その7
ケーセス空軍基地の5本ある大型滑走路の一つに、ケージ側から1機のV-53がゆっくりと進入してくる。
コックピットには、ちょこんとロードが一人乗っている。
膝に手を置いて、渋い顔をして勝手に動いている操縦桿とスロットルを睨んでいる。
メガネはかけていない。
航空機での旋回時、物には地上の何倍もの重力がかかる。
加えて、戦闘中にレンズが割れなどしたら破片で失明の可能性さえ出てくる。
メガネといえども凶器になりうる危険性がある。
・・・これが、空軍の見解だとスタイン大佐は教えてくれた。
「俺としては、あまり変わりなさそうに感じるがな。」
その代わり、とはいかないまでも、スタインはロードにいいものを貸してくれていた。
やはり、メガネがないので見た目の全てが霧の中だった。
極度の近視であるロードの視界は、画像編集ソフトウェアで何十回も“ぼかし”をかけた画像のよう。
眼鏡なしでは50cmも離れていないだろうコックピット計器でさえ判別が難しい有り様だった。
ロードはさっそくスタインに借りた新型試験用ヘルメットのバイザーを下ろす。それは頭全体を包む形になっており、スーツと合わさり完全な気密を保つ物だった。
気密ヘルメットのため、通常の戦闘機のような呼吸補助のマスクは必要ない。
顔の前は見える範囲全てが強化プラスチックになっており視界は従来のものよりも開けているらしい。
が、そんなものが最新型なのではない。
ロードはヘルメットの右耳のところにあるスイッチを押し、その内側にあるもう一つのバイザーを下ろす。
ちょうど視界を覆うように半透過型の強化プラスチックバイザーが下りてくる。
「よかったな。
この機が最新技術の試験用機体でなかったら、こんな装備付いてなかったんだぞ!!
他にもいろいろ付いているからその内、味あわせてやろう。」
「結構です。」
・・・と言えない今の立場がロードは恨めしい。
スタインの説明を思い出し、最新技術とやらのスイッチを入れる。
一瞬、目の前がノイズと暗闇に覆われる。
その後ロードの目に映ったものは・・・。
「・・・あ・・・。」
見えた。
長く伸びる滑走路と、青く高い開け放たれた空が。
“ぼかし“も無く、はっきり、くっきりと。
ロードが見るのは、ヘルメットに装備された半透明ゴーグル型HMDが映し出す画像である。
それはV-53s機体各所に装備された多目的カメラが捉えた全周囲映像である。
本来コックピットからは自らの影になり見ることのできない角度の映像さえ視界が補完されている。
『どうだ?ハーノクス君それなら君も見えるんじゃないかな?』
自分の体さえも透かして空が見える。
手の平を見ながら、地上の景色が見える。
それはまるで、自分の存在自体が半透明になり、視線だけが空を進んでいるかのように、空の青と雲の白を突き抜けてゆく。
「凄いですよ!これ!ハッキリ見えます!」
ロードの感動と興奮が声からも溢れ出す。
一度、電波になっていても、それは基地のコントロールルームにいるスタインにも伝わっただろう。
『それは良かった!
では、そろそろ行こうか。』
スタインは嬉しそうにそう言うと、ロードの左手前のスロットルが勝手に動き出す。
ジェットエンジンの振動の高まりが背中に感じられ、シートに体が押し付けられる。
強力な加速によるGがロードの体にかかる。
(やはり本物は・・・、違う!)
