクで野菜や魚介類を煮たものなのよ・・魚介と野菜の酢の物もケラグエンって言って伝統料理なのよ・・これも副菜で用意するわ」
「それにしても美味そうな匂いがするな・・試食出来るのか?」
「ふふっ・・夕食には間に合わせるから楽しみにしておいて・・」
「分かった・・楽しみにしてる」
勇作と愛理は甘い香りのする工房を後にした。
地下通路の奥には医薬部の早苗工房がある。
「愛理、早苗に声を掛けてくれ・・」「うん、分かりました」
ドアをノックするが返事が無い。しかし、いつものことだ。
「早苗!・・入りますよ!」
ドアを開けると工房には誰もいない。昼の時間は大体地上の薬草園にいることが多いので驚くことは無い。
工房を通って地上に出るとかなりの広さの薬草園が広がっている。
早苗の希望で温室の建設もされている。
「さて、どこにいるのやら・・」
薬草園を見渡したが人影は見えない。温室にいるのだろう。
「早苗!・・巡回に来ましたよ」
温室に入って声を掛けると、鬱蒼とした草花の中から早苗が立ち上がった。
「やあ、勇作と愛理・・巡回かい?ご苦労様だねぇ・・」
「ご苦労様です、早苗・・問題はありませんか?」
「うん、今のところ大きな問題は無い・・んだけどねぇ」
「うん?・・何かあるのか?」
勇作が気づいて尋ねると・・。
「・・大きな問題では無いんだけど、ある薬の開発に手を付け始めててねぇ・・ここにある薬草だけでは作れなそうなんだよねぇ」
「それはどこに行けば手に入れられるんだ?」
「頭痛、発熱や風邪に効くクズの根から作る葛根湯、マメ科の植物から作る甘草湯等の有名なものは、同じような成分を持っている植物を島内で見つけて薬草園で栽培してるんだけどねぇ・・」
「入手が無理かどうかは別として何が必要なんだ?」
「いくつかあるんだけど・・一つは熊の胆汁から作る熊胆、これは鎮静、解熱に効果がって奇応丸や救命丸にも使われてる・・二つ目はマンダラゲという花の実、これは麻酔効果のある通仙散を作る原料の一つだよ、他の原料は見付けられているんだけどねぇ・・まあ、本当はセボフルランを精製したいけどフッ化物が出来ないからねぇ、諦めるしか無いねぇ・・三つ目は漢方に十味敗毒湯ってのがあってね、化膿防止とかホルモン治療にも使われるんだけど材料が多いんだよねぇ・・」
「例えばどんなものなんだ?」
「まあ、順番に言うと荊芥、防風、柴胡、桔梗、川きゅう、茯苓、甘草、生姜、ぼくそく、独活の十種類の生薬が必要なんだよねぇ・・名前を聞いても良く分からないだろう?」
「すまん・・確かに」
「この中で採取、栽培出来ているものは九種類までは何とかなったんだよ・・でも防風と言う薬草だけはどうにもならないんだ」
「何がダメなんだ?」
「生息域が寒冷地なんだよねぇ・・かつての世界で言えばシベリアとか」
「なるほどな・・エルピス島周辺もそうだが、王国も共和国も温暖な地域だからな」
「そうなんだよ・・あと一種類なんだけどねぇ・・何ともならないねぇ」
早苗にしては元気が無い。出来る技術がありながら原料が無いので出来ないのは技術者としても研究者としても忸怩たる思いがあるのだろう。
「分かった・・今すぐと言う訳にはいかないだろうが、入手出来ないか調べておくよ」
「うん、お願いするよ・・」
いつもより元気の無い早苗の工房を後にした。
地下通路を左に折れると経外部の志摩の工房がある。
メンバーの中では数少ない文系学部出身者だ。
「コンコン・・志摩!・・いますか?」
暫くして、「なんや、愛理かいな・・何か用なんか?」と顔を出した。
「用と言う程では無いですけど・・皆の様子を見に巡回してるんです」
「それはまた、難儀なことやな・・あれ?勇作もいたんか!・・ほれほれ中に入り」
志摩は勇作の手を取ると工房内に引き入れた。
ドアの外に一人残された愛理は一瞬、茫然となりハッと自分を取り戻すと工房内に突入して志摩に食って掛かる。
「な、何ですか、志摩は!・・もう勇作くんを必要以上に誘惑しないで下さい!」
「なんや、焼き餅かいな・・全く小娘でもあるまいし、見苦しいで?」
「な、な・・何が小娘ですか!貴女も同い年でしょう!」
「そう言うとこやがな・・図星突かれるとすぐに怒り出す・・もうちょっと大人になりいや」
「私、小娘なんかじゃ無いもん・・ちゃんと勇作くんを受け止められる大人の女の子だもん・・」
