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聖女はすべてを救えない  作者: 右京寺
第2章

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22/26

優先順位

救護所の前まで来ると、カシムは私の数歩後ろでぴたりと足を止め、深々と一礼した。


「それでは私は、朝の訓練に行って参ります。訓練が終わり次第、再びおそばへ馳せ参じます」


そう言って、彼は朝の光を弾きながら颯爽と去っていった。私はその背中を見送りながら、深いため息を一つついて、救護所の扉を開けた。

中には、すでにユーリ様、ハインリヒ、ルシアンの三人が揃っていた。


「おはようございます。皆様、お早いですね」


挨拶を済ませ、私はすぐに今日の予定と、先ほどアルベルト閣下から告げられた件を共有した。


「近々、大規模な魔物討伐が行われます。救護部隊にとっては、これが初めての実戦になります。……そこで、戦闘下における負傷者の優先順位トリアージについて説明します」


私は机の上に、赤、黄、緑、黒の四色の布切れを並べた。


「負傷者をその場で四つの群に分けます。

まず『赤』、これは今すぐ処置しなければ命に関わる最優先郡。次に『黄』、重傷ではあるけれど、数時間は待機が可能な群。『緑』は歩行可能で、簡易的な処置で済む軽傷群。そして……『黒』は、すでに絶命しているか、今の我々の力では救命が不可能な群です」


「教会で行っていたものだな」


ユーリは顎に手を当て頷く。


「……救わない、選択をするということですか?」


ルシアンが震える声で尋ねた。私は前世で何度も直面したその痛みを胸に、冷徹なまでに頷いた。


「そうです。全員を救おうとして全滅させるのは、本末転倒。私たちが『黒』に割く時間を、救える可能性のある『赤』に回す。それが戦場での非情かつ唯一の正解です。判断はすべて、責任を持って私が下します」


三人の癒し手が、息を呑んで私を見つめている。その重圧を背負うのが、隊長である私の仕事。


「君だけで背負う必要はない。ここにいる私たちも背負うべきものだ」


ユーリが沈黙を破り、シェラの肩に手を置く。

私は少しだけ軽くなった気がした。


「ユーリ様、ありがとうございます。限られた時間と魔力で、一人でも多くの命を繋ぐための判断です。基本的な役割分担は重症者の処置は私とユーリ様、中等症はハインリヒさん、軽傷者はルシアンさんにお願いします。手が空いている時は他を手伝うという形です」


前世の災害現場や救急外来で叩き込まれた概念。それを、魔法が存在するこの世界に当てはめて最適化していく。


「必要な物資の搬送や補助は、後方支援の騎士たちに各自で指示を出してください。現場で判断に迷うことがあれば、すぐにユーリ様か私に声をかける。……この形でいきたいと思います」


三人の表情が引き締まる。私はさらに続けた。


「本来なら癒し手も前線に随行するのでしょうが、今回は前線の少し後方に『野戦救護所』を設置し、そこで待機する形を提案します。負傷者を運ばせる方が、魔法の精度も安定します。もし動けない重症者がいる場合のみ、そこから癒し手を派遣する……。ユーリ様、いかがでしょうか?」


私の問いかけに、ユーリは少し考える仕草をした。


「……面白いな。閣下の許可を仰ぐ必要はあるけれど、一箇所に集約するなら、君の言う通り魔力の無駄も省けるし、より多くの騎士を救えるかもしれない」


ユーリ様は納得したように微笑んだが、その瞳には戦場を前にした癒し手としての鋭い光が宿っていた。


「……では、その方針で救護計画書を作成し、私から閣下に提出してきます」


私がそう言って筆を執ろうとした瞬間、ユーリ様が「おっと」と制するように慌てて手を伸ばしてきました。


「いや、シェラ。今回は計画書は私が書くよ」


「えっ? ユーリ様にお手間をかけさせるわけには……」


「いいから、私に任せなさい」


ユーリ様は苦笑しながら、諭すように首を振ります。


「君は昨日、閣下にこっぴどく叱られたばかりだ。そんなタイミングで、また君が1人で計画書を直接持っていったら、閣下の胃に穴が空いてしまう。ここは私を通した方が、話がスムーズに進むと思うぞ」


昨日の今日で、また「効率」を重視した破天荒な提案を突きつければ、アルベルト閣下がどんな顔をするか。……想像して、私は思わず「あ……」と声を漏らした。


「……確かに、そうかもしれません。閣下の血圧をこれ以上上げるのは、本意ではありません。でも、計画書を持っていくときには一緒に行きますので」


「はは、わかった」


ユーリは苦笑を漏らし、計画書に取り掛かった。




またも計画書を作成しようとして、ユーリに止められたシェラでした。


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