9話【封印の揺らぎ】
花びらが、光を帯びて舞う
この空間だけ、季節が違うみたいだった
だが…
目の前のそれは止まらない
歪んだ屍人は、ゆっくりと首を傾ける
音もなく
気配だけが、重くなる
「気味が悪ぃな……!」
踏み込む
一瞬で間合いを詰め、横一閃
だが…
手応えが、浅い
「……ッ!?」
斬ったはずの胴が、ズレて戻る
まるで水を斬ったみたいに
「実体が安定してない……!」
楓が低く呟く
「紬!封印が崩れかけてる!」
「……わかってる」
紬は一歩前に出る
その表情は、さっきまでの柔らかさとは違った
巫女としての顔
「蒼真!核を狙って!」
「核?」
「胸の奥よ!そこだけ濁りが濃い!」
目を凝らす
確かに…
黒い靄の中、中心だけが脈打っている
「……見えた」
次の瞬間
屍人が消える
いや…速い
視界から消えたと思った瞬間
横から衝撃
「ぐっ……!」
咄嗟に刀で受ける
だが、押し切られる
床を滑る
「蒼真!」
楓が間に入り、蹴りで距離を取らせる
軽やかだが鋭い動き
「スピードもおかしい……!」
「面倒なのが出てきたな」
口の端を上げる
久しぶりに、戦いの感覚が戻ってきていた
再び踏み込む
今度はフェイントを入れる
右へ動くと見せて…左
屍人の動きが、わずかに遅れる
「そこだ!」
一気に間合いに入る
振り下ろす…
だが、腕が止まる
「……ッ!」
視界が、歪む
一瞬だけ…
妹の顔が重なった
あの日の
あの瞬間の
「……邪魔すんなよ」
低く吐き捨てる
迷いを、叩き切る
踏み込む足に力を込める
今度は、迷わない
一直線に、核へ
「終わりだ!」
斬撃が、黒を裂く
今度は違う
確かな手応え
ズンッ…
重い音が響く
屍人の動きが、止まる
ゆっくりと、身体が崩れていく
黒い靄が、空気に溶けるように消えていく
静寂
花びらだけが、舞っている
「……はぁ……」
楓が小さく息を吐く
「最初からこれって……冗談でしょ」
「歓迎にしちゃ、趣味が悪いな」
紬は、その場に立ったまま動かなかった
じっと、消えていく黒を見つめている
「……紬?」
声をかける
紬は、ゆっくりとこちらを見る
「今の……おかしい」
「……ええ。明らかに外の屍人とは違う」
「違う……それだけじゃない」
紬の声が、少しだけ震える
「この気配……知ってる」
「……?」
「知ってるって……どういうことよ」
紬は、言葉を詰まらせる
そして、小さく呟いた
「……まさか」
その瞬間…
ゾワッ
背筋を撫でるような気配
冷たい
生き物のそれじゃない
もっと、深い場所から這い上がってくるようなもの
「……なんだ、今の」
「……感じた?」
「ああ」
「最悪ね……」
楓の声が低くなる
「これ、一体じゃない」
奥の闇が、ゆらりと揺れる
何かがいる
だが…姿は見えない
気配だけが、確かにそこにある
「……下がって」
紬が静かに言う
その声は、今までで一番強かった
「ここは……長くいちゃいけない」
「どういうことだ」
「さっきのは」
「漏れてるだけ」
「……は?」
「つまり…本体は、もっと奥にあるってことよ」
沈黙
理解した瞬間、空気が一段重くなる
「……面倒だな」
「面倒で済めばいいけどね」
その時
再び
ドクン
奥の闇が、大きく脈打つ
さっきよりも、明らかに強い
「……まずい」
紬の顔色が変わる
「封印が……揺れてる」
「ここで崩れたら…砦まで一気に来るわよ!」
その言葉に、空気が張り詰める
「じゃあ、どうする」
「一度、戻る」
「は?」
「正気?ここで引いたら…」
「今のままじゃ無理」
はっきりと言い切る
「今の私じゃ、封じきれない」
悔しさが、滲んでいた
だがその判断は冷静だった
「……なら、強くなればいい」
「簡単に言うわね」
「簡単じゃない」
「でも、やるしかないだろ」
短い沈黙。
「……うん」
紬は小さく頷く
「準備が必要。それに…」
少しだけ、視線を落とす
「確かめたいことがある」
「……何をだ」
「今の気配」
「どこか……似てた」
その言葉に、わずかな違和感が残る
「……嫌な予感しかしないわね」
その時
奥の闇から…
かすかな笑い声のようなものが漏れた
ほんの一瞬
風に紛れるくらいの小さな音
「……今の、聞こえたか」
「……ええ」
「……」
紬は何も言わない
ただ、強く拳を握っていた
「戻ろう」
三人は、ゆっくりと後退する
背を向けないように
闇から目を離さないまま
障子の前まで戻り
外の光が差し込む
その瞬間
さっきまでの重い空気が、嘘みたいに消えた
「……なんなんだよ、ここは」
「だから言ったでしょ。普通じゃないって」
紬は、障子を静かに閉める
その手が、わずかに震えていた
「ごめんね」
「……何がだ」
「巻き込んでる」
その言葉に、俺は少しだけ間を置く
「最初から、そのつもりだろ。今さらだ」
紬は、少しだけ目を見開いて…
そして、小さく笑った
「……ありがとう」
廊下に戻る
さっきまでの静けさが、逆に不気味だった
だが…
あの奥にある何かは、確実に動いている
そしてまだ
その正体には、誰も辿り着いていない
ただ一つ確かなのは…
あれは、まだ始まりにすぎないということだった
本日も読んでいただきありがとうございます♪
今回は1番のピンチでしたね
これからどのような戦いになっていくかお楽しみに
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