大人の女の子って言葉が崩壊してるぞ・・ってそれどころじゃないか、これ以上放っておくと愛理のご機嫌斜めが限界を超えてしまう。
「・・もん」調が出だしたら危険信号だ。
勇作は愛理を後ろから抱き締めると「大丈夫だ・・愛理はちゃんと大人の女性だよ」と耳元で囁きながら『やり過ぎだぞ、志摩!』と目線で注意した。
志摩は肩を竦めると工房の奥へと消えた。
愛理を入口で待たせ、奥に消えた志摩を追い掛け、あまり愛理を揶揄わないよう注意した。
志摩はこの世界の歴史について調べていたようで、中々、進まない研究テーマに少しイライラしていたようだ。
夜にでも志摩のフォローはすることにして、愛理と工房を出た。
涙ぐんでいる愛理をフォローしながら、巡回の山場である技建部の心愛工房と防衛部の花梨工房へと向かった。
心愛と花梨の工房は地下ドックと地上の滑走路に繋がっている。
地下ドックは潜水艦着艦用に建設されたもので、滑走路は大型飛行船の離着陸用に建設されたものだ。
「コンコン・・心愛、いるか?」
「心愛?・・」
暫く待つと、おもむろにドアが開けられた。
「ん?・・勇作・・何?・・」
出て来た心愛の目には隈ができていた。
「お前・・また、無理してるな?・・目に隈ができてるぞ?」
「・・大丈夫・・まだまだ行ける・・」
「全く・・研究馬鹿にも困ったもんだ・・今回は何を開発してるんだ?」
「・・空飛ぶ潜水艦・・」「え?・・」
「・・空飛ぶオケアノス・・」「は?・・」
「・・今回は出番無かった・・空飛べないと活躍出来ない・・」
「いや・・まあ今回は仕方無いだろう?」
「・・悔しい・・何としても飛ぶ・・」
「宇宙戦艦ヤ○トみたいにか?」
「・・そう・・あれが理想・・」
「分かったが・・倒れるまで根を詰めるなよ?約束だぞ!」
「・・分かってる・・もう怒られたく無いから・・」
心配は尽きないが、約束は守るだろうと工房を出た。
次は同じ問題児である花梨の工房だ。
「コンコン・・花梨、いるか?」何回か声を掛けたが返答が無い。
「愛理、すまないが中の様子を見て来てくれないか?」
「はい、分かりました」
暫くして愛理が出てきて様子を聞くと、工房内のベッドで寝ているらしい。
中に入っても大丈夫だと言うので工房内に入った。
机の上には大型飛行船の図面が所狭しと乱雑に広げられていた。
図面を見ていると勇作達に気が付いたのか花梨がベッドから起きてきた。
「あら・・勇作ではありませんか、どうかしましたの?」
「いや、特別用事があった訳では無いんだが・・また、倒れていないか様子を見に来たんだよ」
「あら、それはありがとうですわ」
「これらの図面は・・何をやってるんだ?」
「これは大型飛行船エルピーダの改造計画ですわ」
「改造計画?・・あの完成されたエルピーダに改造が必要なのか?」
コテンと首を傾げる花梨は不思議そうに勇作を見上げながら言った。
「当然ですわ・・今回の遠征ではエルピーダの機体が大き過ぎて着陸場所に困りましたもの・・」
「でもそれは物理的に仕方無いんじゃないか?」
「それじゃダメですわ・・何とかするんですわ」
「良い案はあるのか?」
「当然ですわ・・エルピーダの機体の最も大きい箇所は両翼なんですのよ・・これを折り畳めば小さくなりますわ」
「は?・・折り畳む?マジン○―Zのパイ○ダーみたいにか?」
「そう!それですわ!」
「そんなことが出来るのか?」
「出来ますわ・・多分」
勇作はこめかみを押さえながら。
「分かった、とにかく身体には気を付けるんだぞ」
「もちろん分かってますわ・・もう勇作に怒られたくないですわ」
工学系の研究者は皆、こんな感じなのかと・・心配事が増える勇作だった。
長期間の遠征を終えて、久々の拠点へ帰還してやりたいことが山積みなのだろう。
統括部本部を置く地上三階の指令室に戻った勇作は愛理と今後の活動方針について話し合った。
余談だが元女教師の初音と花江は愛理と共に島外との貿易、連絡や物資の調達、管理、経理、事務、食事や掃除、洗濯と多岐に亘ってバックアップに回ってくれている。
夜になれば早苗&陽鞠、心愛&花梨、志摩&希美、愛理&初音&花江が日替わりでタッグを組んで勇作を夜這いにやってきた。
勇作にとっても別の意味でハードな毎日を送っていたのだった。
この後、勇作達は大きな問題に巻き込まれることになるのだが、それはもう少し先のことになる。




