【四七】情報共有
高大一貫教育の大学三年生になり、実習のために船で離れ小島へ向かっていた主人公は突然の嵐に遭遇してしまう。
気が付くと大学生男子一名、女子七名と女教師二名だけが異世界の孤島に漂着していた。
ここから孤島でのサバイバル生活が始まる。彼、彼女らは専門分野別に集められたエリート達だった。
生活する上で不可欠な拠点造り、食料の調達から始めることになる。
かつての世界の技術力を駆使した武器や輸送手段を筆頭に様々な開発も行うことになった。
最大の問題は武器、輸送機に使用されていた原料がこの世界には存在し無いこと。
新たなエネルギーを得るために悪戦苦闘するメンバー達。
発見された常識を覆す新エネルギーは後の大発明へとつながって行くことになる。
この世界を統治する王国や巨大生物、未知の病などと格闘する日々が続く。
次々と降り掛かる問題を持ち前の技術力と結束力で乗り越えて行く。
自分達の国を創り上げるため奔走する冒険と青春の物語である。
翌朝、拠点での目覚めはやはり最高で、かなり朝早く起床した。
勇作が自室から起き出すと既に誰かが朝食の用意をしているようで良い香りが漂ってきた。
キッチンを覗くと愛理と花江がエプロン姿でせっせと朝食作りに励んでいた。
「おはよう、愛理、花江さん・・」
「「おはようございます、勇作くん」」
「良く眠れましたか?」「ああ、やっぱり拠点は安心できるな」
「ですね・・」
程無く朝食の用意が出来たと声が掛かり、花梨達を除く八名で久し振りに賑やかな食卓となった。
正午前、花梨達が無事に拠点に帰還した。
「おかえり、花梨、初音さん」
「「「おかえり、花梨!」」」「「「おかえりなさい、初音さん!」」」
「ただいまですわ、勇作、皆・・」「ただいま戻りました、勇作くん、皆さん」
花梨と初音は皆の歓迎を受けて揉みくちゃにされている。
見たところ疲れはあるが、怪我も無く元気そうで何よりだ。
今日のところは長旅で疲れているので、夕食を摂って早めに就寝してもらった。
翌日、メンバー全員が集まったエルピーダの作戦司令室で緊急会議を開いた。
「まず全員無事に拠点に戻ってくれたことが嬉しい、良く頑張ってくれたと思う・・それでは早速だが順に調査結果を報告してくれ・・早苗と陽鞠は最後にしてエルフ族を調査してくれた花梨と初音さん、宜しく頼む」
勇作の宣言で緊急会議が始まった。
「・・のような調査結果ですわ・・結論として言えるのはエルフ族では既に変異感染が始まっていること、詳細は早苗達の分析結果を待たないといけませんが、十中八九、ネズミからノミへの感染の媒介が濃厚です・・以上ですわ」
「ありがとう・・変異感染が始まってしまっているか・・分析結果はどうなんだ?」
勇作に話を振られた早苗は難しい顔で答えた。
「そうだねぇ・・まだ完全に分析が終わったわけじゃ無いけど、花梨の予想通りだと思うねぇ」
「そうか・・分かった、では次にドワーフ族を調査してくれた愛理と希美、報告を頼む」
「はい、では私から説明します・・当初、ドワーフ族では感染は無いと聞いていましたが、実際に調査した結果でも今のところ感染者は出ていません・・が、予断を許さない状況にあると思います」
「根拠は?」
「あら、それが見つけちゃったのよ、ねー!」
「希美!その言い方は不謹慎です・・ドワーフ族の集落にある厩舎で馬疱の症状を発症している馬を発見しました・・感染予防の対策を徹底して頂くようお願いしてきましたがどこまで防げるか未知数です」
「「「・・」」」
「その馬から採取したサンプルは既に早苗に渡して調査を始めて貰っています」
考え込んでいた勇作が応えた。
「変異感染が未だ確認されていないのは朗報か・・馬疱のサンプルが手に入ったのは良かったな、後で早苗の見解を聞こう・・ご苦労だったな、次、心愛と花江さん報告を頼む」
「・・湖の水・・すごい・・」
「ん?・・」
「・・ガイル島の奇跡の泉・・」
