【二六】勇作の受難
帰還準備が完了したと愛理から連絡が入った。
ケートスの残骸は片方のヒレ一枚(と言っても長さ五メートルもあるのだが)、尾の一部、頭の一部しか回収出来なかった。
他の部分は収束砲連射の直撃を受けて細かな肉片と化し海の底へと沈んで行った。
残骸はオケアノスの船底倉庫に収納し、エルピーダと並走しながらトゴイル島への帰路に就いた。
帰還途中で日が暮れたものの、日付が変わる前にはトゴイル島に帰港出来た。
時間も遅いため、島内への連絡は翌日にして艦内に泊まることになった。
オケアノス、エルピーダ組に分かれて就寝しようと考えていた勇作であったのだが、メンバー全員がオケアノスに押し寄せるというハプニングもあった。
エルピーダは自動監視モードにしてあるので、乗組員がいなくても大丈夫だと言う。
仕方無く許可した勇作だが、夕食、入浴を済ませた彼の寝室にまで全員が押し寄せるとは予想出来無かった。
ケートスとの激戦を終えた疲れに早く寝たかったのだが、誰が勇作の隣をゲットするかでここでも激戦が繰り広げられていた。
仲裁に入った勇作の意見などに耳を貸すものはいなかったのは納得いかない。
最終的に権利をゲットしたのは奇しくも心愛と花梨で勇作の腕をそれぞれ両腕と両脚に絡め取られる形で横になった。
二人共に数分と経たない内に寝息が聞こえ始めた。
両腕に触る柔らかな感触に結局一睡も出来ない勇作だった。
翌朝、帰港している両機を見た島民から連絡を受けた村長は、慌てて港へと急いだ。
港には大勢の島民が集まり、勇作達を取り囲んで歓声を上げていた。
「勇作殿・・」
「ああ、村長・・ケートスの討伐は無事成功しましたよ、昨夜の内に帰港したんですが時間が遅かったのでご報告が今になってしまいました」
「そ、それは構わんのじゃが・・よくぞ討伐して頂けた、まずは礼を言わせてもらわねばなるまい、ところで勇作殿、少し休まれたほうが良いのでは?・・大分疲れておるようじゃし、大変辛そうじゃ・・」
勇作は昨日の激戦の疲れに加えて一晩寝られなかった疲れから、目に隈が出来、今にも倒れるかと思う程にフラフラとしていたのだ。
「ああ、はい・・討伐の証を持ってきましたのでそれが終わりましたら・・少し休ませてもらいます」
陽鞠と希美がオケアノスの格納庫からケートスの残骸を吊り上げて港に降ろしていた。
「こ、これがケートスの残骸なのか・・これは?奴のヒレ?・・これで片方のみ?・・」
残骸とは言え、圧倒的なケートスの大きさに驚きを隠せない村長であった。
「ちなみにこのケートスのヒレは毒も無く、煮込むと美味いんだよねぇ・・」
「・・早苗、お前昨夜の内に何をした?」
「ん?・・勇作の隣はゲット出来なかったからねぇ・・暇だろう?希美と陽鞠に手伝ってもらって戦利品を少し味見しただけだよ?・・美味しかったねぇ」
「そうなんだよ、勇作!・・煮込むとまるで最高級のフカヒレだよ!」
「あらあら、陽鞠ったら・・フフッ、でも美味しかったわよね」
「マジか・・全くこいつらときたら・・分かった、夕食にでも村の人達に振舞ってやってくれ・・」
ここまで言うと勇作はガクンとその場に膝を付いてしまった。
討伐の報告が済んだことで緊張の糸が切れてしまったのだ。
「大変!・・勇作くん、大丈夫?立っていられない?・・じゃあ、艦内に戻りましょ・・」
愛理はすばやく肩を貸すが半分気を失っている勇作を支え切れない。
「全く世話の焼ける奴やな・・皆、後のことは頼むで」
志摩が空いている方の肩を支えることで何とか艦内まで連れて来た。
勇作をベッドに寝かせると既に寝息を立てていた。
「全くいい気なもんやな」「そんな言い方無いわ、勇作くん頑張ってたもん」
「そないなことは分かってるちゅうねん・・ここに美少女が二人もいるのに何やってるんやってことや・・」
