攻略対象のふたり
こめかみにキスされた私は、呆然と。
乙女ゲームのヒロインにあるまじきガニ股で玄関に立ち尽くしていた。
こ、こここ、ここれが「乙女ゲーム」の世界。
甘い。ありえない。流石は砂糖と愛で出来た世界だ。
今までどうやって生きてきたんだ、ヒロイン!
って、ああ・・・。
「今までどうやって生きてきたか」の記憶が私にある・・・ーーーーーヒロインは私だ・・。
衝撃の事実に打ちのめされつつ、ヒールを脱ぐ。さっきから足痛い。
前世思い出した途端に靴擦れ起こすなんて、私ってかなり残念かもしれない。
目的地は、自分の部屋。
そこは思った通りのピンクを基調とした可愛らしい女の子の部屋だった。
ーーーーーーよし、状況を整理しようか。
前世を思い出した私、意外と冷静。
人間、許容範囲の事が起きるとこうなる。今の私がその例だ!
机の上にペンと紙を出す。
まずは、私の名前。
私の名前は、サツキ・ヒメミヤ。
この世界ーー乙女ゲームの主人公。
美しい黒髪と、美しい外見を持つ。
にもかかわらず、この世界で普通扱いなのが解せない・・・周囲にもブスだのミソッカスだの・・・・攻略対象に初めて会った時なんてブスって言われるしな・・・。
それを言ったのは、今さっきまで私を心配していたタカユキさんな訳だが。
・・・・・ハハハハハハハ。
タカユキ・シン、と紙に書く。
この世界のメインヒーロー。
ゲームパッケージの中心にも描かれているし。
その姿はいわずもがな。
この世に存在することをまず疑ってしまうような絶世の美男子。
そして、この世界の経済を牛耳っていると言われるシン財閥の御曹司。
そして・・・今までの対応からして。
彼ーーータカユキ・シンが、私ーーーヒロインに対して好意を持っている事は明白だ。
彼の名前と、私の名前を矢印で繋ぐ。
そして、次。
イオリ・ヒメミヤ。攻略対象のひとり。
ヒロインの弟で、超有名大学に通うーーーー乙女ゲームの世界では年下枠だった。
外見は・・・イケメン。
イケメンだね・・・美しいよ・・・・。さっき見た姿を思い出す。
少し癖っ毛のある、色素の薄い髪。そして白い肌。
ゲームの世界から現実世界になっても美しさは、変わらない。
攻略対象というからには、もちろんイオリと私は血の繋がった兄弟じゃない。
親の再婚で兄弟になった身だし。
そして恐ろしい事に、ヒロインはその事を知っていながらイオリの事は本当の弟だと思って接している・・・・・それは私の持つヒロインの記憶からもそうだし・・・・・今さっきのイオリの対応。
アレ、絶対に"姉"だと思っている人間に対するものじゃないでしょ。
普通、姉にそういう事出来る?
いや、出来ないでしょ。
極め付けは、「姉さんって呼んでって言わないんだね 」って・・・。
ヒロインの記憶が蘇る。
「イオリはいつまでたっても、私を姉さんって呼んでくれないよね・・・」
「俺、サツキを姉さんだと思った事は一度もないから」
「・・・・」
そうやって、ふたりで見つめあった記憶があるよ!
ヒロインなんとも思ってなかったけど、このセリフ、絶対そうゆう意味だよね!?
親の再婚で一度は兄弟になった身だけど、血は繋がってない実質他人の男にこう言われて、ヒロインなんとも思ってない!!
ただ「お姉さんって呼んでくれないって寂しいな、私は本当に今でもイオリの事かわいい弟だと思ってるのに・・・」っていう見当違いしてるよ、ここまでされて気付かないヒロイン。
イオリの名前から、私の名前に矢印。
そこで、信じたくなかった真実に直面する。
薄々分かってたけど、そうだよね・・・・!
これ緊急事態だよ、何てことしてくれてるんだ、ヒロイン!!
私は絶望を知った・・・・
その理由は、この乙女ゲームの世界観にある・・・