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「孤島立国」異世界で自分達の国を作ろう   作者: 八神夕輝
第二章 システア共和国
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【三七】獣人族 その一

高大一貫教育の大学三年生になり、実習のために船で離れ小島へ向かっていた主人公は突然の嵐に遭遇してしまう。

 気が付くと大学生男子一名、女子七名と女教師二名だけが異世界の孤島に漂着していた。

 ここから孤島でのサバイバル生活が始まる。彼、彼女らは専門分野別に集められたエリート達だった。

 生活する上で不可欠な拠点造り、食料の調達から始めることになる。

 かつての世界の技術力を駆使した武器や輸送手段を筆頭に様々な開発も行うことになった。

 最大の問題は武器、輸送機に使用されていた原料がこの世界には存在し無いこと。

 新たなエネルギーを得るために悪戦苦闘するメンバー達。

 発見された常識を覆す新エネルギーは後の大発明へとつながって行くことになる。

 この世界を統治する王国や巨大生物、未知の病などと格闘する日々が続く。

 次々と降り掛かる問題を持ち前の技術力と結束力で乗り越えて行く。

 自分達の国を創り上げるため奔走する冒険と青春の物語である。


 退出していたガーダが準備が出来たと呼びに来た。

 部屋を出て進み、一際重厚な扉の前で「勇作殿ご一行様にお越し頂きました」と扉の前にいる衛兵に告げると扉がゆっくりと開かれた。

 謁見(えっけん)の間なのであろうその部屋は華美に過ぎず、質素でも無い調和の取れた広い空間になっていた。

 ガーダに促され中央に進むと一段高い高座に二人の男女が椅子に座っていた。

 体の大きい威圧感のある男が共和国代表だろう。

 体表の毛色が白色と黒色の縞々になっているので、多分、虎獣人であろうか。

 隣には人族より耳の尖った色白の女性が座っている。

 エルフ族であろうその女性は華奢(きゃしゃ)な身体に透き通るような色白の肌で、作り物かと勘違いしそうな美女であった。

 この女性が共和国の副代表なのであろう。

 二人の前に進んだ勇作(ゆうさく)達は平伏すること無く、片膝を付いて頭を下げた。

 「御国の使者殿に請われて参りました、勇作と申します・・後ろに控えるのは私の仲間達でございます」

 「遠路、大儀であった・・私が共和国の代表を務めるペリプラメノスと申す、名前が長いのでな、プリメノスと呼んでくれ・・そなたらは我らが請い来てもらった賓客(ひんきゃく)である・・目的に掛ける時間以外はゆっくりと過ごされるが良い」

 体躯に違(たが)わず、声色が低音で落ち着いた話し方をする人だ。

 「私はこの共和国で副代表を務めるメラーキと申します、以後、お見知り置き下さい」

 ここでガーダが一歩進み出た。

 「勇作殿、そして皆様、お立ち下さい・・繰り返しのご説明となりますが私は共和国で政務官をしておりますガーダです、遠いところを私共の要請を受けて頂き感謝します」

 「早速で申し訳ありませんが、現状の説明を願えますか?」

 「承知しました・・」

 ガーダ政務官の説明によると獣人族への感染は続いており、予断を許さない状況にあると言う。

 また、気掛かりな情報としてエルフ族とドワーフ族の一部にこの感染が疑われる事例が出ているらしい。

 (ウイルスの変異が起こっているのかも知れないな・・後で早苗に聞いてみよう)

 プリメノス代表は宮殿内を拠点、宿泊地として使えるよう手配してくれていたらしいが、今晩のみお世話になり翌日からはエルピーダを拠点に活動することを伝えた。

 これには二つの理由がある。

 一つはエルピーダに搭載して来た機材が疫病の分析に必須であること、もう一つは感染源を宮殿内に極力持ち込まないためである。

 そう説明するとプリメノス代表、メラーキ副代表も納得してくれたようだ。

 ガーダ政務官には食料と飲料水の手配と明日からの感染源調査に必要な案内人の確保をお願いしてその場を辞した。


 その夜は歓迎のための晩餐(ばんさん)が用意され、様々な料理に舌鼓をうった。

 簡単な湯浴みをした後、宮中に用意、割り当てられた部屋で休んだ。

 この場においても純白のガウンを纏(まと)う愛理(あいり)の急襲を受けた勇作は、雷を落とそうにも愛理の真っ直ぐな愛情表現にたじたじになっている間にうやむやにされてしまった。

