森の異変
翌朝、まだ周囲が白み始めたばかりの時間。私は負傷者たちの容態確認のため、救護所へ向かっていた。すると、途中で深刻な顔をしたヴォルクス様に呼び止められた。
「シェラ、起こしにいくところだったんだ。…閣下が至急相談したいことがあるそうだ」
案内されたアルベルト閣下の天幕に入ると、そこにはすでにユーリも控えており、重苦しい空気が漂ってた。
「おはようございます、閣下。ユーリ様もおはようございます」
私が挨拶を済ませると、アルベルト閣下は椅子から立ち上がり、地図を指差しながら本題に入った。
「早朝からすまない。……昨日現れたあの大型個体だが、おそらく一年前の活性化の際、我々が取り逃した個体だ。あれが短期間で異常な成長を遂げたと考えるのが妥当だろう」
一年前の個体が、たった一年でこれほどの巨体になる――。その事実に、ユーリも険しい表情を崩さない。
「本来、魔獣がこれほど急速に成長することは近年例を見ない。森の深部で何らかの異常が起きている可能性があるが、今はそれを突き止める余裕はない。あの個体を討伐するに手一杯だ。困難を極めるだろう。……正直に言えば、死者が出る可能性も極めて高い」
アルベルト閣下は一度言葉を切ると、射抜くような強い視線を私に向けました。
「救護部隊として、全力を尽くしてくれ。一人でも多くの命を繋ぎ止めるのが、今回の勝機に繋がる」
その言葉には、部下たちの命を預かる指揮官としての苦渋と、私への確かな信頼が込められている。私は背筋を伸ばし、迷いのない声で答えた。
「承知いたしました。万全を尽くします」
私の答えを聞き、閣下はわずかに口角を上げた。
重苦しい雲が低く立ち込め、森の木々がざわめく中、騎士団は決戦の地へと進軍を開始した。
馬上で背を向け、軍を率いるアルベルトの後ろ姿を見送りながら、私は言いようのない不安――ざらりとした胸騒ぎを覚えていた。
(……大丈夫。閣下は強い。騎士団の皆だって、昨日の手当で士気は高いはず……)
そう自分に言い聞かせ、私はあえて忙しなく手を動かした。浄水の準備、大量の清潔な布、応急処置のセットと次々と準備していく。
しかし、その静寂は長くは続かなかった。
「……ッ、救護部隊! 救護部隊!!癒しを!早く!」
森の奥から響いたのは、悲鳴に近い叫び声でした。
私の予想を遥かに上回る早さで、最初の負傷者が運び込まれてくる。それも、昨日までのものとは比較にならないほど、傷が多く深い。
「こちらへ! 早く、そこへ寝かせて!」
駆け寄った私の視界に入ったのは、鎧ごと深く抉られ、多量に出血している騎士の姿だった。それを皮切りに、次々と騎士たちが運び込まれてくる。担架が足りず、仲間に肩を貸されながら引きずられるようにやってくる者も後を絶たない。
(――多い! 想定以上の負傷率……前線で何が起きているの!?)
一瞬、目の前が暗くなるような焦燥感に襲われたが、私は即座にそれを心の奥底へ押し込めた。今の私が揺らげば、この場所は瓦解する。
「ユーリ様! この方の止血をお願いします、大動脈は外れていますがこのままだとショック状態になります! ハインリヒさん、ルシアンさんはこちらの開放骨折の処置を! 汚染を洗浄してから癒しをかけて!」
私は声を張り上げ、戦場と化した救護所を支配するように指示を飛ばしました。
「混乱しないで! 傷の深い順に診ていくわ。歩ける人は後回し! 命を繋ぐことを最優先にして!」
血の匂いと泥の混じった熱気が幕舎に充満していきます。
私は一人、また一人と騎士たちの状態を視て、優先順位をつけていく。けれど、奥から運ばれてくる騎士たちの負傷部位を見るたび、私の胸騒ぎは確信に近い恐怖へと変わっていった。
(……この傷の角度、この破壊力。……前線はどうなっているの!?)
次、戦闘シーンを描く予定なのですが、まったく自信がありません…。
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