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「孤島立国」異世界で自分達の国を作ろう   作者: 八神夕輝
第一章 アサルド王国
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【十三】勇作の想い

 一ケ月程が経ったある日、勇作はメンバー達の作業状況確認のため愛理と共に拠点内の各工房を回っていた。

 拠点地下一階からしか行かれない秘密の階段を降りると、各メンバー専用工房とそこから繋(つな)がる地上の農園や飼育場、滑走路、海底路などに出ることができる。

 農畜部の陽鞠工房を覗(のぞ)くと薬用シロップと薬用カプセルの量産を行っていた。

 「どうだい?量産の状況は?」

 「うん、順調だよー!早苗のが出来次第合わせて完成だー!」

 いつも通り元気過ぎる陽鞠を労(ねぎら)って工房を出た。

 隣にある芸家部の希美工房を訪れるとエプロンにお母さん被り、マスク姿の希美が忙しく動き回っていた。

 「あらあら勇作と愛理じゃない、どうしたのかしら?」

 「希美、その格好似合い過ぎです!まるで新妻!」

 「あら、愛理だってこの格好すれば立派に勇作のお嫁さんよ?」

 「なっ!何を言ってるんですか・・勇作くんのお嫁さんなんて・・どうしよう・・」

 愛理は顔を真っ赤にして両手を頬に当てて俯(うつむ)くと、工房を出て行ってしまった。

 「希美・・あまり愛理をからかうなよ」

 「はあぁ・・勇作って他のことは完璧なのに、全く、本当に女心には疎(うと)いのよね」

 「??」

 「まあ良いわ、お姉さんから勇作に一つだけ忠告・・愛理だけで無くメンバー全員の瞳を良く見てあげて・・ちゃんと見てくれれば勇作なら気付けるはずよ」

 「お姉さんって、同い年だろうに・・まあ、忠告は素直に聞いておくよ・・それで希美の方の進み具合はどうだい?」

 「うん、順調よ・・もう少しでトランプ、オセロ、ジェ〇ガをそれぞれ百セット用意できるわ」

 「分かった、将棋も数セットで良いから頼む、製作が完了したら贈りたい人達がいるんだ・・取扱説明書もよろしく頼むよ」

 「OKよ!」

 そこまで話して工房を出ると通路の隅に愛理が佇(たたず)んでいた。

 「愛理、お待たせ・・次に行こうか?」「・・う、うん」「・・?」

 何故か元気が無い様子の愛理を気遣いながら次の工房に移動した。

 通路奥にある早苗工房を訪れた。が、声を掛けても返事が無い。

 「悪いが愛理、中の様子を見てきてくれないか?」「はい、分かりました」

 幾分、元気を取り戻した愛理は早苗工房に入って行った。

 暫(しばら)くして出てきた愛理は「部屋の中には早苗はいませんでした」と言ってきた。

 「農園の方にいるのかもしれないな・・行ってみよう」

 愛理を伴って農園へ行くと短パン、Tシャツに麦わら帽子というラフな格好で農園で栽培している薬草を点検している早苗がいた。

 「精が出るな、早苗」「ご苦労様です、早苗」

 「勇作に愛理じゃないかねぇ・・どうかしたのかい?」

 「いや、進み具合はどうかと思ってな・・それにしてもまだ春なのにその格好は早すぎないか?」

 「このくらいでちょうど良いんだよねぇ・・仕事の方は至って順調だよ、今は原料にしている薬草の生育状態の確認をしているところだねぇ・・勇作達もパパッと脱いでお日様の元に出てくればスカッとすると思うんだがねぇ・・」

