第11話 商売になると思ったのに
商売になると思ったのに。
せっかくここまでがんばったのに。
私はぐっと手を握り締めた。
ここまでのことを無駄にはしたくない。なんとかしたい。
「薄利多売は……厳しいと思います。なんとか売り方を考えないと……」
従業員を雇って大量に保存花を作って、大量に売る。
既存のお花屋さんの売り上げの邪魔をするだろうし、そもそも見知らぬ国で従業員を雇えるとは思えない。
ルーク様やマダムのお力を借りれば雇えるかもしれないけど、たまたま知り合っただけの親切な人を頼りすぎてはいけない。
今はまだ、私一人で商売をして稼ぐことを考えないといけない。
マダムも考えてくれているみたい。独り言のようにつぶやいた。
「そう……ね。社交やお茶会。会場にはたいてい大量の花が飾られるわ。街のお花屋さんから買う場合でも、庭師に命じて屋敷の花壇から花を摘ませるのも、使用人たちは早朝からの準備で大変よね……。でも……、この保存花であれば、数日前から準備をしていても当日までに花は枯れない。使用人たちの手間暇を考慮する貴族であれば……」
なるほど、茶会。マダムの言葉を私は頭に叩き込む。売り込みようはあるかもしれない。諦めるのはまだ早い。
「だけど、そういう使い方をしても……、街のお花屋さんで売っている花より多少は値段を高く設定できるかもしれないけれど……。どうかしらねえ」
利益を得るためにはどう売るか……。
私もマダムも黙り込んでしまった。
いいアイデアはすっと思い浮かばない。
すると、それまで黙っていたルーク様がポケットからハンカチを取り出した。テーブルの上に置いて、きっちりと四つに畳みなおす。
「……マダム、すみません。保存花を一輪、お借りしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、構わないけれど?」
「では、その赤いバラを」
ハンカチの上に赤いバラを置く。更に取り出した懐中時計を丁寧に、赤いバラに寄り掛からせるようにして置いた。
「わあ……」
私は思わず声を出してしまった。白いハンカチと赤いバラ。そして、金色の縁取りがされた懐中時計。色の並びと配置が素敵だ。
「懐中時計を売る場合を想像してみてください。単に懐中時計だけが置いてあるのと、こうやって花を添えてみた場合。どちらが売れると思いますか?」
もちろん花があるほうに決まっている。
「花を売るのではなく、商品に花を添える。普通の花であれば、いづれ枯れる。枯れたら取り換えねばなりませんが、保存花であれば、数か月でも置いたままが可能。商品の飾りとして使えると思うのですが……」
飾り! 装飾! その発想はなかったわ!
「すごいです! ルーク様!」
「商品と飾りの花をセットで売ることが出来ればもっと良いかもしれません………」
ルーク様がぼそぼそと付け加えたら、いきなりマダムが立ち上がった。
「それよ!」
大きな声に、私とルーク様は驚いたんだけど……、マダムは従業員を数名呼ぶと何かを持って来るようと指示を出した。
何だろう?
でも、マダムの目が輝いている。
「ずいぶん前に、お父様がガラスの入れものをいくつも持ってきて、持て余していたのだけれど、きっと使えるわ!」
お父様……クライヴ・ユーバンク・クリス様が持ってきたということは……、なんらかの魔法が掛かった入れ物ってコト?
「軽量化したガラスの四角い入れ物なんてどうしようと思っていたのだけどねぇ」
「軽量化ですか?」
「ええ。ガラスって意外と重いでしょ? それを軽くした入れものというか、ふた付きの箱なのだけど」
あ、魔法使いが開発したものだからと言って、魔法が掛かっているわけじゃないのね。でも軽量化……。軽くしたのか、それはそれですごいような……。
話しているうちに、何人かの従業員たちがいろいろなものを持ってきた。
ええと……ワインのボトルを一本入れられるくらいの大きさの、ガラスの入れ物……が、二十箱くらい。
青や赤のベルベットの布。純白のシルクの布。
金や銀の糸で縁取りをされたリボン。
それからネックレスや指輪やイヤリング……は、きっと売り物よねえ……。
マダムはまず、ブルーベルベットの布をガラスの箱の中に敷いた。そして、
白薔薇の保存花を一輪、斜めに置く。その白薔薇に掛かるように、真珠にネックレスとイアリングを配置した後、ガラスのふたを閉めて、銀色のリボンをかけた。
「どう?」
「素敵です……!」
うわあ……、これ、このガラスの箱ごとプレゼントされたら嬉しいって思う!
「次は赤系統で作ってみようかしらね」
マダムは、次はガラスの箱の中に赤いバラを敷き詰めた。そして、その上に、イエローゴールド、シルバー、ローズゴールドの三色の腕輪を並べて置く。
一つ一つはシンプルな腕輪なのに、色違いで三つ、薔薇の上に並べたらすんごい存在感。
マダムは魔法のように次々とガラスの箱の中に、布と保存花とアクセサリーを並べていった。どれもみんな素敵!