 翌朝、用意された朝食を済ませた勇作達はガーダ政務官の用意してくれた馬車に乗ってエルピーダに戻った。

 「やっぱり、エルピーダに戻ると落ち着きますわね」

 「そうだねー!・・やっぱりここが好きだよ!」

 ホームに戻って来たように表情を緩ませるメンバーの中で早苗(さなえ)のみが難しい顔をしていた。

 「どうした?早苗・・」

 「ん?・・ああ、ちょっと気になることがあってねぇ」

 いつもポーカーフェースの早苗だが、メンバー達は彼女の表情から深刻さを感じ取っていた。

 「あら、何が気になるのかしら?」

 「昨日の宮殿での現状報告についてだねぇ」

 「・・変異?・・」

 「そう、心愛(ここあ)は相変わらず鋭いねぇ・・」

 「でも、ウイルスによる感染の場合、多かれ少なかれ変異は起こるもんとちゃう?」

 「そうなんだけどねぇ・・」

 「もしかして、感染が獣人族以外にも出たことですか?」

 「ふふっ・・愛理が大正解を当てたよ・・中々無いことだねぇ」

 「!・・もう、早苗ったら・・私、お馬鹿じゃ無いもん」

 早苗は膨れっ面になった愛理の頭を撫でると、勇作を見て話し始めた。

 「心愛、愛理の指摘どおり、その二点について懸念しているんだよ・・一年程度の間に獣人族にしか発症しなかった感染が他種族にも広がってきている・・変異したんだろうことは確実なんだけど、この状況はヤバイかもねぇ」

 早苗の言っていることが理解出来たメンバー達は一様に青褪(あおざ)めた。

 「変異の速度が早過ぎるってことかしら?」

 「うん、それもある・・」

 「・・変異の強度・・」

 「そうなんだねぇ、ウイルスってのは常に生存競争を掛けて戦っているようなものなんだ・・そして膨大な生存競争を勝ち抜くと変異する・・蟲毒(こどく)って知ってるかい?競争を勝ち抜いたものには新たに強力な力が備わるんだねぇ」

 「毒性が強くなったりー、殺虫剤が効かなかったりするんだよねー!」

 「陽鞠(ひまり)の言うとおりなんだねぇ・・この現状から推測するにかなりヤバイ段階に入り掛けてると思うよ」

 「・・時間との勝負ってわけやな」

 「そうなるねぇ・・」

 メンバーの話を聞きながら考え込んでいた勇作は情報収集のための作戦を伝えた。


 深い森の中に都市があるエルフ族は花梨(かりん)と初音(はつね)、山の麓(ふもと)に都市があるドワーフ族は希美(のぞみ)と愛理が担当する。

 獣人族は宮殿の近くに彼らの都市があることから、早苗と陽鞠に担当してもらう。

 湖畔に都市がある妖精族は心愛と花江(はなえ)、草原に都市がある魔人族は志摩(しま)と勇作が担当する。

 待機メンバーとして獣人族の調査を行いながら、検査や分析、培養等を早苗と陽鞠にお願いする。

 早苗と陽鞠の負担が大きいが専門家である二人は外せない。

 今回はエルピーダを起点として情報収集に当たる予定のため、増産した三台のミニホバーと一台のカーチスに分かれて調査する。

 今回の遠征の際して、通常サイズのホバー(十人乗り)では必要台数をエルピーダに搭載出来ないため、急遽(きゅうきょ)、ミニサイズ(二人乗り)のホバーを開発、生産してもらったのだ。