V-53は滑走路上で勢いを増し、加速していく。
スピードが増せば人が認識できる視野はどんどん狭まっていく。
しかし、この無限に広がる空を、狭められるものなど何もない。
突然、タイヤと滑走路の摩擦によるゴーッ、という音と細かい振動から解き放たれた。
(飛んでいる。)
日常とは一線を隔す感覚の広がりがロードの周りにある。
日々の感覚はすでに霞がかかったように、眼下へと詳細さを失いながら遠ざかっていく。
しばらくは安全高度までの上昇が続く。
ロードを気遣ってくれたのだろうか、上昇は緩やかなものだった。
しかし試験の内容をこの時ロードが知っていれば、スタインが嵐の前の静けさを演出していることに気づいただろう。
いずれにしろ、この時間はロードを落ち着かせるには十分だった。
眼下に見える景色にリラックスさえしていた。
広がる空に自分の精神と体が自然に開放されていく感覚。
何より、日々自分を支えると同時に縛りけていた地面、足元への開放感。
それはしかし、上下左右の概念からロードを開放し、至上の自由とともに、そこにいる自らを支えるのは自分自身でしかない。
地面の加護に頼ることを許されず、自立を要求されることでもある。
しかし、それを受け止められるだけ成長しつつある自分という者に、ロードは少しの誇らしささえ感じていた。
一人でいることの寂しさとともに。
コックピットから見える地上の背の低い山々は赤く色付いている。
そして、はるか遠くには、とてつもない標高を持つ山脈が北の果てを形成している。
山々は白い化粧をして、鋭い冷気を漂わせていた。
「これは、秋だ・・・。」
今感じるもの、見えるもの全てがまさにそうだった。
鮮やかすぎる美しさも、緊張感も、凛とした冷たさも、高い空への開放感も。
体の内側、胸腺を冷たい手でくすぐられているかのような、もどかしさと緊張感と心地よさが骨の芯に堆積してゆく。
身震いしたくなるような、冷たい緊張感が痛みを伴って体中を駆け巡る。
これは、単なる試験への緊張とは別格のものだ。
V-53が水平飛行に移ると、スタインから通信が入る。
『今から行うのは対Gならびに空間認知の簡単な適性試験だ。』
(吐くような?)
一人、心の中でスタインにツッコミをいれる。
『操縦はこちらで行うので、君は座っているだけでいい。
まあ、気楽にゆっくりやろう。
何しろ5人分も時間がある訳だし、たっぷり適性を見てやるから覚悟しとけよ。』
「お手柔らかに宜しくお願いします。」
苦笑いを浮かべながらロードは言う。
ちらりと右手に持ったポリ袋に目をやる。
(これのお世話になるのだけは勘弁してほしいな。)
『ああ、それからな、ゲロと気絶は一緒にやるなよ。…死ぬから。』
(そんな無茶苦茶なことをあっさり言うんじゃなーい!)
冗談なのか本気なのか分からない、平たい口調でスタインはあっさりと告げるのだった。
『いくぞっ!!』
「うわっ!ぐぅぅぅぅぅぅぅう!!」
試験はスタインのタイミングで勝手に始められた。
それは言ってみれば簡単なものだった。
何Gまで・何秒まで耐えることができるか。単純にそれだけなのである。
しかし受ける側にすれば、気絶するか諦めるまでは終わらないこの試験よりも、辛い試験など無いだろうが。
V-53s遠隔操作コントロールルーム。
V-53s、ロードの乗っている機体は実際にはV-53ではない。
機体形状こそ変わりは無いが、その内部は技術試験のためにチューンアップされたパーツで改造されたV-53スペシャルバージョンである。
朝、スタインと話していた女性仕官が、試験機の状況把握や管制、パイロットに指示を出す総合的なバックアップルームにいた。
無論ここも最新技術試験のための仮施設でしかない。
レントゲン室ほどしかない狭い部屋には訳のわからない機器が並び、モニタには三次元映像によってV-53sの状況や地形などがミニチュア模型のように映し出されている。
実はこのシステムは実験がすでに終わっており、高い評価を受け既にここでの計画は終了していた。
だから、ここには他に人の姿は無い。
隣には遠隔操作用のV-53sのコックピット・シミュレータが見える。
大きな箱のような外見のその中にはV-53sのコックピットが再現されている。
V-53sの各所に装備されたカメラとリンクしたヘッドマウントディスプレイを通して全周囲のコックピット映像を上回る、本来そこからは見えない部分さえ見ることが出来た。
今この操縦室の中にはスタインがいる。