「うん?・・」
「・・妖精族、感染無い・・」
「心愛さん!またそんな説明して・・分かる訳無いじゃないですか」
「・・むぅ?・・」
「もう膨れないで下さい・・私から補足説明します」
妖精族の住む土地には広大な湿地帯の中心に大きな湖があり、この湖水を飲んでいると病気にならないと言われている。
現に妖精族からの感染報告は無く、周辺を調べても感染源となりそうな物は無かった。
しかし、この湖水は汲んで暫くすると効力が薄れてしまう。
この湖は遠くガイル島の奇跡の泉と繋がっていると言い伝えられてきた。
奇跡の泉は太古の昔、大怪我をした住民がこの泉の水を口にしたところ全快したと伝えられている。
普段から料理にはこの湖水が使われているが、特殊な水と一緒に使うことで、効力がすぐに失われること無くその効能が持続するのだと言う。
「私達も初めは半信半疑だったのですが、出された料理を食べると身体の中から力が湧いて来るような気がしました・・お風呂にもこの湖水が使われていて入浴後には身体の中の悪い物が洗い流されたような感じがしたんです・・信じられませんよね?言っている私も何故だか分からないので・・」
「・・全て本当・・」
「奇跡の泉や湖水の水のことを聖水と呼ぶ人もいるようです・・効能を持続させることが出来る水を光輝水と呼んでいるようです、これがその不思議な水です」
花江は箱から取り出した小瓶には緑色の液体が入っている。
「これは妖精族の住む湖畔で取れる植物から抽出しているのだそうですが、詳しくは教えて貰えませんでした・・コップ一杯の湖水に光輝水を数滴加えることで半日程度湖水の効能が持続するようです」
「・・摩訶不思議・・成分不明・・」
「心愛さんが調べてくれたのですが成分は良くわからないそうです・・って私ばかり話してるわよ、この内容で良かったかしら?」
「・・花江、グッジョブ・・」
親指を立てる心愛に溜息を付く花江を見て勇作は「花江さん、心愛のフォローありがとう」と労を労った。
「・・むっ、心外・・」
「ま、まあ花江さんがいてくれたことで助かっただろ?・・ここは素直にお礼を言っておくべきだぞ」
「・・分かってる・・花江、ありがとう」「ふふっ・・どういたしまして」
「湖水と光輝水だったか?・・これについても早苗と陽鞠の分析待ちだな・・では、続いて俺達の行った魔人族についてだが、志摩、頼む」
「へっ?私が説明するんかいな・・勇作がすれば良いんちゃうの?私の方が良いって?・・全く、分かったがな」
自分にお鉢が回って来るとは思わなかった志摩は慌てたが、気を取り直して説明を始めた。
「結論から言うとやな、魔人族では感染は起こっていない・・他に問題は起こっているけどな」
「あら、その問題って何?・・」「私は知ってるよ-!」
希美の疑問に即座に陽鞠が応える。
「ややこしくなるから陽鞠は黙っとき!膨れっ面してもムダやで・・」
「・・食料問題・・」
「心愛は鋭いんやな・・そう、問題だって言うんは食料問題なんや」
「食料問題ですか・・」「何を言うかと思えば普通ですわ」
愛理に続く花梨の返答にムッとした顔で志摩は続けた。
「簡単にそう言うがな、魔人族の住む土地はホンマやばいで・・砂漠と岩礁地帯しかあらへんのや、あの辺は・・そやさかい作物は育たんし、動物はおらんしで日々食う物にも事欠いている状態や」
「「「・・」」」
「外部との接触もほとんど無いようやし、今回、感染の媒介者としてネズミが挙がってるけど、現地で確認した限りおらへんさかいな・・感染のしようが無いんや」
志摩はメンバーを見回しながら説明を続けた。
「そこでや・・感染が見られない以上、食料問題の解決が最優先と考えたんや」
「あっ!ここで私の登場だよー!・・勇作から連絡貰って魔人族の土地まで飛んで行ったんだ!」