 「あ、ああ・・遠慮しとくよ、量産の方が順調なら良かったよ・・人手が必要なら言ってくれ」

 「私も手伝いに来ますから・・ちゃんと服を着てきますけどね」

 「ふふっ、残念だねぇ・・」

 「じゃ、よろしく頼む」「了解だねぇ・・」

 いそいそと勇作達は農園を後にすると「はあぁぁ・・」と溜息を付いた。

 「・・危うく早苗のペースに嵌(はま)るところでしたね」

 「ああ、そうだな・・危なかった、次に行こう」「・・はい」

 勇作達は気を取り直すと心愛の工房を訪ねた。


 心愛と花梨の工房は他の工房と違い、地上の滑走路と地下の海底路に直接繋がっている特殊工房だ。

 「心愛、いるかい?」勇作が心愛工房の扉をノックすると、目の下に隈(くま)を作った心愛が扉を開いた。

 「・・勇作?・・」「時間は取らせないから状況を聞きたいと思ってさ・・」「・・入って・・」

 扉を開いたままフラフラと工房内に消えた心愛を追いかけるように部屋に入った。

 そこは大型の重機が複数台並び、潜水艦の胴体がクレーンに吊るされていた。

 潜水艦を組み立てられる程の巨大な空間だが、部屋全体に機械油の臭いが立ち込め、溶接の煙が漂う壮絶な現場だった。

 ツナギを着て溶接面を付けた心愛はハンマーで溶接部の状態を確認しながら勇作に聞いた。

 「・・何か用?・・」「開発中の潜水艦の名前は決まったのかい?」

 「うん・・オケアノス・・」「オケアノス・・?」

 「そう・・ギリシャ語で海神・・」

 「海神か・・心愛らしいネーミングだ」「すごく格好良いですね」

 「・・ありがと・・」

 「開発の状況はどうだい?」「・・まあまあ?・・」

 「・・順調と捉(と)えて良いのか?」「・・まあまあ?・・」

 勇作は額に指を当てて溜息を付いた。いつも以上に言葉が噛み合わない。

 「強度不足と言っていた課題はクリア出来たんですか?」

 「基本構造は変えないで高圧隔壁を作ったから・・多分、大丈夫?・・」

 「そうなんだ、良かった・・でも身体の方は大丈夫?フラフラだよ?」

 「もう少しだから・・気合!・・」

 そう答えると、心愛は溶接を再開した。

 直視出来ない激しい溶接光と煙に巻かれ出した心愛に愛理は声を掛けた。

 「栄養の付く夕食を用意するから、時間になったら食堂に来てね!」「・・分かった・・」

 無心に溶接作業する心愛を工房に残して部屋を出た。

 「いつもの事だが心愛は根を詰め過ぎる・・あれじゃ身体が持たないぞ」

 「・・そうですね」

 そう一人呟いた勇作は隣にある花梨工房の扉をノックした。

 「・・」「花梨、いるかい?」「・・」

 花梨の工房からは何の返答も無い。

 「愛理、悪いが中を見て来てくれ・・」「分かりました」

 愛理はそっと扉を開くとスルリを中に消えた。

 花梨が工房の中で倒れてはいないかとヤキモキしていると愛理はすぐに出てきた。

 「工房に花梨はいないようですね」「・・そうか、だとすると滑走路か?」

 「多分・・」「行こう」

 勇作と愛理は工房に入ると専用通路を通って地上に出た。

 心愛の工房からも出られる地上の滑走路は外部からは立ち入ることが出来ないよう電磁強化柵で囲まれ、木々の緑でカモフラージュされている。

 「あ、あそこにいますね・・か、花梨!」

 滑走路に佇む巨大な飛行船の横に倒れた人影が見えた。

 愛理の声が聞こえた時には勇作は走り出していた。

 勇作は花梨を抱き起こし「花梨・・おい花梨、大丈夫か?・・花梨!」と何回か呼び掛けると意識が戻った。

 「・・勇作?・・愛理・・どうしましたの?」

 「どうしたのじゃ無い!ここに倒れてたんだぞ・・どいつもこいつも根を詰め過ぎだ・・どこか痛いところは無いか?」

 「大丈夫ですわ・・もう少しなんですのよ、もう少しでこの子が飛べるのですわ」

 「いい加減にしろ、身体を壊したらどうするんだ・・倒れた時に打ったのか、額から血が出ている・・愛理、悪いが急いで救急セットと水分、栄養食を至急持って来てくれ!」

 「分かりました!」そう応えた愛理は即座に立ち上がると駆け出した。

 勇作は花梨を抱き上げた。「キャッ・・」花梨は突然のことに悲鳴を上げて勇作の首に縋(すが)り付いた。

 花梨は間近かから勇作を見上げた。唇を一文字に結んで薄っすら涙ぐんでいる。

 「ゆ、勇作・・怒ってるのかしら?」

 「当たり前だ!・・あれだけ無理をするなと言っているのにどいつもこいつも言うことを聞かない!」

