芸能事務所からのスカウト
●あらすじ6 43話~44話
超能力者だけの学園、異能学園へ転校した育雄たち。
建物は立派で設備も充実。
それに苦労人が多い超能力者はいい人ばかりでクラスメイトも最高。
と、思ったのも束の間。
文部省からの横やりで、クラスは筆記試験後、成績順で決めると言う。
しかし、桐葉たちヒロインは皆、成績優秀。
彼女たちと同じクラスになるには、好成績を収めなくてはいけない。
こうして育雄の試験対策が始まった。
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収録が終わると、現場の空気が一気に緩み、ゲストたちは挨拶をし合いながら撤収、さっきの女性タレントは苛立った様子でこちらを一睨みしてから、ARディスプレイを操作するように指を動かしながら、足早にスタジオから出て行った。
「おつかれ、ハニー」
舞台袖から桐葉が出てくると、何故か頭をなでられた。なんだか子ども扱いされているような気がしないでもないけど、気分が良いのでされるがままにしておく。
「詩冴も大変だったね」
「平気っすよ。ああいうのは永遠に絶滅しませんから。まっ、気にせずシサエは今日も明日も生態系維持のために外来種を駆除していればいいんすよ。相手にする必要も勝つ必要もないんす。カメラがあったから反論したけど、ど」
途端に、詩冴は肩を縮めて震え始めた。
「だだ、大丈夫っすかねハニーちゃん? 明日からシサエの家が炎上したりしないっすかね?」
「物理的には炎上しねぇよ。いいから落ち着け」
「じゃあ安心をくださいっす」
むぎゅっと、詩冴は俺の胸板に顔をうずめてきた。
「こら、甘えるな」
「冷たくしちゃいやっす。白うさぎは寂しいと死んじゃうんす」
「ならお前は平気だな。人間だし」
「正論ハラスメントはノーサンキューっす」
「正論な時点でハラスメントじゃねぇからな?」
俺らがもちゃもちゃとしていると、ふと、誰かが近づいてきた。
さっきの女性タレントが戻って来たのかと思ったが、どうやら男性らしい。
「君たち、ちょっといいかなぁ? ぼく、こういうものなんだけど」
眼鏡をかけた小太りの男性は、満面の愛想笑いを浮かべながら、MRのデジタル名刺を差し出してきた。
どうやら、芸能事務所の社長らしい。
「君たち、芸能界と興味ないかい?」
「芸能界って、俺らがですか?」
俺が訝しむと、社長さんは勢いよく手を鳴らした。
「そお! 今、注目の最強超能力集団、ユニークホルダー四天王! それに正義の番人有馬真理愛ちゃんに奇跡の美少女針霧桐葉ちゃん! 売れるよ君たちぃ!」
いかにも過ぎて胡散臭い語調に、俺はつい眉をしかめてしまった。
真理愛のおかげで芸能界の黒い部分は一掃されつつあるが、それでも、俺は芸能界によい印象がなかった。
「とかなんとか言って、本当はマリアちゃんのせいで所属タレントやアイドルに穴が空いたから代わりが欲しいだけなんじゃないっすか?」
詩冴の指摘に、社長は一瞬、表情を硬くした。
「そんなことないさ。ぼくは君らのカリスマ性を見込んでスカウトしているんだから」
「俺はお断りですよ。みんなと違って美形でもないし絶対浮くし、有名税で何されるかわかりませんし。有名税とか言ってやりたい放題な人とか最低じゃないですか。なぁ(俺の恥ずかしい動画を保存した)美稲!」
「そうそう、有名税なんて最低だよね」
焼き印を押し付けるように、語気を強めて彼女に言ったが、美稲はノーダメージだった。
俺は心の中で膝をついた。
「シサエも芸能界には興味ないっす」