原理としては、ここにいるスタインの命令が、この基地の航空管制や無線のための大出力電波送信機からV-53sに送られ機体がそれに反応するという、いわばラジコン飛行機のようなものである。
この電波網は中央平原をほぼカバーできるため、有人機並みの早い反応さえ出来れば、実用化され、パイロットの命が危険にさらされることも無くなるという夢のような技術だった。
が、やはり電波往復の(その処理に伴うハード的な)タイムラグのため、たとえ優秀なパイロットが操縦したとしても、腕の劣るパイロットの操る有人機にさえ勝てはしなかった。
だから、実際実戦には使用できず、試験機ぐらいしか、使い道がなかったのかもしれない。
それにもかかわらず評価が高かったのは、付随する諸技術が現行の航空機に流用可能であり、尚且つ飛躍的な性能・操作性の向上を促すことが分かったからである。
朝はスタインと一緒にいて、ロードに受験案内をした女性仕官が、今はモニタで状況を監視している。
彼女、サミー・ブリュレットは、スタインと共にこのプロジェクトに従事していたスタッフだった。
プロジェクトは世間的には成功と思われている。
が、二人やこのプロジェクトに空軍から参加した者たちは、そうは思ってはいなかった。
彼らは、この計画は本質的な部分に於いて失敗だったと認識していた。
計画自体は政治家が航空機メーカーと癒着して始められたもので、構想自体も開始以前から無謀だということは明らかだったのである。
有人機でさえ操縦と機体の反応にはタイムラグがあるにもかかわらず、その間に電子戦に弱い電波往復と機械処理のハンデまで背負えと言うのだから。
とはいっても、スタインたちが手を抜いたと言うことではない。
むしろこの無謀な計画を本当の意味で実現させようとしていたのは彼らとメーカー側研究チームだけだったのである。
タイムラグに対応するために、数秒先の行動・映像を予測し映し出すシステム。
電波送受信にかかる時間を短くするための、新型超高速情報インフラ・システムの設計。
遠隔操作のため機体の全周囲をカバーするカメラアイ情報統合処理システム。
エルドシン機の映像から再現した推力偏向ノズル。
これらの、カーヴィナスに”輝かしき副産物”と呼ばれるものを考え出し作り上げていったのは彼らなのである。
しかし、その全ての功績はメーカー上層部と計画を押し切った政治家の、計画失敗に対する言い訳に使われ、皮肉にもその有用性の大きさによりメーカーも政治家も責任を追及されることはなかった。
いや、もしかすれば、スタインはそのことさえ気にはしていないかもしれない。
ただ純粋に、自分に与えられた計画を実現できなかったこと、そのために試行錯誤を繰り返し生み出した新技術も結局は目的を達成するには十分ではなかった、という事実自体が、彼にとっての敗北であり失敗なのである。
これをロードが知っていればスタインが語った”最新技術”には、所詮は目的さえ果たせなかった技術、という自虐的な皮肉も混じっていることに気づいただろう。
そして又、目的を果たしていれば、試験機の代役などという屈辱的な扱いも受けなかったであろうことも。自らが心血を注いで育ててきたV-53sへの、哀れみと自責の念も。
しかし、スタインが屈辱的と思っていたことは、後にこのV-53sを、ある記念碑的な機体とする要因となる。
V-53sは一定のGを維持するため、旋回によって変化するスピードに対応して繊細にエレボン角度を変化させながら空を滑ってゆく。
実戦機にはありえない、視認性の高いつややかな光沢を持った白と青の機体が光源との角度を変えキラキラと輝いていた。
V-53sがストレーキから雲を生じさせ、切り込むように旋回してゆく。
サミー・ブリュレットはポカンと口をあけたまま、モニタに表示されたあり得ないものを見ていた。
サミーの目が映すのは、モニタに表示された9Gという数値。
「この子は!」
『サミー、こいつはとんでもない掘り出し物かもしれないぞ。』
シミュレータの中にいるスタインの声が、スピーカーから聞こえる。
モニタの一部にはコックピットで必死に呼吸して息を整えるロードの映像が映し出されている。
まだ試験は終わっていない。
「600人中の平均が5、6G、最高でも7Gブラックアウトなのに。
9Gですって?!」
しかも、最終結果での限界値ではなく、未だ途中経過である。
その数値は既に現役パイロットに匹敵していた。
訓練も受けていない一般人が容易に出せる代物ではない。
審査用プログラムの範囲である7.5Gを超えているため、
スタインの直接操作によって9Gが再現されているのだ。
