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聖女はすべてを救えない  作者: 右京寺
第2章

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救護・治癒部隊

一度ミスで消してしまいました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

「……というわけで、シェラ。貴様を本日付で、新設する領主兼騎士団長直属『救護・治癒部隊』の隊長に任命する」


アルベルトは机の上に置かれた一通の辞令を指先で叩いた。

私はその辞令に驚きを隠せない。

あまりにも破格の権限、この地の命運を左右する要職だ。


「……閣下。大役は光栄ですが、隊長にはユーリ様が就くのが妥当ではありませんか? すでに皆さんの信頼もあります。私はあくまでその補佐、助言役として動く方が、周囲の反発も少ないかと」


 シェラが視線を向けると、壁際で控えていたユーリが、眼鏡の奥の瞳を悪戯っぽく細めて首を振った。


「いいや、シェラ。私は指導補助兼、一隊員として君に仕えるつもりだ。私も君から指導を受けるのだから」


「ユーリ様まで……」


「ユーリの言う通りだ。信頼を持つ者が組織を率いる長であることも重要だが、この『改革』には、シェラ、お前が先頭に立つことが重要なのだ」 


アルベルトの断固とした言葉に、シェラは覚悟を決めて頷いた。


「……承知いたしました。」


「……よし。では、貴様が率いることになる隊員を紹介しよう。……入れ」


アルベルトの合図で、二人の癒し手が室内に足を踏み入れた。

三十代半ばの、叩き上げらしい厳格な表情の男と、二十歳そこそこの、まだどこか自信なげな青年。二人は部屋の中央で膝を突いたが、顔を上げた瞬間に絶句した。


「……閣下。失礼ながら、紹介される『隊長』とは、この……お嬢さんのことでしょうか?」


年長の癒し手が、困惑を隠しきれずに問いかける。主君の言葉を疑う無礼を承知で、彼は言葉を絞り出した。


「癒し手は、我ら騎士団の命を繋ぐ要……。いくらなんでも、これほどの子供を長に据えるなど、我々も、戦場の兵たちも納得いたしません」


静まり返る執務室。その空気を切り裂いたのは、アルベルトの低く、地を這うような声だった。


「――貴様らは、一年前のあの日、俺が重傷でこの館に担ぎ込まれたのを忘れたのか」


二人の癒し手がびくりと肩を揺らす。


「森の中で俺の命の灯火が消えようとしていたあの時……。絶望の淵にいた俺の心臓を叩き起こし、その手で命を繋ぎ止めたのが誰か、まだ理解していないようだな」


アルベルトはシェラの肩に手を置き、二人を射貫くように見据えた。


「このシェラこそが、俺を死の淵から引きずり戻した。これ以上の実績が、この領地に必要か?」


二人の癒し手は、弾かれたようにシェラを見つめ直した。

一年前の「奇跡の生還」の噂は、当然彼らの耳にも届いていた。まさか、あの時の救世主がこの少女だったとは――。


「……め、滅相もございません。あの時の御方でしたか……」


「し、失礼いたしました。……閣下がそう仰るなら、異存はございません。シェラ隊長」


先ほどまでの侮りは消え、二人は畏怖の混じった表情で深く頭を下げた。実力至上主義のこの地において、領主を救ったという事実は、何よりも重い。


「……では閣下。隊長としての最初の指示です。今すぐ仕事は置いて、三時間は仮眠を取ってください」


この重苦しい空気の中、シェラが平然と放った一言に、アルベルトの動きが止まる。

 

「……何を言う。まだ仕事は山積みだ」


「閣下。……寝なさい。これは隊長としての指示です。」


妥協を許さないスカイブルーの瞳に射抜かれ、アルベルトは毒気を抜かれたように固まった。

 

「くっ……、ははは! 傑作だ!」


堪えきれずにユーリが声を上げて笑い出す。ヴォルクスも口元を震わせ、先ほどまで震えていた隊員たちまでもが、呆気に取られた後、思わず吹き出していた。


「……お前。覚えていろよ」


アルベルトは文句を言いながらも、どこか晴れやかな顔で椅子に体を預けた。



アルベルトを仮眠室に押し込んだ後、私はユーリとヴォルクスの案内に従い、館の中の説明を受けた。

機能的で無駄のない造りに感心しつつ、案内されたのは――私の身分にはあまりに不相応な、豪華な客室だった。


「身の回りのお世話は自分でできますので、侍女の方は結構です」


とお礼と共に断り、二人を送り出す。


重い扉が閉まり、ようやく一人になった。

私はふかふかのベッドに倒れ込み、天井を見つめる。


「救護部隊長、か……」


明日からは、あの癒し手たちや騎士たちに衛生概念とトリアージを叩き込まなければならない。

やるべきことは山積みだ。けれど、窓の外に広がる冷涼な空気は、不思議と私のやる気を研ぎ澄ませてくれる。


「……できることをやるだけ」


明日からの仕事を考えながら、私は深い眠りへと落ちていった。

休息は大事ですbyシェラ



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