「び、美少女?私も?・・」「・・はぁ・・愛理、それ嫌味やで」
「そ、そんなこと無いもん・・私、綺麗でも美人でも無いし、スタイルも良く無いし・・」
「どれだけ自己評価が低いねん・・お前が美少女で無かったら世の中に美少女はいなくなるで・・」
「そ、そんなこと・・」愛理は顔を真っ赤にして俯いた。
志摩は勇作に近付くと「チュッ・・」とフレンチキスをした。
「あ、あ・・何をして・・志摩・・」
「後のことは譲っちゃる・・普段頑張ってるご褒美や・・夕食頃に呼びに来たる、じゃ後は頼むで・・」
そう言うと志摩はさっさと出て行ってしまった。
「・・」
実のところ愛理も昨夜は討伐の興奮と勇作への慕情から悶々としてあまり寝付けなかったのだ。
勇作の片腕を枕に自身もベッドへ潜り込んだ。
胸に顔を埋めて、彼の空いているもう片方の腕で自分を抱かせることも忘れない。
勇作の体臭を思いっきり吸い込むと瞬く間に眠りに落ちた。
「ん・・いつの間にか寝てしまっていたのか?」
しかし、いつもと違い、何か柔らかいものを抱き締めている。
腕の中からは甘い百合の香が漂い、鼻孔をくすぐった。
部屋を見回し、腕の中を見た勇作は状況を把握した。
自分の腕の中には愛理がすやすやと眠っているのだ。
「・・何でこんなことになっている?」
愛理を抱き締めながらベッドにいる今の状況は非常にマズイ。
何故こうなったか?よりどうやって抜け出すか?が優先される。
他のメンバーなどにこれを見られたら只では済みそうも無い。
勇作は抱き締めている腕をそっと解くと、愛理を起こさないように注意しながら腕枕を外そうとした。
「・・う・・ううん・・」「!!」
身体を硬直させている勇作に目覚めそうになった愛理は彼の首に回している腕に力を入れて引き寄せ、今まで以上に身体中で抱き付いてきた。
まるで勇作が抱き枕にされている状態だ。
愛理の身体全体が柔らかく密着して、色々なところが刺激されるので更にマズイことになっていた。
「これはマズイぞ・・何とか早く気付かれずに脱出しなくては・・」
四苦八苦しながら愛理の抱き枕の拘束から抜け出そうともがく勇作。
しかし、無慈悲とは本人の願いに関わらず突然やって来る。
「やっほー!・・勇作、起きた?・・ご飯だよ!・・入るよー!」
不運は重なるものだ。このタイミングで元気印が来ようとは。
「・・」「・・」「zzz・・」
「・・お、お邪魔しましたー!」
「お、おい・・ちょっと待て、勘違いするな・・|陽鞠!」
「ううん・・どうしたの?何?騒がしいけど・・」
その後、指令室で一人正座させられ、延々と事情聴取される勇作がいた。
愛理からの弁明もあって、何とか解放された時には夜もトップリ暮れていた。
「あーあ・・お腹空いちゃったよー!」「・・誰かのせいでねぇ」
「全く、しょーも無いことしてるんや無いで・・(本当は煽ったの私やけどな)」
「・・不潔、羨ましい・・」
「信じられませんわ・・羨ましい、じゃ無くて節操が無くてよ」
「あらあら、勇作がションボリしてるわよ?・・勇作は悪く無いもんね?」
「・・すみません、寝落ちしてしまった私のせいです」
メンバーから散々、文句を言われたが結局のところ羨ましいので次は自分だとの主張に落ち着いた。
夜も暮れたというのにまだ村中が宴の真っ最中だった。
「おお、勇作殿、皆様・・急にいなくなられたのでどうしたのかと・・さ、こちらへ」
村主催の宴に招待されていた勇作達は村人総出でもてなされた。
ケートスの襲撃で夫が犠牲や怪我を負った夫人達からは手を取って次々と礼を言われ酒や肴を勧められた。
メンバーが料理したフカヒレモドキは大変好評で、普通では無い量を提供したはずなのだが食べ尽くされていた。
干物や発酵食品が特産品のトゴイル島では酒の肴には困らない。
酒も果実酒などのソフトなものは無く、蒸留酒などの酒精のキツイものがほとんどだ。
