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終わった世界をキャンピングカーで。~白と黒の少女の、気ままな終末紀行~  作者: 月夜るな


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9/18

Route:009 - ふたりのイヴ



「町の次は、なんか草原っぽいところに出たねー」

「ん」


 私がハンドルを握りながら呟くと、ルナが短く同意した。

 地方都市の廃墟を抜け、さらに内陸へと進むと、景色は一変した。視界一面に広がる、緑、緑、緑。建物の残骸もちらほら見えるけれど、その大半が背の高い草に埋もれている。

 風が吹くと、緑の絨毯が波打つようにざわめいた。


「これ、元は田んぼだった場所かな」

「ん。多分そう」


 何となく分かる。

 この高い草を全部「稲」に変換して想像すると、かつてののどかな田園風景が浮かび上がってくるからだ。

 私たちが今走っている少し高くなった道路は、恐らく堤防か、広域農道だった場所だろう。だとしたら、あの茂みの先には用水路か川があるはずだけど……わざわざ確認しに行くのは面倒かな。


「水とかはまだあるよね」

「ある。町でタンク満タンにした」

「だよね。水は大事だから」

「ん」


 川があるなら水を調達できるけれど、今のところ貯蓄は十分だ。

 二人だけで、しかも徹底した節水生活をしているから、そう簡単には減らない。

 

 こんな世界になっても、私たちは人間だ。

 シャワーもトイレも完備されたキャンピングカーの中にいるとはいえ、さすがに野生動物みたいに裸で過ごすわけにはいかない。

 ……まあ、誰も見てないんだから裸でもいい気はするけど、そこは「人間としての尊厳」の問題だ。ドン・ペンギンで手に入れた新しい服もあるしね。


「ん……」

「どうかした?」

「ううん。何でもない。ただ……外の気温、25度」


 ルナがコンソールの温度計を見て言った。


「夏日だね。でも猛暑でもない。過ごしやすいほうだよ」

「うん。近年の夏は、平気で30度超えてた」

「私が覚えてるニュースだと、40度近い日もザラにあった気がする」

「ん。外に出たら死ぬ暑さ」


 それを考えると、今の気候は大分マシだ。

 まだ6月とはいえ、かつてはもっとジメジメとして不快だったはず。

 人間がいなくなって排熱が止まり、アスファルトが緑に覆われたことで、地球が本来の涼しさを取り戻したのかもしれない。


 カーステレオからは何も流れない。ラジオをつけても「ザーッ」というホワイトノイズが響くだけ。本当に、世界は静かになった。


「どうして私達は、取り残されたんだろうね」


 直線の道路を走りながら、私はふと口にした。


「分からない……本当に」

「だよね」


 この終わってしまった世界に、私たち二人だけが取り残された理由。

 それを答えてくれる神様も、AIも、もういない。環境破壊を続けてきた人類を排除して、地球をリセットしたかった?

 それは分かる。自然の回復力を見れば、私たちが「邪魔者」だったのは明らかだ。


 ――でも、だからこそ分からない。


 私もルナも人間だ。地球を汚してきた人類の一員だ。それなのに、どうして私たちだけが無事なのか?


「……」


 考えるだけ無駄なのも分かっている。復興なんて不可能な人数で残されて、何をしろと言うのか。


「新世界のアダムとイヴになれってことなのかな?」

「ん……それだと、生物学的に詰んでる」

「あはは、確かに」


 女の子同士で何をしろと。

 子孫を残す? 無理無理。iPS細胞の研究室でも残っていれば別だけど、そんな技術私たちにはない。


「私達、どっちもイヴ」

「だよねえ」

「……でも」


 ルナが小さな声で呟く。


「……ユキとなら」

「ん?」

「何でも、ない……」

「そう?」


 ちらりと横目で助手席を見る。

 ルナが俯いて、膝の上で手をぎゅっと握っている。

 ……あれ? なんか顔、赤くない?


「ルナ、顔赤いよ?」

「えっ」

「もしかして、熱ある?」


 私は慌ててハザードランプを点灯させ、車を路肩に寄せた。

 こんな医療設備の整っていない世界で、病気は命取りだ。ただの風邪でもこじらせたら大変なことになる。


「一旦休もう。薬箱、後ろにあったよね」

「ち、ちがう。大丈夫」

「大丈夫じゃないよ、耳まで赤いし。おでこ触るね」

「んぅ……」


 シートベルトを外して身を乗り出し、ルナの額に手を当てる。

 確かに少し熱い気がするけど、高熱というほどじゃない。


「……ユキのばか」

「えっ、私!? なんで!?」

「……にぶい」

「鈍いって……熱の判断が?」


 ルナは「はぁ」と大きなため息をつくと、拗ねたように窓の外を向いてしまった。

 どうやら熱ではない……らしい?

 うーん、やっぱりルナの考えていることは、時々よく分からない。


「とりあえず、ちょっと休憩しよっか。冷たいお茶でも飲む?」

「……ん。飲む」


 緑の海原の真ん中で、私たちはしばしのティータイムを取ることにした。

 理由わけも分からず残された二人のイヴ。楽園の果実はまだ見つからないけれど、冷えた麦茶はとびきり美味しかった。


(続く)

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