邂逅
翌朝、仕事へ向かうために身支度を整えていると、控えめながらも力強いノックが扉に響いた。
「どうぞ」
入室を促すと、そこに現れたのは訓練場で見覚えのある騎士だった。何か用か、と問いかける前に、彼は私の目の前で流れるような所作で跪いた。
「——閣下より、おそばに侍ることを許されました。カシム・エル・ドラクロワ、今日よりお仕えいたします。よろしくお願いいたします」
あまりの衝撃に、私の思考は一瞬でフリーズした。
「……カシム、ド、ドラクロワ様…? えーっと、『侍る』とはどういうことでしょうか。護衛騎士……ということですか? あなたのような精鋭が?」
混乱しながら問うと、少しだけ残念そうに目を伏せた。
「カシムで構いません。いえ、正式な護衛騎士の任命は、戦力的な観点から叶いませんでした。ゆえに、私は閣下にに剣を捧げる許可を閣下に求めたのです。訓練や任務以外であれば好きにしてよいとお許しをいただきました」
カシムは一転して、今にも光が零れ落ちそうなほど嬉しそうに微笑んだ。
私は目眩を覚えた。「意味がわからない」と呟くのが精一杯のまま、彼を連れてアルベルトの執務室へと向かった。
執務室のドアを、いつもより強めに叩く。本来なら非礼を詫びるべきだが、今の私にはそんな余裕はなかった。
「閣下、カシムさんは一体どういうことでしょう! 騎士団の精鋭と聞いています。そのような方を私につける許可を出したとは、どういうつもりですか?」
詰め寄る私に対し、アルベルトは面倒そうに書類から目を上げ、溜息をついた。
「……剣を捧げさせるかどうかは、お前の自由だ。あいつがお前に仕えたいと聞きかず、訓練や任務以外の時間は好きにしろと許可を出した。拒否したところで、あの男が何をしでかすか分からんからな」
「必要ありません!」
私はアルベルトと、後ろに控えるカシムにはっきりと告げた。だが、アルベルトは鋭い眼差しで私を見据え、言葉を重ねた。
「シェラ。カシムに許可を出したのは、お前を『見張る』ためでもある」
「……見張る?」
「昨日のような無茶を、俺たちの見ていないところでさせないためだ。お前を崇拝しているカシムをつけることで、その暴走を抑制しようと思った。……昨日のお前は、全く反省していないような顔をしていたからな」
アルベルトの言葉に、私は言葉を失った。
昨日の「実演」が、これほどまでの事態を引き起こすとは。内心で驚きつつも、主君のあまりに正論な「過保護」に、何も言い返せなくなってしまう。
「……わかりました。では、カシムさん…よろしくお願いします」
私が折れると、カシムは顔を輝かせた。
「ですが、剣を捧げる件については少し待ってください。もう少し……心の準備をさせてください」
そう付け加えると、カシムは目に見えてしゅんと肩を落とし、大型犬が耳を垂らしたような様子になったが、ひとまずの合意は得られたようだった。
場の空気が少し落ち着いたところで、アルベルトが一通の手紙を差し出した。
「村のレラからだ」
「レラから……! ありがとうございます」
懐かしい親友の名前。私はそれを受け取り、大切に鞄にしまった。
しかし、次にアルベルトから告げられたのは、戦場への招集だった。
「シェラ。近く、大型の魔物討伐が行われる。我が騎士団の総力を挙げての出陣だ。貴様も救護部隊長として、万全の準備をしておけ」
その言葉に、私は一瞬で癒し手顔に戻った。
魔物討伐——つまり、多発する負傷者。救護部隊にとって、これが初めての「実戦」になる。
「……かしこまりました。万全を期して臨みます」
私は深く一礼し、気を引き締めて執務室を出た。
後ろに従うカシムの足音を聞きながら、仕事場への廊下を急いだ。
本当はカシムの登場をもう少し早くしようと思っていたのですが、ここになってしまいました。
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