「その通りだ・・作物を育てることに関して陽鞠より右に出る者はいないからな・・痩せた過酷な環境でも栽培出来る作物を、育てるための指導を既に現地でして貰っている・・種から育てているから多少時間が掛かるのはしようが無い・・一定期間経過したら再訪することになると思う」
志摩から説明を引き継いでそう締め括った。
「俺達からは以上だ・・最後に早苗と陽鞠頼む・・」
じっと目を瞑ってメンバーの説明を聞いていた早苗は、目を開くと立ち上がってスクリーンパネルに移動した。
「では担当した獣人族の感染状況と調査結果から説明して行こうかねぇ・・」
司令室に集まったメンバーを見回して話を始めた。
「まず、獣人族の調査結果からだねぇ・・陽鞠、頼めるかい?」
「いーよー!・・感染症状はざっくり言うと天然痘と黒死病を足して二で割った感じかなー!・・天然痘の症状である膿疱を発症して、リンパ節の腫大や四肢が黒く壊死する特徴的なものだね・・感染当初に発生していたのは黒死病一次流行と同じ腺ペストだと思うよ-!」
やはりそうかとほとんどのメンバーが頷く。
「これは獣人族でのみ流行した感染型で一次感染型って呼ぶよ-!・・続いて、調査の結果、私達の知る二つある感染源の内でウイルスの方じゃ無くて菌の方で、既に感染源が・・うー、細かく説明するのが面倒になってきた・・二つの感染源を総称としてウイルスって呼ぶよ、ウイルスの変異が既に始まっているのが確認出来たんだ!・・敗血症に似た症状も見られてて、エルフ族に感染が拡大しているのは肺ペストと同じでこの感染型を二次感染型って呼ぶよ-!」
「「「・・」」」
「そして最新の情報ではドワーフ族にも感染が拡大してて、更に変異が進んでるようなんだー!・・これを三次感染型って呼ぶね!現在はこの型が猛威を振るってて獣人族で流行している感染のほとんどはこの型になりつつあるよー!」
メンバーは予想されていた結果とはいえ、三次まで変異が進んでいることに大きなショックを受けていた。
「それじゃ、ここからは私が説明しようかねぇ・・既に獣人族では三次感染型の市中感染が起こっていると言って良いねぇ、こいつはとにかく感染力が強いことが分かってる、天然痘は空気感染するんだけどネズミやノミに咬まれていないのに感染した者が出ていることからも裏付けられる・・正確には調べていないけど結構な数になりそうだねぇ」
「「「・・」」」
「この感染力を持ったまま空気感染に加えてネズミやノミを媒介に感染が広がっている状態だねぇ・・結構ヤバイよ、これ?」
「効果の認められる方法があるなら即時動かないとマズイってことだな?」
「勇作の言う通りだねぇ・・エルフ族の感染も三次感染型に置き換わるのも時間の問題、ドワーフ族も言わずもがなだからねぇ・・まあ、妖精族と魔人族で感染が認められなかったのは朗報だけどねぇ・・ただ、魔人族の場合はウイルスや菌が生存出来ない程に厳しい環境だからとも言えるねぇ・・」
「どうしますか?勇作くん」「あら、やるしか無いんじゃない?」
愛理の問いに当然だと希美が返す。
行動を開始するなら出来る限り早い方が良いことは明白だ。・・だが。
「ワクチンの方はどうなっている?早苗」
「難航しているってところかねぇ・・私達が採取した検体は一次感染型だけど、ほぼこの疫病の正体は分かったよ・・一言で言うと未知のウイルスだねぇ」
「・・未知のウイルスか・・最悪のパターンだな」
「そうだねぇ・・ただ、かつての世界の天然痘と黒死病の痕跡データが見つかっているから全くの未知ってわけじゃ無いけどねぇ」
「そうなのか?」
「うん、そうだよー!・・早苗と何日も徹夜で調べたんだよ!複雑に絡み合っているけどね!えらいでしょー!」
陽鞠は説明に割り込んできて「褒めて!」と頭をぐりぐりと勇作に押し付けてきた。
「はは・・そうか、えらいぞ陽鞠!」「えへへ・・」
頭を撫でて褒められる陽鞠を羨ましそうに見るメンバー達に勇作は気が付かない。
(鈍いからねぇ、勇作は・・こればっかりは何とかならないもんかねぇ・・)




