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聖女はすべてを救えない  作者: 右京寺
第3章

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街の様子

馬車から眺める街の景色は、以前ここに来た時に感じた張り詰めた空気感が、少しだけ和らいでいるように見えた。春の訪れのせいだけではなく、街全体がどこか「健やかさ」を取り戻しているような、穏やかな活気が漂っている。

外を眺めているシェラに気づき、ユーリが静かに声をかけた。


「……シェラ、少し街を歩いてみないか?毎日忙しいのだから、たまには息抜きも必要だ」


「いいのですか?ありがとうございます、ユーリ様」


馬車を降りて、私たちはゆっくりと散策を始めた。

賑わう通りを歩いていると、ふと、可愛らしい雑貨が並んでいるお店が目に留まり、導かれるように中へ入る。

店主は、突然現れた領主館の癒し手――つまり私達の姿に一瞬驚き、固まったが、すぐに丁寧な腰の低さで迎えてくれた。


「いらっしゃいませ、シェラ様! ユーリ様も! 何かお探しでしょうか?」


店内には素朴ながらも温かみのあるアクセサリーや雑貨が並ぶ。その棚の一角に、私が見慣れた、けれど愛おしい「石鹸」が大切に並べられているのを見つけ、思わず顔が綻んだ。


「石鹸、置いてくださっているんですね」


私の言葉に、店主は深く、深く頷いた。


「ええ、もちろんですとも。この石鹸というものが広まったおかげで、この冬は子供や老人が亡くなることが少なかったんです。ここだけの話じゃありません。出入りの商人に聞けば、離れた村の方でも病がだいぶ減ったそうですよ。すべては領主様のおかげです」


「……そんなに。よかったです、本当に」


その言葉を聞いて、私はとても嬉しくなった。

私の知識が、領民や領地の為になっていると直接肌で感じられたからだ。


「閣下にも、店主さんのお言葉をしっかり伝えておきますね」


「ぜひ、よろしくお願いいたします!」


店主の話では、この石鹸を目当てにやってくる商人も多く、すでに他の領へも販売され、国全体に広まりつつあるとのこと。


「聞いた話によると、ミルクが使われた保湿力の高い石鹸や香りがついた石鹸が貴族の奥方やお嬢様達に人気らしいです」


(……貴族にも広まってきているのか。嬉しいけれど、供給が追いつかなくなるかもしれない。製造効率を上げる方法を、また考えないと)


ついつい今後の生産に関して考え込んでしまう。


「シェラ、そろそろ戻ろう。あまり遅くなると、皆んなが心配する」


ユーリの声に促され、私は「そうですね」と笑って答える。


散策を終え、街の活気に元気を分けてもらった私は、迎えの馬車の前で足を止めた。


「今日は本当にありがとうございました、ユーリ様。いい息抜きになりました」


「いや、喜んでいるようでなにより。……ああ、そうだ。シェラ、これを」


ユーリが懐から小さな紙包みを取り出し、私の手の中にそっと忍ばせました。受け取ると、甘くて香ばしいバターの香りがふわりと鼻をくすぐります。


「これは……?」


「甘いお菓子だ、こっそり買ってきた。広場のお店なんだが、ここの焼き菓子は絶品だと、街の者たちの間でも評判なんだ」


彼は口元に指を当て、悪戯っぽく微笑んだ。


「ただし、閣下には内緒だぞ? ……あの方は、自分がいない間にシェラが私と楽しそうに買い食いをしたなんて知ったら、しばらくの間、私への仕事の割り振りが三倍くらいに増えそうだから」


「三倍! それは……困りますね」


思わず吹き出してしまうと、ユーリも声を立てずに笑いました。


「夕食に響かない程度に食べてくれ、さあ、戻ろう」


ユーリにもらったお菓子を大事に抱え、馬車で帰路を急いだ。私の胸の中には、街で見つけた石鹸の泡のように、温かくてふわふわとした幸福感が広がった。



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