作りながら、マダムが言う。
「保存花……は、分かりやすけれど、売り物としてはもう少し、なんていうか、センスのある商品名にしたいわね」
言いつつ、今度は可愛らしい黄色の花と指輪と組み合わせる。
んー、長期保存の花。枯れない花……。確かに商品名というよりは、商品の説明みたい。
「保存という言葉を、ランディアの言葉ではなく、エルミスやルブルクセン特有の言葉で表現してみるとかはいかがでしょう?」
ルーク様の提案に、ふっと思い浮かんだ言葉があった。
「プリザーブド……。ルブルクセンのあたりでは、保存という意味で使っています」
「ちなみに花は?」
「フラワーです」
ルーク様の問いかけに、私が答えたら、マダムがポンっと手を叩いた。
「プリザーブドフラワー! どう? 素敵じゃない?」
たしかに、保存花よりは商品名って感じがする。しかも売れそう。
「素敵です!」
「では、新商品のプレゼントセット、ガラス箱入りプリザーブドフラワー&宝飾品的に売り出してみましょう!」
とりあえず、十箱分作った後、マダムが笑顔で従業員たちに見せた。従業員の皆さんの顔も、これは売れそうだと書いてあるみたい。瞳が輝いている。
「これ、店に並べてちょうだい。アクセサリーだけ購入してもらってもいいし、ガラス箱ごと買ってもらってもいいわ」
「箱ごとの場合、売値はいくらにいたしますか?」
従業員との一人がマダムに聞いた。
「そう……ね、アクセサリーの値段に金貨二枚を追加して」
「かしこまりました」
「それから、自分でアクセサリーとプリザーブドフラワーと布を選んでもらって、箱入れしてもいいわ」
「はい、では早速」
「ああ、そうそう、プリザーブドフラワーは水やりも不要な特殊な品だから、そのままの状態で一か月以上放置しても艶々のままだと伝えたちょうだいね」
「はい」
あれよあれよという間に、セットされたガラスの箱はマダムのお店に運ばれ……、そして、十箱すべてすぐに完売してしまった。
その上、セルフオーダーで、これこれこういうセットが作りたいという客も五人ほどいて、その注文通りにマダムはガラスの箱に商品と保存花をセットしていった。
あっという間に、十五箱分が売れた……。
「新しい商品ですからねえ。売れる速度も速いわね」
「それにしても……、すごい」
商品にプラスして、それぞれに金貨二枚ずつ。ということは、ガラス箱と布とプリザーブドフラワーで金貨三十枚分……。うわあ……。マダムの商才がありすぎる……。さすが王都の一等地でお店を開き続けてきただけはあるわ……。
感心していたら、マダムが何やらテーブルに紙とペンとインクを並べだした。
そして、売り上げた金貨三十枚もその横に置く。
「さ、オードリーさん。契約いたしましょう」
「へ?」
「とりあえず、今回の売り上げとしては、この金貨三十枚は半々でいいかしら?」
「は、はんはん……?」
分からず首をかしげる。
マダムは金貨十五枚分を、私のほうにすっと寄せた。
「プリザーブドフラワーの代金。オードリーさんの取り分ね」
「ええ⁉」
私が持ってきたもは、マダムに見てもらおうと思ったもの。つまり、マダムに差し上げたものだ。
「ま、待って下さい! その花は、初対面のご挨拶と商売のための相談見本的な感じで……」
お金をいただくつもりで持ってきたものではない。
「でも、売れたわ。あなたの保存花付きだからこそ、この勢いで売れたのでしょうし」
「いえ! マダムの組み合わせ方が良かった……、それに最初のアイデアはルーク様……。ルーク様こそが受け取るべき……」
ルーク様は「自分は思い付きを告げただけですから」とあっさり辞退。ど、どどどどうしよう……!
「今後も同じように継続して商売としてお願いしたいのよね」
「継続して私のプリザーブドフラワーを使っていただけるのは嬉しいですけど、それで金貨十五枚……は、さすがに貰いすぎです!」
ああだこうだと言いあった結果。
プリザーブドフラワー一本につき、銀貨一枚で買い取りとなった。
買い取った花はマダムのお店で自由に使う。そして、週に一回、できた花をマダムの店に届けると言うことで話はついた。
契約書もきちんと交わした。
ありがたすぎる。
しかも、だ。
「現状のプリザーブドフラワーは一輪につき銀貨一枚で取引をさせていただくけれど。色目が均一ではなく、もっと自然な色のままの花が出来たのならば、そちらは一輪につき、金貨一枚で取引をさせていただくわね」
マダムは、私に向かってウインクをしてみせてくれた。わあ……! 期待されている? がんばらないと!