「ちなみに、大佐の最高値はいくらなんですか?」
『15で8秒だ。』
「どうしましょうか。
対G特性は特別評価“S”ってことにして、もう終わりにしますか?」
サミーはいつもの調子に戻り、明るくそういう。
スタインもそれは感じ取ったようで、それにふざけて答える。
『うむ。
あと3人分の時間が残っていることだ。
ここは軍として、せめて気絶か嘔吐させない訳には・・・。』
「うわぁ~。イジワル!」
笑いながらそういう。
ロードにとっては、全く笑い事ではないのだが、幸いこの会話はロードには聞こえていない。
既にここまで2人分もの時間を使って試験を続けているにもかかわらず、終わりそうな気配は全く無い。
それだけやってもロードが気絶しないのが理由なのだが。
『いや、そうではなくて。
世の中を甘く見ている子供に、現実の厳しさを教えるという、大人の役目を果たすだけですよ。』
「世間ではそれを、イジメ、と呼んでいることを知っていますか、大佐?」
サミーがおちゃらけてそういう。
「はぁはぁはぁ・・・くぅっ、はぁはぁ・・・」
ロードは旋回の連続の内にある短い合間に、吸えるだけの酸素を吸おうとしていた。
今度の休憩は長く感じる。
回数が増すごとに意識が遠退く危機感が増していった。
そのたびにロードは、現実にしがみ付くために全身の筋肉を硬直させた。
精神の深淵へと沈み込んで行きそうになる意識を、無理やりに浮かび上がらせる。
無形の”モノ”の代表ともいえる精神や意識が、対極にある有形の肉体に頼らなければ維持することが出来ないという事実は、こんな状況にあってもロードを楽しくさせた。
精神が肉体を超える。
精神力で体を支える。
ロードもよく聞くフレーズだが、この場においてそれは成り立たず、逆転さえしていた。
所詮この二つは一つでは成り立ち得ないものだ、と実感する。
しかしこうも考える。
意識を失わせたくないのは精神であって、そのために肉体を行使しているのもやはり精神なのではないか?
また、精神が失わせたくないものは意識の喪失に伴い、危機に晒される肉体なのではないか?
そこまで考えると、この二者が支えあい成り立っているという結論は正しいように思えた。
この場にそぐわないことを思いながらも息を整える。
回復に集中するためロードは、目まで閉じている。
なんだかこの試験が何時間も前から続いているような気がする。
ロードは全てに関して疲れている自分を感じていた。
特に、旋回の終わり間際・ちょうど 緊張が解けかけた時にやって来る嘔吐感をかみ殺すために、予想外のエネルギーが使われていた。
(何で僕、こんなところにいるんだろう。
つい一昨日まではベッドで寝転がりながら参考書を読むくらいの毎日だったのに。)
どうしても今までの生活と今の状況とのギャップが埋まらない。
しかし、悪い気分ではない。
変化とはこんなものなのだろうという納得のようなものがある。
しかしそれはそれで、本音は・・・。
(もう帰りたい。)
「ん?」
スタインはヘッドマウントディスプレイの視界の隅に過ぎった影に気づき、太陽の逆光を凝視する。
スタインの瞳孔・焦点の絞りを繊細に読み取り、HMDに映し出される映像が、視線の先の映像を拡大表示してゆく。
「見慣れない機影だ。
サミー!」
『データに無し。』
カウンターシェード塗装を施されたスカイグレーの機体が、緩やかに旋回するV-53sと編隊飛行をしているように追随していた。
機首部分が目立って長く、スラリとしたブレンデットウィングボディの流線型が美しい。
翼端には特徴的な前進角と、背後に長く伸びる異様な形状の補助翼がついている。
三翼面の双発機、ノズル形状を見ればそれがベクタースラストだと容易に想像できた。
機首から主翼にかけたなだらかに曲線を描く流線型はストレーキだ。
(レーダー反応は青交点の味方機。
IFFは見方機と判断したということか。新型か?)
HMDの機体情報表示に表示されるのは、”OZUS”という操縦者を現すのだろうコールネーム。
機体自体をしめすのだろう、FW.Gr-72という情報しかない。
補佐についていたサミーは端末によってAIFF認可の出所を探り始めている。
機体同士の位置関係が変わらないため、スタインが凝視すればV-53sの機体各所にある多目的カメラが望遠を利かせ、対象機のディティールを詳細にしてくれる。
主翼上面に施されている国籍識別マークに焦点を合わせる。
(データにはあったが、カーヴィナスではない?
友好国の新型か。
オズスだと?)
