【五六】疫病根絶 妖精族
高大一貫教育の大学三年生になり、実習のために船で離れ小島へ向かっていた主人公は突然の嵐に
遭遇してしまう。
気が付くと大学生男子一名、女子七名と女教師二名だけが異世界の孤島に漂着していた。
ここから孤島でのサバイバル生活が始まる。彼、彼女らは専門分野別に集められたエリート達だった。
生活する上で不可欠な拠点造り、食料の調達から始めることになる。
かつての世界の技術力を駆使した武器や輸送手段を筆頭に様々な開発も行うことになった。
最大の問題は武器、輸送機に使用されていた原料がこの世界には存在し無いこと。
新たなエネルギーを得るために悪戦苦闘するメンバー達。
発見された常識を覆す新エネルギーは後の大発明へとつながって行くことになる。
この世界を統治する王国や巨大生物、未知の病などと格闘する日々が続く。
次々と降り掛かる問題を持ち前の技術力と結束力で乗り越えて行く。
自分達の国を創り上げるため奔走する冒険と青春の物語である。
完全に寝過ごした時間に朝食を摂りに来た三人の様子を見たメンバーは皆、苦笑いを隠せなかった。
妙に肌がツヤツヤの心愛と花梨。それに対して疲れた顔の勇作であった。
朝食を済ませた勇作は愛理と希美を連れて組合事務所を尋ねた。
他のメンバー出立のための準備を進めて貰っている。
「朝からすみません、ハルモニア代表」
「おう、だから何度も言ってるだろ?・・俺は組合長なんだってよ!」
「了解です・・組合長!」
「お、おう・・それで朝から何の用事だ?」
「はい、アスターさんには昨日の内にお伝えしておきましたが、昨日を以てこの里での疫病対策を終了しました・・我々は次の疫病対策地に向かいますのでご挨拶に伺いました・・この一週間、素敵な宿を提供頂きまして、疲れた身体を休めることが出来ました、ありがとうございました」
「お、おう・・気に入ってくれたんなら良かったぜ・・それにしても、アスター!・・なんで昨日の内に俺に報告しやがらねえんだ?」
「・・お言葉ですが、昨日は昼間から酒を飲まれていて、お話を出来る状態では無かったじゃないですか!」
「うぐっ・・そうだったな・・つい、色々順調に進んでるもんだからよ・・気も緩むってもんだろうが!」
「そこ、逆ギレするところじゃありませんからね!」
暫し、二人の口論?漫才?を聞いた後、再訪を約束して事務所を辞退した。
「皆の準備は良いでしょうか?・・では、これより妖精族の里に向けて発進して下さい」
エルピーダの機長である愛理の命が飛ぶ。
「了解ですわ・・妖精族の里に向けて発進、ですわ」
「了解やで・・妖精族の里に向けて発進や!」
正操縦士の花梨が愛理の指示を復唱し、志摩は復唱後に操縦桿のスロットルを徐々に開いていった。
軽やかなツイン収束エンジンが唸りを上げると、フワリと機体が持ち上がり上昇を続けた。
所定の高さまで上昇したエルピーダはツイン収束エンジンの噴射方向を水平に回転させて直進を始めた。
一週間に亘って滞在したドワーフの里から妖精族の里に向けて飛び立った。
ドワーフ族の里から妖精族の里までは馬車を使った場合、二週間以上も掛かってしまう。
実際には一週間程の距離なのだが、途中から急に足場が悪くなって馬車での移動が出来なくなる。
妖精族の里周辺は広大な湿地帯で囲まれており、前回心愛達が訪問した際に使用していた水陸両用車であるホバーを使用するか空中でも飛ばない限り、手漕ぎの小型ボート等を利用するしか移動手段が無いからだ。
エルピーダに乗る勇作達は湿地帯など関係無く、半日も掛からずに到着出来てしまうのだが。
いきなりエルピーダで乗り付けて妖精族を驚かせないように、心愛と花江が二人乗り空水両用機カーチスで先行していた。
エルピーダは先行して待っていた心愛達の指示で大きな湖の畔に着陸した。
「物凄く綺麗なところですわね」「本当やな・・聞いてた通りや」
「大きな湖だ-!」「あら・・本当ね、ドワーフの里とは大違いだわ」
「希美!・・そんなことを言ってはダメですよ」
メンバー達は一様に周囲に広がる幻想的な景色に見とれていた。
「・・こっち・・」「はぁ・・皆さん、こちらです」
「・・あれ、妖精・・」「はぁ・・あの方達が妖精族の人達です」
心愛はトコトコと門前に進むと「・・私は心愛・・エレクトラに用がある・・」と伝える。
