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短編から、連載にしてみました。
よろしくお願いします。
全てを塗り潰してしまいそうな黒に飲み込まれた世界。
けれども、この屋敷だけは隔絶された様に光を放っていた。
漏れ出た光だけで周囲の家が昼といかなくても、夕焼けとは勘違いするぐらいに。
この空間をギラギラと照らすのは、天井からぶら下げられたシャンデリア。
貴族のみが招待されたここでも、きっとこのシャンデリアより安い屋敷に住んでいる者もいるだろう。
そんな代物が何個も存在する事、それが屋敷の持ち主の財力を大きく示していた。
煌びやかな空間で、談笑する者達。
我こそが一番という様に自身を飾り付け、謙遜の仮面の裏でほくそ笑む。
そんな中でも一際目立つのは、白いタキシードを着た男。
目鼻がハッキリとした甘いマスクで、かっちりとセットされた見る者を惹きつけてしまう金髪。
彼がどこか落ち着かない雰囲気を出していても、溢れ出るオーラは感じ取れてしまうだろう。
そもそも平民ならともかく、貴族で知らない者はモグリではあるが。
彼の名は、シュタイン・ド・ルイス、このルイス王国の第一王子だ。
今日は彼の婚約記念パーティー。
だからこそ、彼は会場で唯一白いタキシードを着ることが許されているのだし、落ち着かない様子でもあった。
この会場を彩るのは豪勢な食事や、家宝級の美術品の数々だけではない。
優雅な音楽、それを奏でるのは『王都立楽団』のオーケストラ。
下手に呼んだら、多少力がある貴族家でも傾きかねないほどの額。
それをバックに談笑するという、贅の極みを参加者達は享受していた。
だけども、それはいきなりピタリと止む。
意図的に耳を傾けていた訳でなくとも、止まったならば気になってしまうのだろう。
談笑から変化したざわめきが、この会場を少しずつ侵食して行く。
「皆様大変長らくお待たせ致しました」
だけども、そのざわめきを割るのは司会を務める人間。
「シュタイン様の婚約者……ハーティア・ド・ラ・バタイユの入場です。
皆様、拍手のお出迎え下さいませ!」
そうして開かれるのは、人が縦に3人分並ぶほどの大きな扉。
万雷の拍手の中、彼女は現れた。
はらりとたなびくのは、腰のあたりまで伸ばされた白銀の髪。
目を合わせた者を芯から凍てつかせる様な瞳だが、その女神とさえ言えるほどの美貌を前にして諦める理由にはなり得ない。
だが彼女の着る水色のドレスには、雪の結晶と思わしき意匠が細かく施されている。
きっと彼女へ手を伸ばしたならば、あまりの冷たさに火傷してしまうかもしれない。
そう思わせるほど彼女の装飾は凝っており、現宰相家であるバタイユ家の財力も窺えた。
本来その格好からは浮いてしまいそうな黒光りするブーツも、彼女は履きこなす。
そうして会場中の視線を独り占めする彼女は、当然とばかりにゆっくりと歩を進めて行く。
そんな彼女の仕草を見て、つい男達は嫉妬の視線を向けてしまう。
女性に対してではなく、その向かう先で待つ男、シュタインに対して。
彼女に触れる事が出来る男は、この世界で……この空間で、たった1人だけなのだから。
「やっ…やあ、ハーティア!いつぶりだろうか?
会えて嬉しいよ!!」
「ええ、私もですよシュタイン様。
最後にお会いしたのは、卒業記念パーティーの日でしたか?」
「あはは……そうだったかな…」
顔を合わせた2人は、挨拶しながら静かに笑い合う。
彼は冷や汗を垂らしながら、彼女は口元を扇子で隠しながら、対照的とも言える反応を漏らす。
「私は感謝しているのですよ?」
「感……謝?」
「傲慢だった当時の私が、自身を見つめ直す機会を手に入れる事が出来たのですから」
彼女が感謝といっても、彼にとっては全く心当たりは無いのだろう。
動揺している彼に向かって、彼女は口元を隠さない笑顔を向ける。
「あれから、貴方の事を考えない日はありませんでしたわ。
どうしたら再び婚約出来るのかと……」
「ハーティア……」
心の底から悲しそうな声を溢す彼女。
それを聞いて彼の疑念は氷解したのだろう、同調するよう静かに名前を呼ぶ。
「夢は、叶いましたわ!」
「…っ、ハーティアッッ!!」
氷の様に表情を凍てつかせた彼女の顔、それが笑顔で綻んだ。
それを見て感極まったのだろうか。目の前の彼女を抱きしめようと駆け出した男。
だが……その体は、鈍い音と共に崩れ落ちる。
振り切られたのは彼女のドレスから覗く右足、彼が床へ倒れこみながら押さえるのは足の脛。
状況からして、彼女がした行為は明白だろう。
そして近くにいた者達は同時に聞いた、明らかに布製では説明できないその鈍い音を。
その中身は……パーティーに似つかわしくない、鉄板入りのブーツだった。
そんな彼女は、倒れ込んだ彼を一瞥すると視線を自身の手へと落とす。
そして右手の指に嵌められた銀色のリングをゆっくりと抜き取り、
カランッ……ガンッッッ!!
床に落とされたそれは勢いよく踏みつけられた。
念入りにそれはグリグリと踏み躙られる。
平民が一生かかっても買えない、王族の……しかも第一王子が用意した婚約指輪。
それは一瞬で傷つき、汚れ、価値を無くす。
「何……を?」
まだ状況を飲み込めていないシュタイン。
そんな彼を見下しながら、彼女は足元を更に踏み躙る。
「この行為が意味するのは、一つしかないでしょう。
貴方もきっと心の奥底では分かっているはずですわ」
「貴方が……先にやったのでしょう?」
その言葉を聞き遂げた途端、理解したのだろうか。
倒れるかと思うほどに青ざめる彼。
正反対に、彼女は高揚感からか頬を紅潮させている。
「私、ハーティア・ド・ラ・バタイユは、シュタイン・ド・ルイスとの婚約破棄を宣言するッッッ!!……こんな感じでしたっけ?」
平日(祝日も含む)の18時に、予約更新予定!
(ストックは2章終了の22話分まで作成済み)




