【二九】システア共和国からの使者
トゴイル島を出航した勇作達はエルピーダを先行させた。
行程一日で王国の港町ハミルブルックに到着した愛理達は王城へトゴイル島での討伐に成功したことを伝えた。
王国騎士団のラフェスタ団長は港まで駆け付けてくれたが、後から到着する勇作達を待って、合流後に王城を訪ねると説明して何とか納得してもらった。
オケアノスが到着したのはその二日後であった。
エルピーダ、オケアノスの両機を自動待機モードにセットした後、全員で王城に向かった。
団長に先導されて王城に着くと、今回もシステアメイド長に城内へと案内されることになった。
「準備が出来ましたらお迎えに上がりますので、それまでお寛ぎ下さい」
豪華な控室に通された勇作達は以前と同様に部屋で待つことになった。
メイド長と入れ替わりに入って来たメイド達はテーブルにお菓子や果物等を整然と並べると、勇作達を席に座らせて良い香りのするハーブティーを煎れてくれた。
王城で出されるお菓子や果物はどれも一級品で「うわ、これ美味しい・・」「本当ね、今まで食べたこと無いわ」と花江と初音は驚いていた。
前回は花江と初音は留守番だったからな。女子はお菓子や果物大好きだしな。
三十分程してメイド長が「準備が出来ました、皆様こちらへどうぞ」と呼びに来た。
謁見室に入ると左右に並ぶ重鎮達は数名で前回はいなかった金髪、金髭で筋肉の鎧を着たような男がいた。
勇作達が謁見の間の中央まで進み片膝を付いたところで「国王様の入場である・・」とプロイス宰相が宣言した。
奥の扉が開いてイェティス国王、ソフィア王妃、プラグマ第一王子、セレネ第一王女に続いて初めて見る同じ豪奢なドレスを着た女性が入って来た。
多分この女性がカロン第二王女なのだろう。
「今回の討伐は前回にも増して困難なものであったと聞く・・本当に大儀であった、功に報いるため宴を催させてもらう・・プロイス、良いな」
「御意・・」
「詳しい話はその時にでも聞かせてもらおうかの・・」
「私からも礼を言わせて下さいな・・今回は特に難しい討伐だったと聞くわ、皆さんのお陰でトゴイル島の民もやっと安心して暮らせることでしょう・・本当にありがとう」
王妃からも丁寧なお礼を頂き、謁見は終了した・・かに見えたその時。
宰相に文官が耳打ちして来た。
宰相は一瞬、驚いた表情をした後、「国王様、システア共和国から急使が参っております・・」と伝えた。
「急使とな・・何用じゃ?」
宰相は勇作達を一瞥して「報告に上がっておりました、勇作殿達が見たというトゴイル島近海に現れたシステアの船に関係するものと・・」と言った。
勇作達が控室に戻ると続けてシステア共和国使者との謁見が始まった。
共和国の使者が平伏する中、プロイスの「国王様の入場である」と宣言があり、イエティスが入室して来た。
今回は国王、宰相、将軍と文官数名、護衛騎士達のみである。
「面を上げるが良い、システア共和国からの使者とな・・何用かの?」
恐る恐る顔を上げた使者は疲れ果て、苦渋の表情を浮かべた男性で狐獣人だった。
「ご尊顔を拝するご許可を頂けましたこと、恐悦至極+に存じ奉ります・・本日は我が国の窮地にお力をお貸し頂きたく我が国代表ペリプラノメスより書簡を届けに参った次第です」
使者は懐から書簡を取り出すと恭しく文官に手渡すと平伏して返事を待った。
開封された書簡はイエティスにプロイスから手渡され、難しい表情を浮かべながら目を通していた。
目を通した書簡をプロイスに渡すと使者に質問した。
「書簡に書かれている程にひどい状態なのかの?・・」
「・・はい、日に日に発病者が増え、死者の数も相当なものになっております・・」
「治す手立ては?」
「今のところ熱を下げる、痛みを和らげるといった対処療法しか・・」
「ふむ・・」
「陛下、確か勇作殿達が新種の薬について話されていたと思いますが・・」
「・・そうじゃな、相談してみるかの?」
「承知しました・・システアの使者の方、部屋を用意する故、今日のところは休まれるが良い・・明日にでもまた話を聞こう」
謁見を終了して使者が退場するとイエティスは疑問を投げかけた。
「ラダマスよ・・そちは何か知っておるか?」
「いえ、私も初耳でございます・・ただ、軍の中での噂話程度のものであれば少々・・」
「ほう、それは?」
「はっ、あくまで噂でございますが、身体中に水疱が出来て破れた水疱から出る液体は触れる物全て溶かしてしまうとか、あらゆる関節が膨れ上がり黒色に変色して手足が崩れ落ちるなどと聞いております」
イエティスはあご髭に手を当てて考え込んでいた。
「全く悪魔の所業じゃの・・プロイス、我が国での発症事例は?」
「今のところ聞いておりません・・陛下、勇作殿達なら何か知見があるやも知れません、私の方でお聞きしてみようかと思います」
「そうじゃの、頼む」
イエティスが退場した後、アダマスは「我が国に飛び火せねば良いが・・」と呟いた。
勇作達は最初の控え室では無く、王族と会うための応接間にいた。
システアが指揮して少し時間は早いが昼食を食べていた。
「これ美味しいねー!」「ほんまやな・・」「あら、これも美味しいわ」
「・・うん、美味・・」「美味しいねぇ・・」「これも美味ですわ・・」
「勇作くん、美味しいね」「ああ、大したもんだな・・」
エルピス島での食料事情は優先的に力を入れて来た勇作達は、かつての世界の食事と比べても満足出来る充実度であった。