「ああん、もう・・すみません、先日、訪問させて頂いた心愛と花江です・・エレクトラ女王にお会いしたくて参りました・・お取り次ぎ頂けませんか?」
妖精はコクリと頷くと宮殿に向かって飛んで言った。
十分も待たずに女王側近のアロマがやはり空中を滑るようにやって来た。
「ようこそ、心愛さん、花江さん・・それと」
「・・勇作、リーダー・・と仲間達・・」
「はぁ・・先日はお世話になりました、お話ししました私達のリーダーで勇作くんとメンバーの皆を連れて参りました」
「それはようこそおいで下さいました・・お話は伺っておりますので、すぐに女王様に取り次ぎますのでこちらへどうぞ・・」
宮殿へと続くなだらかな坂道を登ると入口なのであろう花々に飾られたアーチが見え、くぐり中へと進むと、様々な果樹が実る樹木と咲きみだれる花々の絨毯に囲まれた宮殿が姿を現した。
花々には水を差したり面倒を見ている妖精があちこちで飛び交っている。
「か、かわいい・・」
可愛いものに目の無い愛理は空中を滑るように移動する薄絹を纏った妖精族に夢中だ。
一般的な妖精族は人族の半分程の背丈で皆、女性ばかりだ。
以前、この里を訪問した際に聞いた話では宮殿中央にある聖樹という木の根元から生まれ落ちるらしく、基本的に女性、男性という区別は無いようだ。
宮殿内にも陽の光をキラキラと反射するこれまた色とりどりの装飾がちりばめられ皆が幻想的な風景に見とれていた。
通された部屋の中央奥、窓際に一段と美しい装飾の鏤められた机に一際、美しい女性が座っていた。
「女王様、使者の方々をご案内しました」
「ご苦労様でした・・使者の方々、遠路はるばる我が国までお越し頂き恐縮です・・私が妖精族代表のエレクトラと申します、お見知りおきを・・」
エレクトラは立ち上がると優雅にお辞儀をしてそう言った。
勇作は一歩前に出て「私がメンバーのリーダーをしています勇作と言います・・先日はメンバー二人がお世話になりありがとうございました・・疫病の現状の説明と妖精族の現状についてお聞きしたくて参りました」と挨拶を行った。
ジッと勇作を見詰めるエレクトラに「どうかされましたか?」と問うと「いいえ・・」と首を振った。
「失礼しました・・勇作様がどのような方かなと思いまして・・心愛さん達が仰っていたように実直な方のようですね・・安心しました」
「?・・見てわかるのですか?・・心配されていたとか?」
「はい、何となくですが・・それと心配とは・・私達は基本的に女性として過ごしていますので男性の目には・・その、性的な意味で危ういと申しますか、過去には色々とありまして・・ご気分を害されたならお詫びします」
「い、いえ・・そんな事はありませんが・・そうですか過去にそんなことが」
心愛は勇作の横に並んで「・・女王、勇作は大丈夫・・」と言った。
「ふふ・・そのようですね」
「・・基本的に、無害・・」
「あら、そうなのですね」
「・・奥手・・基本、私達から襲う・・」
「そ、そうなのですね・・」
「・・ヘタレだから夜は・・むぐっ・・」
「心愛・・勘弁してくれ」
勇作は心愛の口を塞いで「申し訳ない・・下世話な話を・・」と謝った。
「ふふ・・良いのですよ、驚きましたが勇作様の人となりが良く分かりました・・では、長旅お疲れになったでしょう・・皆様、お茶にしましょう」
促されてテーブルに着くとエレクトラは側に控える妖精に何語か分からない言葉を小さく呟いた。
妖精は空中を滑るように扉まで移動してお辞儀をした後、退出して行った。
メンバーの自己紹介を済ませる頃には、数名の妖精がティーセットを運んで来た。
「さあ、まずは冷めないうちにどうぞ・・」
煎れてくれたお茶は何かのハーブティーなのだろうが、ほんのりと花の香りのするもので女子達からは大好評である。
「では、そろそろお話を伺いましょうか」
「そうですね・・他種族の現状について・・」
今までに疫病対策で訪れた獣人族、エルフ族、ドワーフ族の里の現状と対策の内容と結果について説明した。
「・・という現状です・・対策の効果も出ていますし、継続して頂いていますので間もなく収束に向かうと思います」
エレクトラは「それは重畳ですね・・全ては勇作様方のご努力によるもの・・我らが共和国のためにご尽力頂きまして、あらためてお礼申し上げます」と深々と頭を下げた。