 「・・心配掛けたのなら謝ります・・ごめんなさいですわ」

 「花梨と言い、心愛と言い・・何かあったらどうするんだ、こんなに追い詰めさせるために開発を頼んだんじゃ無い・・もう開発は中止だ!」

 「ち、ちょっと待って勇作・・もう少しなのよ、もう少しで・・」

 勇作に抱えられた身体を一層ギュッと抱き締められ花梨は言葉を詰まらせた。

 「花梨や心愛の身体の方が大切なんだ!」

 花梨を工房のベッドに寝かせると戻ってきた愛理から無言で救急セットを受け取り、丁寧に花梨の額の治療を行った。

 「愛理、後は頼む・・」治療を終えた勇作はそう言うと工房を出て行った。

 「・・勇作くん、泣いてたわ・・何があったの?」

 愛理から問われても蒼褪(あおざ)めた花梨には何も答えられなかった。


 今日は最後に志摩工房も訪れる予定にしていたが、勇作がいないため急遽(きゅうきょ)キャンセルした。

 夕食の時間になっても食堂に勇作は現れなかった。

 「愛理・・あの後、勇作に何があったのかねぇ?・・」

 「あらあら、どうしたの?花梨、心愛そんな暗い顔して・・?」

 「ほんまやで・・何があったんや二人とも」

 勇作の様子を見に行っていた陽鞠が戻って来た。

 「勇作、部屋から出てこないよー!・・声を掛けても返事は無いし!」

俯く花梨、心愛と勇作の間に何かあったことは間違いないが、聞ける雰囲気では無かった。初音、花江の女教師二人もオロオロするばかりだった。

 静まり返る食堂・・暫(しばら)くして愛理が重い口を開いた。

 「今日、皆さんの工房を順番に訪ねましたけど、心愛工房に行ったら彼女の目には隈が出来ているし、フラフラだし・・花梨工房に行っても居ないので滑走路を探していたら彼女は倒れているし、額から血が出ているしで・・勇作くん、凄く怒ってて最後には涙ぐんで・・部屋に閉じこもっちゃって・・後は皆さんご存じの通りです」

 額に絆創膏を貼った花梨は益々、項垂(うなだ)れながら「本当にごめんなさいですわ・・私があんなところで倒れなければこんなことには・・」と謝った。

 「私もゴメン・・夢中になると時間を忘れる・・」同じように心愛も頭を下げた。

 暫くの沈黙の後、志摩と希美が話し出した。

 「うーん、多分、何となくやけど倒れてたとか夢中になってたとかとは違うと思うんやけどな」

 「あら、私もそう思うわ・・きっと悔しかったんじゃないかしら?」

 「悔しいですか?・・」愛理は思いもしない言葉に目を丸くした。

 「そうやな・・何と表現したらええか難しいんやけど・・勇作は基本真面目やろ?、くそ真面目やろ?」

 「そ、そうですね・・」

 「そんなやからメンバーのこともめっちゃ心配してんねんな・・多分うちらが考えている以上に・・」

 「あらあら、そう言えば愛理が熱を出した時も大変だったものね」

 「・・」急に自分のことに話題が移り、その時のことを思い出した愛理は真っ赤になった。

 「んー?・・と言うことはー、勇作は悔しくて拗(す)ねてるってことかなー?」

 陽鞠の明け透けな物言いにメンバーは苦笑いしながら顔を見合わせた。

 「まあ多少意味合いは違うかもしれへんけど、似たようなもんやと思う」

 「あらあら、多分だけど・・すっごく心配しているのに本人達に全然自覚が無いから・・それで勇作、怒っちゃったんじゃ無いの?」

 「「・・」」

 花梨と心愛は志摩と希美からそう言われると、瞳に涙を浮かべながら益々、項垂れてしまった。

 「どうすれば、良いの、かしら・・」「・・どうしよう・・」

 重苦しい空気が流れた。

 この空気を何とかしようと愛理が助け舟を出した。

 「勇作くんも本気で怒っている訳じゃ無いと思います・・心配のあまり噴き出した感情のぶつけ所が無いだけだと思います、」

 「そうやな・・ここは愛理に一肌脱いでもらってやな・・全部脱いでもらってから全員で謝りに行こうか?」

 「一肌って、全部って・・何をですか!・・」

 愛理は志摩の不穏な物言いに胸を抱くように身を縮こまらせた。

 「そうだねー!決まり!・・行こう、行こう!」

 「そうするしか無いようだねぇ・・」

 「私達も謝りに行くわ」「そうね」二人の女教師も賛同した。

 「・・皆、申し訳無いのですけど、お願いしますわ・・全身全霊で謝ります」

 「・・いっぱい謝る・・」


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