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第二十二話 真相

 超激辛地獄うどんは古高の魂を痙攣させた。いや、実際身体も痙攣していた。なんか、わさびをこんもり置いた箱を密閉して蜂をその中に入れると刺激で死ぬらしいけど、人も辛さが度を過ぎると死ぬんじゃないだろうかと思わせるほどの圧倒的な刺激に、古高もついに口を割ったわけだが……。

 事は新撰組がもしやと懸念した通りだった。

 例の京の町に火を放って混乱の中、会津中将様、禁裏御守衛総督様(一橋慶喜様)を殺し、天子様を長州藩に連れ去るという計画。……あれに付随して、新撰組隊士殺しが横たわっている。

 ……実際にそうはいわなかったが、行間で理解してあげないことにはさすがに古高が不憫だった。

 隊士殺しに関しては、すでに首謀者がこの通りなのだ。もっと巨大な背景が判明して、そっちはうやむやになっていった。

 というか、この京都大火計画も、初めはどんな夢物語かと思っていたけど、古高の隠し持っていた武器弾薬の量を見て、にわかに現実味を帯びてきた。あれが洛中で縦横に火を噴いた場合、町は文字通り火の海に包まれるだろう。

 ずっと長州藩に遠慮がちだった会津藩も、さすがに目の色を変えた。古高邸で押収した連判状に記載された名を元に、長州藩邸のある河原町、他、木屋町、三条通を中心に密偵が溢れることになる。

 名指しで探索をすると、なるほどこの界隈の旅籠は、長州者の巣窟であった。

「歳、今回ばかりは手伝ってほしい」

「いいだろう。町が焼かれては新鮮組が立ちゆかん」

 ただし、毎日商いを行っていた新鮮組を閉じれば勘付かれるので、表向きは通常通りに店を開けることにするらしい。


 調べが進むと、界隈に分宿している浪人を取りまとめる存在が分かってきた。

 池田屋惣兵衛という旅籠の主人。これが実は長州者だ。彼自体に強硬な思想があるわけではなく、資金と埋伏場所の融通を一挙に請け負っているらしい。

「まずはこれを縄にかけるか」

「やめておけ」

 この際危険なのは支援者よりも実行犯である。ヘタに外輪をつついて散らしてしまっては元も子もない……と、土方先生は近藤先生を抑えた。

「奴らの武器はこちらが押さえているんだ。これを奪還せぬうちは計画は実行できまい」

 "混乱に乗じて"と言うが、いくら混乱に乗じても、御所は会津藩兵が守護しているわけで、数も違えば武装も違う。浪士がたとえ千名いたとしても、丸腰の身で洛中を踏み荒らし、会津様を打倒しようなどとどの口が言えるのか。

「確かに……」

「奴らが計画を実行に移す気が多少なりともあるのであれば、古高の逮捕に際して善後策を練るはずだ。場合によっては一堂に会合するだろう」

 その時には枝葉ではない、大物が釣れるだろうさ……土方先生は言い、さらに、

「ついでだからもう少し釣ってみるか」

「どうする」

「今、押収した武器弾薬は古高邸に放置されたまま、会津藩兵が管理しているな」

「そうだ」

「これをひとまず新撰組の管理としていただこう。そして噂を流す」

<六月の中頃、新撰組の本隊は公用にて大坂へ下る>

 するとどうなるか。

「奴らが武器弾薬の奪還を考えるなら、その機会は絶妙だろう。ひょっとすれば古高奪還のために屯所を襲う計画も立てるやもしれん」

 その"計画を立てる"のに、会合を誘発できる。新撰組がそれを煽ることにより、できる限り早々に彼らを一挙に集めて決着をつけてしまいたい。


 他方で、剣術の訓練に屋内で戦う訓練が加わった。

 土方先生は会合の席を狙っている。ということは自然、戦場は屋内であり、狭苦しい場所での戦いを強要される。

「刀はみだりに振り上げるな。鴨居や天井板に刺さる」

 剣術などというものは身体に染み付いたものだから、相手と剣を合わせれば自然と自分の流儀が出る。それは一朝一夕に抜けるものではないので、心構えのない者たちはつい面を狙うために刀を振り上げてしまうだろう。新撰組がその部分を徹底していけば、それだけで戦闘が有利になる。

「主に突け」

 というのが基本戦術となり、隊士に徹底した訓練が施された。

 また、明かりを消されても戦えるよう、暗闇での模擬戦を行ったりもした。

 夜目に慣れること、そして掛け声。……それでも、ともすれば同士討ちとなってしまう。しかし訓練をしてこうなのだ。奇襲を食らった者たちはたまるまい。

 その上で隊士たちも徐々に勝手を知り、よく戦えるようになってきた。

 しかしそれでも、病と偽る隊士たちも続出した。本当の病人もいたけど、中には、

「病名はなんです」

 僕が伺いを立てると

「つわりでござる」

「つわり……?」

 つわりって、あの……?

「つわりは女人がなるものではありませんか?」

「外夷が持ち込んだものと思われる。『ぼんつわーる』というものにござる」

 それはボンソワールでは……。

「フランスの方と会ったことがあるのですか?」

「ござらぬ」

「ないのに『ぼんつわーる』ですか?」

「江戸でコロリ(コレラ)が伝染した時も、すべての者が夷人に触れたわけではござらん。病というものは風に乗ってやってくるものでござる」

 ……なんというか、言い訳だけは免許皆伝な感じだ。

 大坂へ出張っている隊士も多く、結局、出動可能人数は三十名ほどと見積もられた。

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