「いえ、そのように畏まらないで下さい・・困っている方たちがいて、我々にそれを救う力があったというだけのことですから・・」
「ふふ、そのお言葉に嘘は無いのですね・・勇作様は心から優しい方なのですね・・人族とお見受けしますが他種族への偏見も無いように思えますし・・」
「はい、我々はこことは違う世界から飛ばされてきました・・前の世界には人族以外はおりませんでしたから、そもそも会ったことが無いので偏見自体が生まれる環境では無かったのです」
「なるほど・・メンバーの方々の心持を見るに心から勇作様を信頼しているご様子・・良い関係を築かれているのですね・・でも、大変そう・・いえ、失礼しました・・立ち入ったことを・・」
「はは・・ま、まあ仰るように大変ですので・・」
場が和んだところで一旦、お開きとなり夕食が出来るまで別室で休ませてもらった。
食事の準備が出来たと声が掛かり、部屋を移して夕食の宴となった。
妖精族の宴は幻想的で美しかった。初体験の女子達は皆、歓声を上げた。
「す、すごいですわ」「聞いてた通りやな」「すごーい!」
「あら、本当に光ってるわ」「幻想的だねぇ・・」「すごいですね」
ここでは心愛だけが小さい胸を張って「・・ふふ、そうだろう・・」とご満悦だ。
「もう、心愛さんが作った訳じゃないのに・・」と花江が愚痴る。
聞いていた通り、美しく淡い光を放つ様々な料理は口に運び喉を通り過ぎるたびに、確かに身体の中から何かが洗い流されるような感覚を覚える。
どれも味付けは薄味ながらも素材の甘みや酸味、旨味がバランス良く絡み合っていて、今までに食べたことの無いものばかりだ。
何の素材を使っているのか見当も付かないが、肉らしきものはほとんど無く葉物野菜や茸類、果実、魚類と思われる素材が魔法のように組み合わさって出来上がった料理だということは分かった。
早苗と陽鞠は何が使われているのか興味津々といった感じだが。
夢中になって食べる勇作達を慈しみの深い微笑みで見詰めるエレクトラがいた。
夕食の後、簡単な湯浴みをさせてもらって通された部屋で就寝した。
ここでも誰が勇作と寝るのかで女の戦いが勃発したのは言うまでも無い。
翌朝、勇作の両腕にしがみ付く様にスヤスヤと眠る愛理、初音、花江の寝顔があった。
愛理は純白、初音は黒色、花江は赤色のナイトウェアを身に着けている。
二人ずつ勇作と寝ることになると誰かが一人あぶれてしまうため、普段から仲の良い初音と花江が愛理を誘って「三人で・・」ということになったらしい。
今は愛理が勇作の右腕を、初音が左腕を抱え込み、花江は愛理の後ろから抱き付いて眠っている。
初音は三十二歳、花江は三十歳で元は学園の女教師だった。
この世界へ一緒に飛ばされた大切な仲間だが、やはり年上であり女教師だった立場上から何かと遠慮する傾向にある。
勇作とのことも遠慮していたのだが、愛理が積極的になるべきだと説得してくれたことから今ではまるで姉妹のように仲が良い。
エレクトラが用意してくれた朝食を摂って、妖精族での疫病対策について話し合った。
「・・では、妖精族の中からは感染者は出ていないのですね?」
「私はそう報告を受けています・・そうですね、アロマ」
「はい、妖精族の里全てに問い合わせましたが、お聞きしているような症状を発症している者はいないとのことです」
「・・なるほど」
勇作はその原因について、早苗と陽鞠に意見を求めた。
「そうだねぇ・・あの神秘に包まれた湖水にあると思うよ?」
「そうだよねー!・・不思議だけど、問題無いからOKだよ!」
感染状況については志摩から・・。
「昨日少し調べたんやけど、発症している者はおらへんで、この付近には・・」
感染源については花梨から・・。
「昨日調べましたが、まずネズミがおりませんし、媒介するノミをおりませんわ・・これは感染源が無いと言っても過言ではありませんわ」
だ、そうである。科学的には今のところ証明出来ないが効果は抜群のようだ。
湖水を使用した料理を食べ、風呂に入ったメンバー達は皆、驚くほど体の調子が良いのだ。
疫病対策の柱であるワクチンはこの湖水無しでは完成出来なかった。
今後も湖水と効果を継続させるための光輝水を分けてもらえることになった。
その代わりと言っては何だが、陶器、磁器、木工製品等をお礼として持って来ることで話が付いた。
予想以上に早く妖精族での活動を終了した。




