第12話 帰り……というか、ミラー子爵家のタウンハウスに向かう馬車の中
帰り……というか、ミラー子爵家のタウンハウスに向かう馬車の中、私はまずルーク様にお礼を言った。
「ありがとうございます、ルーク様。おかげでプリザーブドフラワー、マダムのお店で継続販売です」
収入の目途が立った。レシュマ先生に教えてもらった保存花の技術も無駄にはならなかった。
これは本当にありがたい。
マダムのお店にプリザーブドフラワーを卸しつつ、私はもっと自然な感じの花ができるように、改良していこう。
心からのお礼を言ったのに、ルーク様はきょとんとした顔。
「自分は何もしていませんが……。さっきも言った通り、思い付きをちょっと実演してみせただけで」
「でも、ルーク様がハンカチと花と懐中時計を組み合わせてくれなかったら、プリザーブドフラワーは売れない、使えない花だって思ってしまったかも……」
私はルーク様に本当にお世話になっている。
今日のプリザーブドフラワーだけではない。レシュマ先生が連絡してくださったとはいえ、ランディア王国に来てすぐ、案内をしてくれて、タウンハウスでお世話になって、マダムのお店に連れてきてくださって。
やって来たばかりの国で、とんとん拍子で物事がうまくいっているのはきっとルーク様のおかげ。
なのに、ルーク様は何にもしていませんよって言う。
謙虚な性格なのかなあ。
それともノーブレスオブリージュ?
紳士たるもの困っている相手を助けるのは当然で、助けた後は助けたことなど恩に着せずに忘れるタイプ?
見返りを求めずに他者や社会のために善い行いを積み重ねる修行でもしているのかしら……って、さすがにそれはないか。聖職者じゃないしねえ……。いや、聖職者のほうが、がめつくお布施を奪っていくことも……。うーん。
……ええと、このままだと、私、ルーク様にお世話になりっぱなしで恩だけが積み重なっていく。
商人の基本はギブ・アンド・テイク! 一方的に利益を享受するのは何て言うか、座りが悪いと言うか! 受けた恩の分くらいは、お返ししていかないと!
何かできないかな。
恩を返せないかな。
私にできることは何だろう……。
思いつかないので素直に聞いてみた。
「では、今度の夜会でのパートナーをお願いします」
ええと……、それは元々引き受ける予定だったし。お礼にならないような……。
しかも、「こちらがお願いしてパートナーになっていただくのですから」なんて、言って、ルーク様は私に夜会用のドレスとか靴とか装飾品とかまで用意してくださった。
あ、あああああ!
恩ばかりが積み上がっていく!
せ、せめて、ルーク様のパートナーとして恥ずかしくないように!
私はプリザーブドフラワーの改良を進めるのに並行して、ランディア王国のマナーや常識、それからダンスなどを学ぶことにした。
何せ、私はルブルクセン王国の商人育ちだ。貴族相手の商売をしてきたから、貴族のマナーもある程度は身についてはいる。
見よう見まねなところもあるし、何よりルブルクセン王国とランディア王国では常識に違いはあるはずだ。
基本的な言葉や文法は同じでも、使っている単語には差がある。
完全に文化も言語も異なる異国ではないにしろ、多少の違いがあるからこそ、その違いをきちんと学ばないと。
……その学びにもルーク様のお手を煩わしてしまっているんだけど。
ルーク様が貴族学園に通っていたときに使用した教科書やノートの類をお借りした。
きっちりと書かれたノート。几帳面っぽい感じなのに、時折ノートの隅に落書きがある。ふふふ。
お借りした教科書とノートに書かれている内容は、ほとんど理解はできた。うん、やっぱりルブルクセン王国とランディア王国であんまり違いはない……と言うか、寧ろ、ルブルクセン王国の方が上下関係とか、いろいろ厳しいかな。ランディア王国の方がやや鷹揚な気がする。
違いが大きかったのは、常識のほうではなくて、ダンスのほう。
私も、ルブルクセン王国ではマイケル様という婚約者が居たので、夜会やパーティ、貴族を交えた商談の場なんかには何度も出た。
マイケル様とのダンスはホント大変だった……。
テンポの速い音楽、シャープでスタッカートな動き、しかも、カックンって感じに急激な方向転換を含むのよ……っ!
必死になって踊った記憶しかない。
で、ランディア王国でのダンスとは……ルブルクセン王国よりもゆったりしている!
柔らかい曲調の音楽に合わせてふわっと回転。遠いか、回転が多い。くるくる回って、ドレスのスカートが花びらのように広がる。
ルーク様のリードも安定感があるし。楽しくって、にこにこしながら踊ってしまったわ……。