勇作はメンバー達に深酒はしないよう重々注意しておいたのだが、ほぼ下戸の愛理、早苗、花梨以外は全滅の状態になっていた。
陽鞠と希美は村民達と意気投合して盛り上がり、早々に潰れていた。
以外だったのは初音や花江までが酔い潰れていたことだ。
「だから注意して飲めとあれほど言っておいたのに・・」
まあ、極度の緊張の中で繰り広げられた激戦を経て勝ち抜いた祝勝会でもあり、ホッとした反動でタガが外れてしまっても仕方がないのかも知れない。
宴会がお開きになると勇作達は泥酔したメンバーを担いで艦内へと戻るのだった。
戦いの疲れが残る勇作達はもう一泊トゴイル島で停泊してから王都へ帰還することにした。
村長からは連夜の宴に誘われたが丁重にお断りした。
今夜は希美と志摩が勇作のベッドに潜り込んできた。
勇作は左腕側の志摩から甘いフルーツ香に包まれ、右腕側の希美からはお日様香に包まれていた。
「お前らまた俺を睡眠不足にするつもりか?」
「あらあら、そんなこと言って本当は嬉しいんでしょ?」
「な、何を言って・・」
「あのな勇作・・これだけの美少女達に囲まれて、迫られて何もせんいうんは男としてどうかと思うで・・」
「ぐっ・・む、無責任なことを・・俺はそんな男じゃ無い!」
「あら、そんなこと言って何か硬いものが私の太腿に当たっているのだけど?・・」
「うっ、そんなことを言ってもだな・・全くもう、お前らときたら・・ああ、そうだよ俺だって男だし、お前達みたいに可愛いくて綺麗な女子に身体を擦り付けられたら普通でいられる訳が無いだろう?・・」
「おっ?・・今夜は正直やんか、勇作に可愛い言われるんは悪くないな・・」
そう言うと志摩は更にその巨乳を誇示するように身体中を絡み付けてきた。
「あら、志摩ったら・・私も負けていられないわね・・」
志摩に触発された希美はその身に持つ爆乳という凶器を使って勇作を攻め立てた。
「うぐぐっ・・希美・・志摩も本当に勘弁してくれ・・それ以上は・・我慢できる限界を超えて・・」
「「・・」」
突然動きを止めた二人に訝しむ勇作。
「勇作・・実はお願いがあるのだけど・・」「ああ、私もお願いがあるんや・・」
「な、何だ改まって・・」
「・・私の・・私達の初めてを貰ってくれない?」
「・・はっ?・・お前、自分が何を言っているか分かっているのか?」
「あら、勇作は私がそんなにお馬鹿さんだと思っているの?・・」
「い、いや・・そんなことは無いが・・」
「私も初めては勇作が良いって思ってたんや・・それとも私が相手じゃその気にはならんか?」
「い、いや・・そんなことは無いが・・」
「愛理に義理立てでもしてるのかな?・・」
「い、いや・・そんなことは無いが・・」
「全く、女のことになるといつもの勇作らしく無くなるんやな・・どうしても嫌や言うんなら諦めるが・・」
「い、いや・・そんなことは無いが・・」
「嫌と言う訳では無いちゅうことで良いんやな?」
「い、いや・・嫌な訳は無い・・お前達みたいな美少女に迫られたら正直なところ嬉しい・・だけどな・・それぞれ立場と言うか、覚悟と言うか、その・・」
志摩と希美は頷き合うとガバッと起き上がりベッドサイドに立った。
「?・・」
困惑する勇作を横目にあっと言う間に希美は橙色、志摩は薄緑色の寝間着を脱ぎ捨てた。下着だけの姿になって彼に覆い被さってきた。
「覚悟しいや・・嫌で無いならもう遠慮せんで・・今夜、二人の初めてを貰ってもらうで・・」
翌朝、やけにツヤツヤした顔の希美と微妙に内股で歩く志摩はメンバーに目敏く変化を見咎められ勇作を食堂に残して指令室へと連行された。
朝食に戻って来た希美と志摩を除くメンバー全員からジト目を向けられる勇作だった。
勇作の受難?はメンバー全員が彼とベッドを共にするまで続くことになる。