機体同様に、鮮烈なほど強い印象を残す優美なその国籍マークに、スタインは見覚えがなかった。
更に詳細にその印を確認するために、ズームが利き、潰れていたディティールが鮮明になってゆく・・・はずなのだったが。
「なに?」
突然にモザイクのような画像の乱れが走ると、次の瞬間、そこにあるのはスタインがいつも見慣れた自国カーヴィナス国籍マークである太陽を中心に飛ぶ二羽の鳥でしかない。
『あれは、“スカイ“?』
機影に気がついたのか、通信越しに、V-53sのコックピットにいるロードの呟きが聞こえた。
失神などの様子を知らせるために、ロード側からの通信は常時オープンになっているのだ。
(スカイ?)
その呟きの直後、機体表面の反射がギラリと眩しさを増す。
機影が動いたのだ。
スタインが視線をコックピットに移すと、引きずられるように望遠カメラのズームがパイロットのバイザー部分に向けられる。
外側からはマジックミラーと同じ原理によって、見えるはずのない遮光バイザーの中に、強制的に焦点が合ってゆく。
そこにスタインが見たものは、穏やかに微笑むブルーの大きな瞳。
ブルーが滲み、瞳孔の黒と濡れた瞳を輝かせる光が混ざり合った時、スタインの見ているものは“虚空”になっていた。
『消えたっ?!』
ロードも同じものを見ていたのだ。すぐさまレーダーに目を移すが、先ほどまで確かに存在していた青いレーダー光点も同時に消え失せていた。
(バカな!)
「管制、この空域にいた友軍機はどこに動いた?」
『試験機ナンバー32、こちらケーセス8。
現在その空域には、貴機とナンバー26の試験機、計2機 それ以外の機影は確認できない。
友軍機の飛行予定もない。
どうした?』
スタインは、首筋を冷たい汗が滑り落ちるのを感じていた。
『こちら、試験機ナンバー26。
そちらの軌道が見えていたが、周辺に機影・レーダー反応ともに確認していない。』
「・・・そうか、了解した。」
スタインはレーダレンジを切り替えながら索敵を続けるが、反応は見えず。
『大佐、再度敵味方識別をかけたところ先程のコード、対象機はUnknownと判別。』
サミーが続けざまに不気味なことを告げる。
「なんだと。」
『怪談じみてきましたね。』
「・・・嫌な予感がする、さっさと終わらせよう。」
(スカイ・・・?)
ロードは自分自身が呟いた言葉を、思考の中で反芻していた。
(なぜさっきの機影をみてこんな言葉が浮かんだ?
いや、違う。
なぜ、それ以外の記号など“ありえない”と認識してしまった?
スカイとは何だ。)
スタインは嫌な空気を振り払うため、無理にふざけて、ロードに試験終了と同等の宣告を告げる。
『ということで、さぁハーノクス君。
そろそろまいってもらおうか~?
そ~れ、いきなりブラックアウト~!』
「ちょっと、まっつ・・・ぐぅっ、ぐぅぅぅぅぅぅっ・・・」
今までとは明らかに違う旋回の切れ。
時速1500kmにもなろうとしている状況から、アフターバーナーによる急加速をしながらの急旋回。
ロードは、一気に沈んでいきそうになる意識を、全身の力によって繋ぎ止める。
パイロットスーツは空気圧によってロードの体を圧迫し、頭部からの血液の降下を妨げる助けとなっている。
膝には異常な重さを感じる。
まるで鉄のようなその重さが、自分の手だと気が付いたのは数秒後だった。
体を支える筋肉と、その中心になる骨、それを繋ぐ関節、その全てが異常な力に限界を感じ始めていた。
ギリギリと引き伸ばされた弦が、ツンッと切れる感覚が近づいてくる。
「ぐ・・・、・・・」
ロードの顔は、意識的に絞り上げられた血によって真っ赤になっている。
それでも、強烈な旋回によって認識力が低下してきたことを、目に映る空の色が無くなってきたことから気づく。
しかし、どうしようもない。
視界は周辺部から着実に侵食されてゆき、グレーアウトからブラックアウトに至るのは時間の問題であった。
それはあまりに突然。
現実は暗転し、悪夢が現実に取って代わる。
ビーーーー!!!!!
『Caution! IRミサイル、4時方向、距離800、回避せよ!』




