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聖女はすべてを救えない  作者: 右京寺
第2章

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死闘の果て

どうにか手元の負傷者たちの処置を終え、運び込まれてくる騎士の数がようやく落ち着きを見せた、その時。


 ――オオオォォォォォォン!!


鼓膜を震わせるような、一際巨大な魔獣の咆哮。

同時に、前線の方角の空に天を衝くような巨大な氷柱が幾本も突き立ち、森の木々を飲み込みながら、周囲の温度を一気に奪い去っていくのが見えた。


「……ッ、あれは閣下の!? だが、これほど広範囲に……無理だ、反動に耐えきれん!」


隣でユーリ様が、顔を青くして叫んだ。

その言葉を聞いた瞬間、私の脳裏に最悪の状況が浮かぶ。


(行かなければ)


理屈ではなかった。

今、指示を出す立場の私がこの場所を離れることは許されない。それでも、行かなければ「間に合わない」と、私の看護師としての本能が警鐘を鳴らしていた。


「申し訳ありません! ユーリ様、ここをお願いします。私……前線へ行きます!」


「待て! シェラ! お前が一人でなんて――」


背後でユーリ様が伸ばした手は、私の背を掠めただけだった。私は返事もせず、応急処置のセットを抱え直して森の中へと駆け出した。


冷気が、肌を刺すように鋭くなっていく。

倒れた木々を飛び越え、凍りついた下草に足を取られそうになりながら、私はひたすら光の柱を目指す。

やがて、目の前の視野が不自然なほどに広く開け――。

そこに広がる光景に、私は、愕然と立ち尽くした。


一帯は、静寂に支配された白銀の世界。


巨大な山のようだった魔獣は、全身を氷の棘で貫かれ、咆哮を上げた姿のまま、物言わぬ氷像と化していた。

けれど、その足元。

静まり返った雪原の上に、ぽつりと純白の雪を真紅に染めながら横たわっている騎士がいる。


「……、……閣下……?」


喉の奥で、掠れた声が漏れた。


私は弾かれたように走り出した。

凍てついた雪に足を取られ、何度ももつれて転ぶ。膝や手のひらが悲鳴を上げても、構わず立ち上がり、ただひたすらに前へ、前へと走った。


「閣下! アルベルト閣下!」


少し離れたところから、ヴォルクス様や騎士たちの切羽詰まった叫びが聞こえてくる。


ようやくアルベルト閣下の元に辿り着いた時、私の白衣は泥と雪に汚れ、全身擦り傷だらけになっていた。けれど、目の前の光景を目にした瞬間、そんな痛みはすべて吹き飛んだ。


アルベルト閣下の体——その右肩から先が、無残にも失われていた。


「誰か! アルベルト閣下の腕、右腕を探して! あと誰でもいいから、早くユーリ様を連れてきて! 早く!!」


私の叫びに、後ろから追いついてきた騎士たちに激しい動揺が走ります。


「早く行け!」というヴォルクス様の鋭い命令が飛び、騎士たちが弾かれたように散っていきました。


「閣下! アルベルト閣下! 聞こえますか!」


必死に声をかけ、意識を確認するが、反応はない。

頸動脈を確認、脈拍はゆっくりだがまだ動いている。呼吸は浅く、弱い。


(早くしなければ……!)


私はアルベルト閣下の全身を素早く視る。

致命傷と言えるのは、間違いなく右腕の欠損部。けれど、皮肉にもこの異常なまでの氷点下が、切断部の血管を収縮させ、軽い止血状態を作り出していた。

そして、彼の顔を見た時、私は息を呑んだ。

顔面の左側に走る、あまりにも深い傷。


(これは……完全に眼球、視神経のあたりまで、目の修復は……)


現代医学の知識が、私の脳内で「再生不能」の文字を無機質に弾き出します。


そこへ、一人の騎士が駆け寄ってきた。


「閣下の腕です!ありました!」


泥と雪にまみれた「腕」を受け取り、持って来た水で軽く洗浄する。

私はそれを本来あるべき位置へと並べた。


駆けつけたヴォルクス様が、青ざめた顔で私に問いかける。


「もうすぐユーリ様が到着する。シェラ、それは……」


「まだ腕はいけます。幸いこの氷点下で壊死は始まっていない。まず腕の再接合を優先します。顔面はその後です」


「……いけるのか、本当に」


「できる限り、やります」


私は短く答え、全神経を指先と、彼の切断面に集中させた。


ここからが、時間との勝負。


佳境に差し掛かって来ましたね。


よろしければ、お手隙の際にリアクションや評価をぽちっとよろしくお願いいたします。

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