「じゃあ有馬さん、僕らでやろうか? テレビで犯罪防止を訴えれば、仕事にもプラスになると思うんだ」
「テレビに出る時間で念写をしていたほうが効果があると思います」
だんだん伊集院が可哀そうになってきた。
同情の念すら浮かんでくる。
総すかん状態の社長は、最後の希望である桐葉に顔を向けた。
でも、桐葉の表情は冷めきっていた。
「ボクもいいかな。ていうかテレビに出たくないし」
無関心な息を漏らしてから、桐葉はトゲを含むように言い捨てた。
「他人に愛想振りまいて媚びを売りながら生きるとか地獄じゃない?」
そう言って、桐葉は俺の手を取った。
「じゃあハニー、早く総務省に戻ろうよ」
「おう」
俺らがぞろぞろと控室へ向かうと、背後からは「気が変わったらいつでも連絡ちょうだいよぉ!」という声が聞こえてきた。
けれど、桐葉はつまらなさそうな顔で、MR名刺を真理愛に差し出して言った。
「真理愛。あの社長、悪いことしているんじゃない?」
「お待ちください」
桐葉から受け取ったMR名刺の名前、会社名に目を通してから、真理愛は頷いた。
「はい。彼は違法な契約で何人かのアイドルをAV業界に売り飛ばしているようです」
「やっぱりね。どうせ、真理愛を抱き込めば、犯罪動画を投稿されないとか考えたんだろうね。真理愛、その証拠、今日中に投稿してやりなよ」
「今、投稿し終わりました」
「流石、仕事が早いね」
桐葉の口元には、ニカリと白い歯が光った。
今の桐葉は、ちょい悪風だ。
「でも、桐葉は美人だからアイドルになったら、本気で人気出そうだよな?」
俺が冗談めかして言うと、桐葉は鼻で笑った。
「アイドルなんてごめんだね。だって恋愛禁止なんだろ? ボクは18歳の誕生日にハニーと結婚する予定なんだから、さっ」
伸びてきた桐葉の腕が首回ると、乱暴に抱き寄せられてしまった。
桐葉の横髪に頬が触れて、甘い匂いが鼻腔に流れ込んでくる。
不意打ちで放たれた結婚というワードも相まって、俺は嬉し恥ずかしさで頬を硬くしながら口の中で唇を噛んでしまう。
「ふふ、ハニー硬くなっているよ?」
「え!?」
俺が自身の下半身を意識した直後、桐葉は舐めるように蠱惑的な声音を、耳の中に流し込んできた。
「頬がカチカチ」
細い指先で頬を突かれて、俺は顔がじんじんするほど熱くなった。
「お、お前なぁ~~」
精一杯の怒り顔を作って睨むも、桐葉は涼しい顔だ。
「ん~、ボクはただハニーの頬が硬いよって言っただけだよぉ~?」
――ぐっ、なんて小憎可愛い! くそっ、今に見ていろ! 18歳になって結婚したら絶対に力関係を逆転させてやる! 女王バチ陛下に市民革命を見せてやる!
という俺の心の声が、真理愛のMR画面にあますことなく表示されていた。
「真理愛ぁあああああああ!?」
「へぇ、ハニーってば大胆なんだから。ねぇハニー、市民革命はお風呂場とベッドのどっちで起こすの?」
「そ、それは、その……」
「ハニー君、18歳までは我慢しないとダメだよ?」
「美稲、最近お前マジで意地悪になってきていませんか?」
「気のせいじゃないかな?」
「キリハちゃん、シサエと一緒にベッドの中で市民革命対策をするっす!」
「お前はキリハに近づくな!」
俺が両手で空手チョップのジェスチャーをすると、真理愛が虚空に向かって返事をした。
「はい、真理愛です……あ、舞恋さん……え? はい。だからブラのカップ数には触れませんでした……お尻については何も言われなかったので。私は約束を守る女なんですよ」
むん、と胸の前でガッツポーズを作る真理愛。
俺は、舞恋に黙とうを捧げた。