それでもテーブル上に並ぶ料理の数々は素晴らしいものだった。
食事を終えてメイド達が煎れてくれたハーブティーを飲みながら寛いでいるところにプロイスが訪れた。
褒賞についての話かと思ったがそうでは無いらしい。
「勇作殿達にお聞きしたいことがあってな・・先程、システアの使者と話をしたのだが・・」
勇作達は何を聞かれるのかと耳を傾けた。
「実はシステア国内で謎の病気が流行しているらしいのだ・・その病とは身体中に水疱が出来たり、関節が膨れ上がり黒色に変色して崩れ落ちるなどという奇妙な症状を呈しているとのこと・・我が国ではこのような症状は確認されていないが・・」
勇作はそっと早苗を見た。いつになく難しい顔をして考え込んでいた。
目が合って見詰めていると小さく頷いた。
「成程、そうですか・・私達の知りうる知識の中にその病の対処法があるか聞きたいということでしょうか?」
「流石だな、勇作殿・・そのとおりだ」
「・・分かりました、一度、我々の乗って来た軍船に戻って調べて見ることにしましょう」
「申し訳無いが頼む・・システアの使者とは明日もう一度話をすることになっている・・システア共和国とは友好関係にあって、出来れば力になってやりたいのだ」
プロイスは勇作から了解を取り付けると部屋から出て行った。
「早苗・・」「ああ、勇作が考えている通りだと思うねぇ・・」
「そうか・・」「まあ戻って調べて見ないと分からないけどねぇ・・」
一旦、ハミルブルックに戻るとシステアに伝えるとラフェスタが馬車を用意してくれた。
花梨達の乗る馬車内で・・「メイド長の名前はシステアでしたわよね?・・システア共和国と何か関係があるのかしら」と花梨が疑問を投げ掛けた。
「そう言えばそうやな・・偶然か?」「あら、もしかして王女様だったりして」
「すごーい、王女様―!」「・・偶然の一致?・・」
勇作達の乗る馬車では・・「つかぬことを伺いますが、メイド長殿はシステア共和国と何か関係があるのですか?」と勇作はラフェスタに問いかけていた。
「う、うむ・・あまり他言できぬことゆえ、ここだけのことにして頂きたい・・お察しの通りメイド長はシステア共和国の元王女であられる」
「・・」
「システア共和国は多民族国家でな、人族の他に獣人、エルフ族、ドワーフ族、妖精族、魔人族などで構成されている国家だ・・人間の占める割合は極僅かで、通常では人間が王族になることは無いと聞いている」
「・・」
「ところが三十年程前になる・・その時のシステア代表は獣人だったが、ある人族の女性に一目惚れしましてな・・反対を押し切って妃として迎え入れたのだ・・仲睦まじい二人の間には一人の人族の娘が生まれ・・共和国の未来を憂い、その娘はシステアと名付けられた」
「・・!」
「しかし、幸せは長くは続かなかった、システア代表が流行り病で逝去、後を追うように妃も逝去なされた・・後ろ盾を亡くした幼い娘は様々な迫害を受けて育った・・そんな時に陛下が共和国をご訪問される機会があり、その娘の存在を知った陛下は不憫に思い王国に引き取ったのだ」
「その後、彼女はずっと王城に?・・今でもシステアと名乗っているのですか?」
「・・そうだ」
年端の行かない少女には何とも理不尽で切ない出来事だったことだろう。
システアのことを思い、勇作は押し上げて来る感情を押し殺すため額を押さえた。
「・・勇作くん、大丈夫?」愛理が心配そうに寄り添って来た。
「・・ふぅ、ありがとう、もう大丈夫だ」
愛理の頭を撫でてお礼を伝えると、ラフェスタに質問を続けた。
「メイド長は共和国に対してどう思われているのですか?」
「普段はその事をおくびにも出さないが・・心中は測りかねる」
これは再度、登城した時に聞いてみる必要があるな・・。
「王国は現在、共和国と良好な関係にあるとお聞きしましたが・・」
「そうだな・・メイド長が王国に来る元凶であった当時のシステア代表は既にこの世に亡い・・現在は別の方が代表になってり、常に温厚で善政を敷いていると聞く・・この代表になってから王国とは良好な関係が続いておる」
「なるほど・・」
過去には色々あったが、それを乗り越えて現在は良好な関係が築かれているということか。
複雑な過去があったとしても今回のことは人命が掛かっていることだ。
取り合えず、それはそれとして冷静に検討すべきだな。
勇作達を乗せた馬車がハミルブルックに到着した。
「団長殿、私達は今夜ここに泊まって今回の件について調査を行います・・申し訳ありませんが明日の昼頃にもう一度迎えに来て頂けますか?」
「承知した・・」
そう言うとラフェスタは敬礼した後、王城へ戻っていった。
「では各自休憩してくれ・・夕食後にエルピーダに集合して会議を行う・・では解散!」
「早苗!・・」「何だねぇ?・・」
普段に比べて浮かない表情の早苗を呼び止めた。
「大丈夫か?・・顔色があまり良くないようだが」
「ふふ・・良く見てくれていて嬉しいねぇ・・ちょっと考え事をしてただけだねぇ」
「お前に限って体の調子が悪いのを放って置くとは思えないが・・」
「体の調子が悪い訳では無いんだがねぇ・・ただ、悪い予感はするんだよねぇ・・」
勇作自身も同じものを感じていた。
「実は俺もだよ・・」「ほう・・仲良しだねぇ、私達・・」
「らしくない事を言うなよ・・資料の準備を頼めるか?」
「了解だねぇ・・」
オケアノス、エルピーダへと各自散って行くメンバー達を見送りながら波乱の起こりそうな予感に頭を悩ませる勇作だった。