 花梨と初音は一台目のミニホバーに乗り込み「エルフ族の調査に行って来ますわ」と深い森を目指して出発した。

 希美と愛理も二台目のミニホバーに乗り込んで「ドワーフ族の調査に行ってきます」と山の麓に向けて出発した。

 心愛と花江は三台目のミニホバーで「・・行って来る・・」と湖畔へと出発した。

 勇作はホバーチームを「くれぐれも気を付けてな」と送り出した後、早苗と陽鞠の見送りを受けながら志摩と共に草原へとカーチスで飛び立った。


 皆を送り出した早苗と陽鞠は案内を担当する猫獣人の男と獣人族の都市へと馬車で移動した。

 二時間程、馬車に揺られると城壁で囲まれた大きな都市が見えてきた。

 「どうやら着いたようだねぇ・・」

 「やっとかー!・・お尻が痛くなっちゃったよー!」

 「心愛の用意してくれた玩具を使った方が良かったかもだねぇ」

 「うん、次からはそうしようよー!」

 獣人族の都市は低めの城壁に囲まれたかなり大きな規模のものだ。

 今回、早苗と陽鞠はエルピーダでの待機組であると同時に、最も感染の危険性が高い獣人族を担当していた。

 獣人族はシステア共和国の中で最も人数の多い種族であり、この都市以外にも広く住んでいる。

 早苗達はまず初めに城壁内の都市内の感染状況について調べることにした。

 猫獣人に案内された城壁内は住居が立ち並ぶ大きな街並みだった。

 しかし、昼間だと言うのに露店も出ておらず、店の大半が閉まっている状態だ。

 「もしかしてと思うんだけど、普段はもっと人通りが多くて賑(にぎ)やかなんだろうねぇ?ここ?」

 「はい、本来であればこの主幹となる通りには絶えることの無い人で賑わっているのですが・・」

 「例の疫病の影響かねぇ?」「・・はい」

 「ここらは比較的整備された区画みたいだけど、未開発だったりスラムっぽいところってどこかねぇ?」

 「まさか!そこに行かれるのですか?」

 「そうだねぇ・・行きたい訳では無いけれど一番欲しい情報の入りそうなところだからねぇ・・案内してくれるよね?」

 「・・わ、分かりました、しかし、あまり治安の良いところでは無いので騎士団の出動を依頼して来ます・・暫(しば)し、お待ちを」

 そう言うと案内人は二人を数少ない営業している食事処に案内し、待っているよう伝えると通りを駆け出して行った。

 「慌てて行っちゃったねー!」

 「・・ちょっとトイレを借りてこようかねぇ」

 早苗は席を立つとウエイトレスに聞きながらトイレへと歩いていった。

 暫くして早苗が席に戻るとちょうど案内人の猫獣人が迎えにやって来た。

 「お待たせしました・・馬車にお乗り下さい、ご案内します」

 三人の獣人騎士が囲む馬車に二人が乗り込むと静かに走り出した。

 三十分程も走ると周りの風景がガラリと変わった。

 綺麗な街並みから一転、粗末な造りの家が密集して立ち並び、痩(や)せ細り目の光が消えた獣人達が路地や家の前に多数、横たわっている。

 通りを進んでいた馬車は開けた広場のようなところで停車した。


 馬車から降りた二人は僅かに顔を顰(しか)めた。

 様々な特殊な臭いを放つ物に数多く触れてきた医薬部の早苗、農畜部の陽鞠にとっても顔を顰める臭気が立ち込めていた。

 「不快な思いをさせてしまい申し訳ありません、この辺りがスラムと言われている地区の中心部になります」

 立ち込める臭気は獣人達にとっても不快なようで、案内人、騎士も袖口を鼻に当てていた。

 「案内ありがとう・・それにしてもすごい臭いだねぇ」

 「うん、中々ここまでの臭いは無いよー!」

 そう言って周囲を窺(うかが)いながら、バトルスーツを密閉していく。

 手袋を嵌(は)め、フルタイプのシールドを被った。

 早苗と陽鞠は検体ケースを持ってそれぞれ気になるところへと足を向けた。

 慌てて騎士一名ずつが護衛のために付いて行く。

 周りに立ち込める腐臭に似た臭気はやはり下水道の不備から来るものだった。

 粗末な家の横にはトイレのような穴があり、汚物で溢れている。

 流れていくために掘られたのであろう側溝にも汚物が溢れ、得体の知れない小さな生き物が蠢(うごめ)いていた。

 早苗は排泄物が堆積、滞留しているところから重点的に検体を採取した。

 一方、陽鞠は小動物の糞(ふん)や腐敗した食べ残し等から検体を採取していた。

 粗方の採取が終わったところで、疫病を発症している人々のところへ案内をお願いする。

 案内人と護衛騎士達には防護マスクと手袋の着用を義務付けた。

 初めての装着感に異論を唱えられたが「絶対に必要だ」と押し切った。

 「感染したくは無いだろう?」と。

 疫病が発症している家族を持つ家を早苗と陽鞠が数軒ずつ受け持ち、爛(ただ)れて変色している患部から検体を採取していった。

 検体採取の終わった早苗達は案内人と騎士達からマスクと手袋を回収するとエルピーダへ撤収した。

 今回見て来た限りでは、牛や馬に水疱(すいほう)や四肢の崩れているような個体はいなかった。


 エルピーダに戻った早苗達は洗浄カプセルで煮沸消毒した後、早速、検体の検査を開始した。

 「早苗・・ちょっとこれ見てー!」

 電子顕微鏡で検体を確認していた陽鞠から声が掛かった。

 「何だい?・・ほほう、これは・・思っていた以上にヤバイねぇ」

 「だよねー!・・こんなの見たことないよ!」

 「こっちの検査でも、それを裏付ける結果が出てるよ・・勇作に連絡入れといた方が良いかねぇ?」


 明日は宮殿に招かれている。

 獣人族の王達に謁見する予定が入っているのだ。

 今晩の内に出来る限り検査を進めておきたかった二人は、深夜になるまで作業を続けたのだった。





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